Man Fogging to prevent spread of dengue fever in thailand
(写真=PIXTA)

昨年8月、約70年ぶりにデング熱の国内感染が確認され、その後約2か月間で162名の国内感染者が報告された。2015年7月現在、国内感染者の報告はないが、夏休みに入り、アウトドア・レジャーが増える中、デング熱流行の懸念は広がりつつある。

日本では、2013年以前からデング熱患者の発生は報告されていた。統計のある2000年からの推移を観察してみると、2009年までは緩やかに増加し、年間患者数は50~100名程度であった。しかし、2010年から急速に増加。2013年までの4年間で、年間患者数が200名程度と倍加している。

これらは海外でデング熱に感染し、日本帰国後に発症した患者である。東南アジアからの帰国者が多く、特に2010年以降はインドネシアの渡航者の多さが指摘されている。

全世界的に見てもデング熱の感染者数は増加しており、WHOは毎年約4億人が感染していると報告している。とりわけ、子供の感染は重症化しやすいことが指摘されている。

このような背景の中で、昨年の国内流行が発生した。全世界的な流行や日本の国際化にともなう人的交流の活発化を考慮すると、国内流行を単発的と捉えるより、新興感染症の上陸と考えるほうが妥当であろう。

当然今年も国内感染の流行を見越した対応をとるべきだろう。


デング熱の原因

原因はデングウイルスに感染することである。デングウイルスはフラビウイルス科に属し、類縁ウイルスには黄熱病ウイルスや西ナイル病ウイルス、日本脳炎ウイルスなどがある。これらに共通の特徴は、蚊やダニなどの節足動物によって媒介されるということである。

デングウイルスの感染様式は、蚊に刺されて媒介されることである。デングウイルスを媒介するのは「ヤブカ属」の蚊であり、ネッタイシマカやヒトスジシマカなど。世界的にはネッタイシマカが圧倒的であるが、昨年日本でデングウイルスを媒介したのは、ヒトスジシマカである。これらの蚊の外見は、黒色を基調とした白の縞をもち、俗に「シマッカ(蚊)」と呼ばれることもある。

デング熱の潜伏期間(感染してから症状がでるまで)は、2~14日(多くは3~7日)である。感染しても症状が見られない場合もある。初期症状は、突然の高熱で発症することが多く、頭痛、目の痛みや充血を伴う場合もある。熱は数日持続し、続いて全身の筋肉痛、骨や関節の痛み、だるさが現れる。さらに発症3~4日後に皮膚に発疹が出現しすることもある。大抵の症例は1週間程度で回復する。

初期症状が現れたら直ちに近くの病院や診療所で、病状と海外渡航歴や流行地帯(国内外)へ行ったこと、数日前からの蚊に刺された履歴を医師に説明してほしい。

デング熱の特徴の1つは、感染症でありながら1回感染しても再び感染する場合があるということだ。インフルエンザなどでも見られるように、いくつかの亜型が存在するからである。

デング熱の場合はむしろ、2回目の感染の方が、初回の感染時にできた抗体が重症化の引き金となる場合があり、致死性の高いデング出血熱やデングショック症候群を引き起こす可能性高くなることが知られている。

つまり、1度罹ったからといって安心できないのがデング熱の怖いところなのである。


デング熱にかかってしまったら

診断は、上記の症状に加えて、臨床検査によって行われる。最も早く影響が現れるのが白血球の減少であり、ときに血小板の減少を伴う場合がある。確定診断は、血液中のデングウイルスの遺伝子を検出することである。

デングウイルスに対する特異的な治療薬は現在のところ存在せず、あくまでも対症療法による治療が施される。発熱や痛みに対して解熱・抗炎症剤(アセトアミノフェンなど)が処方され、全身状態を見ながら輸液などの処置が行われる。

特に子供や高齢者の感染者については重症化する可能性が指摘されていることから、詳細な経過観察が必要である。

治療薬同様、デングウイルスに対する有効なワクチンが未だ開発されていない。現在最も有効な予防対策は、国内国外をとわず蚊に刺されないことである。蚊はデング熱以外にも多くの感染症を媒介する。蚊対策を万全することは、蚊によって媒介される感染症に対して広く有効となる。

個人の予防対策としては、蚊のいるような藪や草むらに近づかない、蚊のいる恐れのあるところでは皮膚の露出度の高い服装は避ける、蚊よけスプレーなどで蚊を寄せつけないなどである。また、昨年流行した地域(代々木公園周辺など)には可能な限り近づかないことであろう。

地球温暖化や国際間の人的交流の活発化などにより、日本の姿は徐々に変化しつつある。かつてのように、蚊が止まったところに狙いを定めてつぶすようなのどかな風景をイメージすべきではない。もう、蚊を止まらせてはいけないのだ。

国が国際化するということは、デング熱のような新興感染症の流行リスクに対していつも敏感に備えなくてはならないということであり、そのためには、まず国民全体の意識変革の必要があるのだ。

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