(写真=ZUU online)

東大教授・山中俊治氏のデザインシンキング

JR東日本でSuica改札機の導入が始まったのは2001年。かれこれ15年近く経ち、自動改札の普及で切符を買う回数は本当に激減しました。

昨年ごろから新型のSuica改札機の導入が始まりました。新型機では出口にある液晶部ではなく手前の液晶に残高表示されるようになりましたが、ほんの小さな違いでも自分自身が戸惑うほど、改札でSuicaをかざして残高をちらりと見るという動作が習慣になっているのがよくわかります。

Suica改札機の読み取り部のデザインを担当したのは、著名な工業デザイナーで東京大学教授でもある山中俊治氏です。山中氏が講演、書籍やブログでその開発裏話を紹介したことで、Suica開発機の魅力や工業デザインの醍醐味が多くの人に知れ渡ることになりました。

工業デザインに無知な私も大いに知的刺激を受けたのを思い出します。ブログによれば、JR東日本の開発担当者が山中さんを訪れたのは1995年。ICカードを使う改札機の技術レベルはすでに実用できる段階まで来ていたそうですが、通行する人が歩きながらICカードをかざすと読み取りエラーが頻発していたそうです。

そこで、読み取りエラーを起こさない改札機ののデザインが始まったわけです。山中氏は、様々な試作デザインと行動観察を活用した調査を提案しました。山中氏が提案された1995年当時は、デザインシンキングやプロトタイピングといった考え方は全く知られていませんでしたから、まさに必要性から発案された調査だったわけです。

タッチせずにカードを見せて通ろうとする人も

導入前に磁気式の自動改札はすでに普及していましたが、ICカード導入にあたって解決すべき課題がありました。試作機でテストを重ねてみても、ICカードの読み取り機器(アンテナ部)にかざしたつもりでも読み取りエラーとなり、ゲートが開かない人が多く出たのです。混雑する駅では、少しでも立ち往生するような改札機を導入できるわけがありません。

山中氏によって提案された行動観察調査は1996年、都内のJR田町駅にあった、朝しか使われない臨時の改札口を使って行われました。そこで観察されたことは想定外ばかりだったと言います。使い慣れないICカード対応の自動改札機のモックアップ(試作品)を前にした被験者が、思いもよらない方法で改札を通過しようとする姿。ICカードを当てるアンテナ部の場所がわからずに戸惑う人が多く見受けられ、なかには有人改札時代のクセが抜けないためにカードを改札機にタッチするのではなく、提示するだけで通ろうとする人も出てくる始末だったそうです。これではゲートをすんなり通れないわけです。