お金の使い方は、社会の未来を左右する

ー金融教育が今後ますます展開される上で、先生が大学で課題に感じているのはどのような部分でしょうか?

教員志望の学生への教育内容については、社会学を取っていれば経済学を履修しなくていいという点が問題です。また、教員免許状を取得するために必要な単位も限定的です。したがって、金融や資産形成に特化した授業を展開するのは困難と言えるでしょう。

家庭科も同様で、やはり家庭科の先生になる人たちは、被服や食物、住居、保育といった分野に興味を持っている人が多いんですよね。家庭経済や金融に興味を持っている先生や学生は、多くないと思います。

大学の授業では、経済と教育の関係性についても触れています。たとえば、所得と子供の成績、あるいは、や肥満との関係性など、経済と教育の関わり合いを取り上げています。ただし、経済と教育を組み合わせた授業は珍しいものです。

教育経済学という学問分野も存在しますが、教員養成課程のカリキュラムに組み込まれることはまれです。一部の大学だけで開講されている授業となっています。

ー日本では諸外国と比べ金融教育が遅れていることが問題となっていますが、今後はどのような金融教育カリキュラムを普及すべきだとお考えでしょうか?

私は、中学生や高校生には、機会費用やトレード・オフなどの基本的な経済の見方や考え方,リスクとリターンの関係、インフレーションやデフレーションの資産価値への影響などを理解してもらうことが必要だと考えています。高校の教科書にも,基本的な経済的見方や考え方が取り上げられるようになってきています。

とくに機会費用の概念は重要です。どのような選択をする場合でも、必ず費用は発生します。Aを選択したことであきらめたBは,Aを選択したことの費用です。その事実を学生に理解させることが大切です。

これらの考え方を身につけることで、学生たちは人生の選択に対してより賢明な判断ができるようになるでしょう。

ー最後に、金融を学ぼうとしている学生や、関心を持っている方々へのメッセージをお願いします。

お金の使い方は、社会の未来を左右する力があります。たとえば、企業がどのような製品を作るのかは、私たちが何を購入するかによって決まります。

AIの進歩やワクチンの開発には、資金の投下、つまり、投資が必要です。お金を使うことは、社会への参加を意味します。また、しっかりとした職業や所得,資産を持つことは、人の行為の倫理的基盤となります。「恒産なくして、恒心なし」です。若い時期からお金の適切な使い方を学び、将来への投資や貯蓄をすることの重要性を理解することが大切です。

私たちの選択と行動は、社会全体を動かす力を持っています。お金の知識と理解を深め、より良い未来を作り出す一助としてください。