ビジネスパーソンであれば自身が所属する企業や取引先の企業の全体もしくはある部門がどの程度稼いでいるかを日々意識していることだろう。様々な会計上のデータを使って企業を的確に数字で把握しマネジメントを行うことは部門のリーダーや経営者には必要な能力であり、多くのビジネスパーソンに求められるスキルと言えるだろう。

本書はBS(貸借対照表)とPL(損益計算書)から企業の特徴をつかむためのコツを財務諸表と実際に企業が行っている経営戦略を交えて論じている。想定読者はビジネスパーソンであるが、ファンダメンタルズ分析を行う株式投資家にとっても参考になる一冊だ。

「儲かる会社」の財務諸表

著者:山根節
出版社:光文社新書
発売日:2015年9月16日

会計は経営の全体を映すツール

「会計がわからんで経営ができるか」 とは名経営者の稲盛和夫氏の言葉だが、会計を使い会社全体を見える化することが経営にとって重要である。会計が分かるようになると、財務諸表から儲けの構造や企業の戦略を読み取ることができるが、数ページにも渡る本物の財務諸表を読み込む力をつけるのはなかなか骨が折れる。

本書では会計学習のコツが具体的に示されていて大いに参考になる。いくつか重要なポイントが挙げられているが、特に感銘を受けたのは、財務諸表をビジュアルで大局的に捉えるという点だ。その中で財務諸表の数字を比例縮尺図にしてビジュアルに把握するという著者が考案した手法が紹介されていて、本書の企業分析でも度々使われているのだが、企業の特徴を理解するのに非常に分かりやすい。まさに見える化である。

また、ビジュアルに捉えるために項目をまとめたり、無視できるものは無視したりすることで重要なポイントをより見やすくする工夫も紹介されている。このように「ちょうどいい加減にとらえる」ことが会計のカギなのだという。

財務諸表から見えてくる企業の戦略

本書の構成は全5章からなり、各章で同じ業界の企業について、上記のような財務諸表を提示し、どのような経営を行ないそのような数字として表れているのかを示すことで、会計と経営戦略のつながりを理解しやすい構成となっている。また、同業他社の財務諸表を比較し、その特徴が異なる理由を経営戦略の観点から説明する。

例えば、同じ不動産業大手の三菱地所と三井不動産との比較では、三菱地所は賃貸ビルやマンションなどの事業が大きいため、BSの有形固定資産が大きく棚卸資産が小さく見える一方で、三井不動産はデベロッパー業務が大きいので、相対的にBSの有形固定資産はやや小さく棚卸資産が大きく見える。PLのセグメント別の売上、営業利益の比較でも違いがよく分かる。

会計と経営戦略のつながりを意識し、詳細な経営戦略の中身を理解して読むのは簡単ではないかもしれないが、有名企業の実例を豊富に取り上げているためイメージしやすく読み応えがあり面白い。

各章末には業界の今後の展望が書かれており、著者の分析力の高さが感じられる。どの業界もIT革命の影響を強く受け競争がさらに激しくなるので、どのような競争戦略を取るかが益々重要となるようだ。

会計と現実の経営を結びつけて考える

本書からは、財務諸表が経営を映し出していることと、インターネットや現場などで日々感じるビジネスの断片情報が実は会計とつながっていることがよく分かる。著者は「会計とリアリティを結ぶクセをつけることで、経営と数字を絡めて語ることができるようになる」という。

もちろん、これができたからといって必ずうまくいくとは限らない。著者は本書においてマクドナルドのさらなる苦境を予想しているが、まさか数年後「V字回復」を達成しているとは思いもよらなかっただろう。だが、本書が指摘する当時のマクドナルドの弱点とCEOのカサノバ氏が行った改革を見比べると重なる部分が多いように思う。会計力と経営力を高めつつ組み合わせて考えることができれば、企業の課題を発見し未来像を描くための感覚の精度は増していくに違いない。

本書は会計力と経営力の重要性とそれらを組み合わせるための思考の型を学ぶことができる良著である。(書評ライター 池内雄一)