アンカリング効果の4つのリスク

現代では多くの企業がアンカリング効果を活用しているが、実は注意すべきリスクや問題点も潜んでいる。

1.二重価格表示は法律違反になることも

割引前・割引後の金額を同時に表示する「二重価格表示」には、必ず守らなくてはならないルールが存在する。

<二重価格表示のルール>

比較対象として表示する金額が、以下のいずれかに該当すること。

(1) 同商品の過去の販売価格
過去、同じ商品について最近相当期間販売していた価格を表示すること。「最近」とは、過去8週間、またはそれ未満の場合は当該期間を指し、表示する過去の販売価格で販売されていた期間が、その商品の販売期間の過半を占めていれば「最近相当期間販売していた価格」に該当する。

ただし過去の販売価格で売られていた期間が通算2週間未満、あるいはその価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合は「最近相当期間販売していた価格」とはいえない。

(2) メーカーの希望小売価格
公表されている希望小売価格を表示すること。

(3) 競合他社の販売価格
他社販売価格を表示する場合は、競合他社の名称と実際の販売価格を表示する。また市価を表示する際は、地域内の相当数の競合他社が実際に販売している価格を表示すること。

参考:消費者庁「二重価格表示

つまり、過去に1万円で販売した経験がないにも関わらず、割引前の価格を「1万円」と記載するような行為は許されない。もし上記のルールを破ると、景品表示法違反とみなされる恐れがある。

2.アンカリング効果が発生しない商品もある

アンカリング効果は必ず発生するものではなく、その効力は商品の特性によって左右される。

例えば、一般的に参考価格が広く知られている商品は、すでに消費者が情報を手にしているため認知バイアスが生じづらい。具体的なものとしては、お茶やコーヒーなどの飲料、一般家庭でよく食べられている菓子類などが挙げられる。

また、国内で行われた実験では、単なる数値(単位がないなど)や意味活性を誘発する言葉(高い、低いなど)だけでは、アンカリング効果が現れないと考察されている。

参考:日本認知科学会「アンカリング効果の発生に必要な要素の検討

ここまでの内容をもとに、以下ではアンカリング効果が発生しない条件をまとめた。

<アンカリング効果が発生しない条件>

・なにを表すのか分からない数字がアンカーになっている
・意味活性を誘発するだけで、明確に比較できる対象がない
・対象の人物に十分な専門知識や経験がある

アンカリング効果をビジネスに活かす場合は、商品・サービスの特性を踏まえて、適切なアンカーを設定することが重要だ。

3.消費者が慣れると効果がなくなる

商品を同じ価格で販売し続けると、消費者がその割安感に慣れてしまう恐れがある。

具体例としては、通販番組の配送料をイメージすると分かりやすい。今では「配送料無料」をアピールする商品が珍しくなくなった影響で、一部の消費者は「配送料は無料で当たり前」と感じているはずだ。このような状況で配送料を有料にすると、たとえそれが低額であったとしても消費者は割高感を覚えてしまう。

つまり、アンカリング効果は同じ商品に長期間働くものではないため、価格や商品内容などは定期的に見直す必要がある。

4.ほかの商品にも影響を及ぼす

アンカリング効果を活用する際には、ほかの商品への影響も考慮しなければならない。

例えば、アンカリング効果を働かせる商品Aと、通常価格で売り出す商品Bが存在したとする。2つの商品を同じ場所に陳列すると、多くの消費者は「商品Bは価格が高い」と感じるはずだ。

つまり、アンカリング効果を働かせない商品は売れにくくなるので、場合によっては事業全体での収益が下がってしまう。経営を安定させるには、扱っている商品・サービスをバランス良く売り出すことも重要になるため、戦略を立てる際には「ほかの商品との兼ね合い」も強く意識しておきたい。