この記事は2025年6月27日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「ロシアから事業撤退が相次ぐも、「稼げる」市場への期待も残る」を一部編集し、転載したものです。


ロシアから事業撤退が相次ぐも、「稼げる」市場への期待も残る
(画像=Kalyakan/stock.adobe.com)

(ジェトロ「海外進出日系企業実態調査(ロシア編)」ほか)

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアに進出する日系企業を取り巻く環境は一変した。侵攻直後から日系企業の事業の停止や撤退が相次いでいる。

ユニクロは10年にモスクワに1号店を開店した。それ以降は、地方主要都市にも店舗網を拡大させ、ロシア国内に約50店舗も展開していた。しかし、22年3月には全店が営業停止を余儀なくされた。サンクトペテルブルクで乗用車を生産していたトヨタ自動車も生産を終了させ、23年3月に現地組織へ事業譲渡を完了した。日産自動車やマツダ、いすゞもロシアでの自動車生産から撤退している。

モスクワにある日系企業が主に加盟する団体であるジャパンクラブの法人会員数は、侵攻直前の22年1月末時点で181社だった。これまで最多だったのは18年3月の198社だったが、25年1月末時点では130社となり、最盛期から34%、侵攻直前から28%も減少している。

ジェトロが24年9月にロシア進出日系企業を対象に実施した「海外進出日系企業実態調査(ロシア編)」で、今後1~2年の事業展開の方向性を聞いたところ「拡大」が3.4%、「現状維持」58.6%、「縮小」24.1%、「第3国へ移転または撤退」が13.8%となった(図表)。撤退傾向はある程度続くものの、現状維持と縮小の合計は8割を超えており、残留の意向を示す企業も存在する。

今年1月には、米国で第2期トランプ政権が発足し、米ロ間の対話が活発になったことで日系企業の間でも国際情勢の変化に対する期待が高まった。ただ、同月にジェトロが実施した「ロシア・ウクライナ情勢下におけるロシア進出日系企業アンケート調査結果」によると「期待はあるものの企業自体に新たな動きはない」という回答が94.0%に上った。ほとんどの企業は、過度な期待を持たずに情勢を様子見していることがうかがえる。

ロシア事業再開に向けて動き出す要因には「日本や西側諸国の対ロ制裁解除」「停戦」「レピュテーションリスクが生じない雰囲気の醸成」が上位に挙がった。すなわち、停戦だけでなく、制裁解除や社会的な対ロ姿勢の改善など、複数の要素に変化が起きないと再開は難しいということだ。

今のところ停戦協議は米国の仲介も功を奏さず、5月から再開したロシア・ウクライナ間での直接交渉でも双方の主張が相いれないままだ。多くの日系企業は、市場規模や成長性を評価してロシアに進出した。実際、他の国・地域と比べて黒字化を達成する比率が大きく「稼げる」市場だったことから、市場を捨てずに残留する企業が存在する。これらの企業にとっては、今後も耐え忍ぶ時期が続くとともに、局面によってはさらに難しい判断を迫られる。

ロシアから事業撤退が相次ぐも、「稼げる」市場への期待も残る
(画像=きんざいOnline)

日本貿易振興機構(ジェトロ) 調査部欧州課 主幹(ロシアCIS)/浅元 薫哉
週刊金融財政事情 2025年7月1日号