特集『令和IPO企業トップに聞く〜経済激変時代における「上場ストーリーと事業戦略」』では、令和以降に新規上場された経営者にインタビューを実施。 上場までの思いや今後の事業戦略、思い描いている未来構想について各社の取り組みを紹介する。

企業名アイキャッチ
(画像=株式会社ハルメクホールディングス)
宮澤 孝夫(みやざわ たかお)
株式会社ハルメクホールディングス  代表取締役社長
東京大学大学院工学系研究科修了後、野村総合研究所へ入所。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校経営大学院でMBA取得後、ボストンコンサルティンググループに入社。1996年、(株)テレマーケティングジャパン(現(株)TMJ)に入社し、2003年には同社代表取締役CEOに就任。2009年、いきいき(株)(現(株)ハルメク)の民事再生からの再建を委任され代表取締役社長に就任。2014年に(株)全国通販(現(株)ハルメクα)の代表取締役会長にも就任。2018年4月、持株会社株式会社ハルメクホールディングスを新設し代表取締役社長に就任し、現在に至る。
株式会社ハルメクホールディングス
ハルメクグループは、「50代からの女性がよりよく生きることを応援する」という経営理念を掲げた企業です。
女性の皆さまが、人生の後半を元気に前向きに楽しく暮らせるようお手伝いすることこそが使命と考え、女性誌販売部数No.1(※)の雑誌「ハルメク」やウェブ「ハルメク365」などのコンテンツ事業、PB商品を中心とした物販事業、コミュニティ事業などを提供している企業体です。
※日本ABC協会発行社レポート(2023年1月~6月)

目次

  1. 創業から現在に至るまでの事業変遷
  2. 上場に至った背景や思い
  3. 思い描く未来構想
  4. ファイナンスにおける課題や重点テーマ
  5. 読者へのメッセージ

創業から現在に至るまでの事業変遷

ーー創業から上場までの変遷について教えていただけますでしょうか。

株式会社ハルメクホールディングス 代表取締役社長 宮澤 孝夫(以下社名・氏名省略): 簡単な変遷については、1989年にユーリーグという会社が設立されまして、創業時は編集プロダクションから始まり、『いきいき』という雑誌を発刊しておりました。当初はかなり好調だったのですが、経営破綻になり、J-STARというプライベートエクイティファンドがスポンサーとして事業を引き継ぎ、そのタイミングで私が参画することになりました。立て直しは非常にうまくいき、3年でJ-STARはノーリツ鋼機に売却しエグジットされました。その後、社名をハルメクに統一し、いくつかの過程を経て、2020年には経営陣による株式会社ハルメクホールディングスの株式買収(MBO)を実施。そして、2013年の3月にグロース市場に上場しました。

ーー事業はどういった変遷だったのでしょうか。

宮澤: 以前とそこまで大きな変化はないですが、主には情報コンテンツを提供するビジネスと、物販ビジネスの二本柱を主体としています。ただ、まだ拡大途中ですが、中身と規模が徐々に変わってきています。 情報コンテンツビジネスでは、定期購読の雑誌からスタートして、更に現在は『ハルメク365』という有料課金のサブスクモデルにトライしています。

物販についても、扱い量が以前に比べて非常に大きくなってきており、店舗の展開も進めております。また、まだ規模は小さいですがコミュニティビジネスにもトライしています。利益こそは直接的にはありませんが、雑誌の中で紹介したイベントとか講座などを通じて、お客様との関係性、エンゲージメントを強める効果は非常に大きく、この経路でも新たなお客様を獲得できないか、と模索しているところでございます。

ーーシニア層のネット普及率も今はかなり高くなっておりますが、雑誌「ハルメク」を大きく伸ばされた秘訣やマーケティングにおいてのポイントなどはあったのでしょうか。

宮澤 : いくつか要因がありますが、商品そのものの質を上げることです。どんなに販売戦略をうまくやっても、商品自体に魅力がなければ長続きしません。私たちの読者に役立つ興味深い内容の雑誌を作り続けることが基本中の基本です。例えば、お客様の潜在的あるいは顕在的なニーズを拾うだけでなく、同じような悩みを抱える方がどのように対処しているかなどの、読者にとって魅力的な内容を作り上げることを何よりも大事にしております。

また、広告との関係性についても重視しており、以前は収益性を考え広告スポンサーが取れることを重視し、記事や特集を考えていたのですが、それが読者のニーズとは必ずしも合わないことが多々ありました。私たちは、ここでも広告が取れるかどうかよりもまず、お客様のニーズに応える記事を作ることを優先するようにしました。物販の利益を雑誌の質を上げるために活用し、広告を取るためだけに記事内容を偏らせない方針を取ったということです。

ーー販売チャネルはどのように展開されたのでしょうか。

宮澤 : 定期購読の販売は新聞の帯広告を載せることが中心で、その他にインターネット広告、一部テレビ広告なども行っています。実際に、電話で注文される方が多かったのですが、ネット経由で注文される方の比率もそれなりの規模になってきており、アナログとデジタルをうまく組み合わせることを意識しています。

株式会社ハルメクホールディングス
(画像=株式会社ハルメクホールディングス)

上場に至った背景や思い

ーー上場をされた背景や狙いについて教えていただけますか。

宮澤 : 私たちの事業は、民事再生、マネジメントバイアウトを経ていたのでかなりの借入がある状況でした。大胆な投資や事業の自由度が低かった状況もあったので、投資の自由度を上げつつ資金を確保することが最大の狙いです。

思い描く未来構想

ーー今後の投資領域や成長戦略について教えてください。

宮澤 : まず私たちはただの雑誌社だとは考えておらず、お客様が必要としている情報を提供することが何よりもの目的です。現在は、雑誌だけではなくインターネットサービスのサブスクリプションで提供していくことを考えています。また、物販においても良い商品を自社開発し個別商品(化粧品やアパレル、下着)を伸ばしていくこと、またそれだけではなく他社協業による開発なども進めていくつもりです。

あとは先程も申し上げましたが、コミュニティビジネス、特に自立成長型コミュニティの立ち上げです。広告や店舗に依存しないお客様がお客様を呼び込むコミュニティを作りたいと考えています。そこから更に他事業である情報コンテンツや物販へクロスセルできるようなビジネスモデルを展開していく予定です。

また、第4の事業ドメインとして無形のサービスも提供したいと考えています。有料老人ホームを選ぶ際にお客様がどこを選んでいいかわからないということで、相談を受けることがあるのですが、まさにこういった自立した生活が困難な層への価値提供の展開も模索しています。

株式会社ハルメクホールディングス
(画像=株式会社ハルメクホールディングス)

ファイナンスにおける課題や重点テーマ

ーー今後のファイナンス戦略について、今も先行投資をされているとのことですが、今後もそこは拡大していくイメージでしょうか。

宮澤 : 拡大していくつもりです。まだまだシニアビジネスには多くの可能性があると考えており、それを追求したいと思っています。例えば、現在はアクティブシニア層をメインターゲットにしておりますが、50代から65歳のプレシニア層に対しても市場を取り込んでいくことや、アナログベースからデジタルが中心になることで海外市場にも進出していくことを考えています。

ーー海外市場に進出するというのは非常に興味深いですね。具体的にどのような国や地域をターゲットにしているのでしょうか。

宮澤 : 例えば、中国では一人っ子政策により高齢化が進んでいますし、台湾や韓国でも高齢化が進んでいます。我々のビジネスを海外でも展開できるモデルに転換し、海外市場をビジネスの領域に取り込んでいきたいと考えています。その中で先行したビジネスが利益を生むようになり、全体として回収していく形になると思います。

ーーシニア層は、大手企業などもターゲットにしていると思いますが、今後の競争可能性についてどのようにお考えですか。

宮澤 : 確かに日本の中で唯一市場が拡大しているシニア市場ですから、競争は激しくなっていくと思いますが、私たちは情報コンテンツ、物販、コミュニティ、そしてサービスと連動させたユニークなD2Cモデルを展開しています。顧客理解を徹底し、常に顧客に寄り添って事業開発を行い、成長していきたいと考えています。

ーー世代間のつながりについてはどのように考えていますか?例えば、アクティブシニアの成功モデルがプレシニア世代にも通用すると思われますか。

宮澤 : おっしゃる通り、アクティブシニアで成功したモデルがそのままプレシニア世代に通用するとは思っていません。デジタルをベースに情報を得る世代が増えているため、情報コンテンツではハルメク365を中心に展開し、マーケティング手法もクロス・マーケティングなど新しい手法を開発し、各世代に選ばれるような情報や商品、サービスを提供していくつもりです。

ーー女性をターゲットにしているとのことですが、将来的には男性もターゲットになる可能性はありますか。

宮澤 : 現在は女性をターゲットにしていますが、5年後や10年後には男性も対象になる可能性はあります。ただし、女性の市場だけを見ても、まだまだ満たされていないニーズは多いので、まずはここからと考えています。

ーー宮澤さん、ハルメクホールディングスではどのようなビジネスシナリオが展開されているのでしょうか。 :

宮澤: ハルメクホールディングスでは、まず顧客が安心して利用できるようなサービスを提供しています。また、社員や顧客同士とのつながりを持ち、ネット上でもお客様に選んでいただくことを目指しています。この3つの事業を展開し、相乗効果を生み出し、お客様の信頼を勝ち取っていくことが重要だと考えています。

読者へのメッセージ

ーー最後に、投資家の方々に向けて一言お願いします。

宮澤: シニアビジネスには非常に大きな可能性があると思っています。日本は世界に先駆けて高齢化が進んでいる先進国であり、私たちハルメクグループは、その高齢化する日本において、シニアの方々が幸せに暮らせる国を作るお手伝いができると考えています。私たちは顧客理解を徹底する文化があり、情報、物販、コミュニティの領域で事業を拡大してきました。今後は、デジタル化が進む中で、それを更に発展していくための挑戦を続けています。

国内のシニアの市場規模を考えれば、まだまだ売上利益ともに小さい企業です。国内で更に事業成長するとともに、世界でシニアビジネスの成功企業といえばハルメクグループと言われるような企業になることです。それにはまだアナログの部分が多く、海外で事業を展開するには普遍的なビジネスモデルにはなっていません。これからも様々な試行錯誤を続けていきたいと思います。

シニアビジネスのリーディングカンパニーとして、これからもお客様を始め、投資家の方からも信頼される企業になれるよう努力していきます。どうぞよろしくお願いいたします。

株式会社ハルメクホールディングス
(画像=株式会社ハルメクホールディングス)
氏名
宮澤 孝夫(みやざわ たかお)
会社名
株式会社ハルメクホールディングス
役職
代表取締役社長

関連記事