この記事は2024年1月28日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「兼松【8020・プライム】」を一部編集し、転載したものです。

「兼松モデル」の改革から20年、過去最高益を更新中
グループ一体経営を強化しDX、GXを推進

2024年8月で創業135周年を迎える老舗総合商社の兼松。同社の利益が前期に引き続き、今期も過去最高を更新する見込みだ。かつて10大総合商社の一角を占めた同社はバブル崩壊後に一時失速したが、その後大規模な事業の選択と集中を行い復活を遂げた。現在は重点施策として「DX」「GX」に注力する。昨年度は兼松エレクトロニクスと兼松サステックをTOBで100%子会社化し、グループ一体経営の事業基盤強化も進めている。宮部佳也社長に総合商社としてのこれまでと今後について聞いた。

▼宮部 佳也 社長

兼松【8020・プライム】
(画像=株主手帳)

食品から宇宙まで4部門展開
非資源特化の安定収益構造

同社の2023年3月期の連結業績は、収益9114億800万円(前期比18・7%増)、営業利益388億9600万円(同32・5%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益185億7500万円(同16・2%増)。前期に引き続き増収増益で着地し、営業利益と税引前利益は過去最高を更新した。

部門別の収益構成比は、「電子・デバイス」が31%、「食料」が37・4%、「鉄鋼・素材・プラント」が21・2%、「車両・航空」が8・9%。営業利益の構成比は「電子・デバイス」が52・3%、「鉄鋼・素材・プラント」が31・7%、「食料」が10・5%、「車両・航空」が3・8%。日用的な食品から、先端技術のITや宇宙関連まで幅広い分野で事業を展開する。非資源事業に特化しているため、他の総合商社と比較して資源市況に左右されにくい安定的な収益構造が特徴だ。

足元の業績は、市況上昇を受けた食糧事業や鋼管事業、原油価格の上昇により原油・石油製品の取引高が増加したエネルギー事業を中心にほぼすべての事業において増収となった。特に米国シェールオイル・ガスの鋼管事業は米国内エネルギー投資伸長と鋼管価格上昇により好調に推移したほか、ICTソリューション事業や食糧事業が好調だった。

2024年3月期は、連結収益9600億円(前期比5・3%増)、営業利益405億円(同4・1%増)、税引前利益360億円(同0・9%増)、当期利益235億円(同26・5%増)を予想。達成すれば3期連続の増収増益となり、全ての利益で過去最高を更新する。

「今期は当期利益のジャンプアップを考えています。兼松エレクトロニクスと兼松サステックをTOBで100%子会社化した分がプラスになります。それを除いてもコロナ禍から復活したビジネスもあり、それが一番の増益要因です。総還元性向は30~35%の方針ですが、当社は配当利回りが良いのでそこは維持していきたい。TOBによるネットDERの毀損部分は3年で1・0倍程度にする目標を立てた上で事業投資をしていきます」(宮部佳也社長)

99年大規模構造改革に着手
2013年に15期ぶりの復配

同社は1889年(明治22年)に、創業者の兼松房治郎氏が神戸で「豪州貿易兼松房治郎商店」を創業したのが始まりだ。日豪貿易のパイオニアとして、当時羊毛輸入の4~5割を担い、明治から昭和にかけて日本の貿易発展の礎を築いた。戦後は高度経済成長に伴い事業を多角化し10大商社の一角を占めた。しかしバブル期の過大な不動産投資の結果、バブル崩壊後には事業の立て直しに専念することとなった。

1999年から経営体質の強化を目的に、大規模な構造改革に着手。祖業の繊維事業や不動産事業からは完全に撤退し、自社の強みが発揮できるIT、食料、ライフサイエンス・エネルギー、鉄鋼・プラントの4分野に経営資源を集中させた。

「祖業も撤退して会社としては思い切った決断だったと思います。本社の従業員だけを見ても、早期退職やグループ会社に異動していただき3分の1まで規模を縮小しました」(同氏)

構造改革から10年余りを経た2013年、同社は15期ぶりの復配を行い、企業経営復活の成功モデルとして「兼松モデル」と称されるほどの復活を遂げた。

これを境に攻めの経営へと転じる。専門性の高い分野でのM&Aや事業拡大などを実施した結果、鋼管事業やICTソリューション事業などが収益柱の一つとなる事業へと拡大。グループ全体で安定した財務基盤を維持しながら、成長を続ける現在のビジネスモデルへと移行していった。

「商社ですから浮き沈みはありますが、当社は今でも『商社本来のトレーディングビジネス』を重要視しています。現在、取引先が国内外に2万社以上あり、当社の従業員が日々出入りしています。トレーディングビジネスはつまり行商です。そこで構築した関係や得られる情報は当社の財産であり、それがあるから次の一手を講じることができます。大手総合商社は投資ビジネスに軸足が移っていて、専門商社は当社ほど幅広い分野で事業をしていません。その点で他社とは一線を画すユニークな存在になっていると思います」(同氏)

兼松【8020・プライム】
(画像=株主手帳)

DXとGX推進が重点施策
24年の純利益235億円目標

同社が現在重点施策と位置付けているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と、脱炭素社会に向けた「GX(グリーントランスフォーメーション)」の推進だ。

2023年3月にはTOBを実施し、同社の上場グループ会社だった兼松エレクトロニクス(KEL)と兼松サステックを100%子会社化した。前者はグループのICTソリューション事業を担い、後者は環境・サステナビリティに資するビジネスを行っている。DX、GXにそれぞれ強みを持つ両社を100%子会社化することで、グループ間のシナジーを深め長期的な成長を図ることが狙いだ。

「今回100%子会社化したことで重点的にリソースを投入できるようになりました」(同氏)

宮部社長が狙うのは全従業員が高度なデジタルリテラシーを持ち併せることだ。同社グループの従業員約8000人のうち、約6割が電子・デバイス部門に属する。さらにITリテラシーを高めるため、他分野の従業員が1年間KELに出向するなど、全社を挙げてDXを推進できる人材育成に注力している。

「今後大きなリターンを得られる可能性も出てきます。例えば当社の畜産事業では、まだまだ紙でやりとりしている事業者も多い。そこで畜産とKELの担当者が一緒にDX化の提案をすれば新たなビジネスが生まれますし、人的資本経営としてもそこは強化したい。ITリテラシーが高い人が増えるほど、当社の大きな武器になり資産になります。そこでまた加速していくと思います」(同氏)

創業135周年にあたる、24年3月期を最終年度とする中期ビジョン「future135」では、最終年度の連結当期利益235億円、ROE17・2%、総還元性向32%を見通しとしている。

「新しい技術や事業、スタートアップを探すために米国シリコンバレーに設立したKanematsu Venturesも機能し始めています。今世界の時価総額のトップ10はほとんどがシリコンバレーのベンチャー企業です。ここに目を向けない手はありません。次の中計にも取り組んでいますが、お楽しみにしていただければと思います」(同氏)

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兼松【8020・プライム】
(画像=株主手帳)
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(画像=株主手帳)

2023年3月期 連結業績

収益9,114億800万円18.3%増
営業利益388億9,600万円32.5%増
税引前利益356億9,600万円24.1%増
親会社の所有者に帰属する当期利益185億7,500万円16.2%増

2024年3月期 連結業績予想

収益9,600億円5.3%増
営業利益405億円4.1%増
税引前利益360億円0.9%増
親会社の所有者に帰属する当期利益235億円26.5%増

※株主手帳24年2月号発売日時点

宮部 佳也 社長
Profile◉宮部 佳也 社長(みやべ・よしや)
1982年米・南カリフォルニア大学卒。83年兼松江商(現兼松)入社。電子機器部長を経て2012年取締役、電子・IT部門副担当。13年取締役、車両・航空部門担当。14年執行役員制度拡充に伴い取締役退任、常務執行役員、車両・航空部門担当。18年取締役、専務執行役員、車両・航空部門長、大阪支社長、名古屋支店長、先進技術・事業連携担当。21年代表取締役社長(現任)