本記事は、桑原晃弥氏の著書『逆境を打ち破る イチローの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

自分は幸せな人間だと思う。
不幸な人間って、何事も何の苦労もなくできてしまう人でしょ。
でも、それでは克服の喜びがなくなってしまう
――『イチローの流儀』
世の中にはとても器用な人がいて、普通ならある程度の時間がかかることでも、ちょっと教わるだけでできるようになる人がいます。そういう人を見ると、「うらやましいな」と思いますが、時には時間がかかることが強さにつながることもあるようです。
「史上最高のサブマリン」と称される山田久志(通算284勝)は、オリックス・ブルーウェーブの投手コーチを務めていたこともあり、イチローとも親交がありますが、若い頃にシンカーを身につけようと先輩に教えを請いに行ったところ断られます。仕方なく自分で試行錯誤しますが、試合で投げられるレベルに仕上げるには実に3年もの時間を要しています。
先輩が教えてくれればもっと早くに身についたはずですし、あるいはもっと短期間で要領良く身につける方法もあったのかもしれませんが、それだけの時間をかけ、自分なりに考え、悩みながら工夫を重ねたことで山田にとってシンカーは究極の武器になります。後年、教えることを拒否した先輩は、苦労したからこそ山田は最高のシンカーを手にしたと振り返っています。
今の時代、タイパとか時短が重視されがちですが、それなりの時間をかけ、苦労しながら努力する、その過程も案外大切なのではないでしょうか。イチローは言います。
「自分は幸せな人間だと思う。不幸な人間って、何事も何の苦労もなくできてしまう人でしょ。でも、それでは克服の喜びがなくなってしまう」
イチローは中学でも高校でも打つことに関して圧倒的な成績を残しています。オリックスに入団してからも、2年間は1軍と2軍を行ったり来たりしていますが、成績は決して悪いわけではありませんでしたし、周りの選手たちもイチローの才能を高く評価していました。しかし、それを可能にしたのは小学校時代の「伊勢山グラウンド」での練習の日々と、毎日、欠かすことなく通ったバッティングセンター「空港バッティング」での打ち込みです。MLBでも周りからは
アメリカの野球殿堂入りを果たした際、イチローは「人よりも劣っている能力をどう上げていけばいいのか、今も探り続けている」と話していますが、才能の
- ワンポイント
- 「要領良く」もいいが、「時間をかけて」こそ本当に身につくものもある。
何事も前向きに行動することが可能性を生む
――『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000―2019』
イチローは現役引退後、毎年、全国のいくつかの高校の野球部を訪ねて指導を続けています。
富士高校のグラウンドからは富士山が見えます。午前中に見えなければ、午後も見えないことが多いのですが、それでもイチローが訪ねた日は午後になって晴れ、富士山がとてもきれいに見えたといいます。監督が「やっぱりイチローさんは持ってるよ」と言うと、イチローは選手たちに向かってこう語りかけます。
「うん、持ってるよ、僕はいつだって陽だから何かが降ってきそうでしょ」
下を向いていると何も降ってこないが、元気を出せば自分で何かを
イチローによると、どちらかと言えば運命を信じる方だし、運命の神様にも「僕を選んで」といつも思っているといいます。そのためには日々の努力も欠かせませんが、どんな時にも「前向きに行動する」ことも大切だと考えています。
第1回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本は韓国に2度目の敗北を喫して、準決勝に進出できるかどうかは、アメリカ対メキシコ戦の結果次第という、自分たちには何もできない状況に追い込まれます。この日、イチローは朝早くからロサンゼルスのロデオドライブまでドライブに出かけ、明るい水色のベルトが印象的な限定モデルの腕時計を買っています。
敗北を喫した夜、イチローはチームのスタッフと食事に出かけて、そのまま飲みに行き、目茶苦茶荒れたといいます。ホテルに帰ったのは夜中の3時でしたが、朝、目が覚めるとコーヒーだけを飲んで出かけています。MLBで一緒にプレーしている選手たちの失敗を期待するのは嫌だからと、試合を観ることはせず、買い物に出かけた先で「ラッキーアイテム」に出合えたことを喜びます。イチローは言います。
「何かを呼び込むかもしれないでしょ。いじいじしているよりも、思い切り遊んだ方が、運を呼び込んでいい方に回って行くんじゃないかって」
最終的に日本は奇跡的に準決勝に進み、韓国とキューバに勝利して優勝を決めます。「何事も前向きに行動することが可能性を生むんだな」はイチローの弁ですが、たしかに厳しい状況であっても気持ちだけは前向きにということが大切なのかもしれません。
- ワンポイント
- つらくても下を向かない。無理やりにでも前を向こう。
挫折のない人の話なんて全然おもしろくないし、魅力的でもない。
それこそが財産となるものです
――『Number』1072
企業でトップになる人の中には入社以来順調にエリートコースを歩んでトップに上り詰めた人もいれば、慣れない海外でさまざまな苦労をしたり、業績不振の子会社や関連会社の再建を担うといった厳しい経験を経てトップに
イチローは高校時代は「他のチームメイトよりも、はるかに練習していない」と振り返っているように、プロ入りするまでは大好きな野球の技術を懸命に磨いてはいるものの、大きな挫折や苦労は経験していません。プロ入りしてからも最初の2年間こそ、二軍に落とされて悔し涙を流すほどのつらさは経験しても、打てないと感じるほどのボールには出合わなかったほど高い技術を誇っています。
3年目からの活躍はプロ野球の歴史に残るほどの見事なものでした。もちろんその間もさまざまな悩みや試行錯誤があったわけですが、やはりイチローが本当の意味でしんどさを経験するのはMLBに移籍してからです。最初のマリナーズ時代、イチローは「自分は孤独を感じながらプレーしている」と話していたように、移籍1年目以外はイチローがどれほど走攻守に活躍しても、チームが思うように勝てない日々が続き、イチローに対して「自分のことだけを考えている」といった批判が寄せられることもありました。
それでもイチローはこうした経験を前向きに捉えて、こう話しています。
「つらいこと、しんどいことから逃げたいと思うのは当然のことなんですけど、でもエネルギーのある元気な時にそれに立ち向かっていく、そのことはすごく人として重要なことなのではないかなと感じています」
さらにこんなことも話しています。
「(挑戦すれば)もちろん失敗することもあるけど、目的を達成するためには必要だし、それが自分を高めてくれる方法でもあるんです。挫折のない人の話なんて全然おもしろくないし、魅力的でもない。それこそが財産となるものです」
挑戦をしなければ失敗もない代わりに失敗からたくさんのことを学ぶことはできません。失敗をしたくないから、つらいことはしたくないからと挑戦を避けて生きるか、失敗や挫折から学ぶか。どちらを選ぶかで人は随分と違う存在になるのです。
- ワンポイント
- つらいから、しんどいからと安易に逃げない。失敗も財産になる。

著書に『栗山英樹の言葉』(リベラル社)、『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(以上、ぱる出版)などがある。
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- 苦しんだからって報われると思っていたら、大間違いーー イチローの名言
- 自分のためにプレーするのがプロ、プロが集まればチームは勝てるーー イチローの名言
- 喜んでくれる人がいるからこそもっと頑張れるーー イチローの名言
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