日本企業の利益構造を規模業種別に見てみよう。法人企業計季報によると、全産業の経常利益は2012年度から増加が続いており、2016年度までに63%近く拡大した。業種別に見る、建設業、自動車、不動産、電気業といった業種がけん引役となっており、震災からの復興や好調な海外需要、アベノミクスによる資産価格上昇等が主な要因だ。

ただ企業規模別に見ると、収益格差も大きく広がっている。特に2016年度時点では、資本金10億円以上の大企業ではバブル期の2.3倍にまで経常利益が拡大した一方、資本金1千万円以上1億円未満の中小企業では同1.5倍程度にとどまっている。

こうした収益格差拡大には、経済のグローバル化が大きく関係している。特に、新興国や資源国の台頭は世界経済の成長拡大をもたらし、海外需要の増加を通じて日本経済への追い風となった。

大企業を中心に国際分業体制や販売市場のグローバル化が進んだことにより、大企業の業績に恩恵が及んだ一方で、国内需要に対する収益依存度が高い中小企業はグローバル化の恩恵を大企業ほど受けていない。

さらに、原材料価格や人件費の上昇が中小企業に大企業に比べより大きなダメージを及ぼした可能性がある。一般に中小企業は大企業より価格交渉力が劣り、原材料や人件費上昇に伴うコスト増を製品価格に転嫁することが難しい。また、大量一括仕入れや下請けへのコスト削減要求ができる大企業に比べ、中小は仕入れコストの抑制も困難である。経済のグローバル化や労働需給のひっ迫等による様々な要因が、大企業と中小企業の収益格差を拡大させている。

ただ、これまでプラス成長を続けてきた名目GDPも原油高や円高などの影響を受けて、2017年10-12月期に2016年7-9月期以来の前期比マイナスとなった。今後、2月以降の世界同時株安の影響等を受けて、高成長を続けてきた世界経済が減速し、輸出が鈍化するようなことになれば、国内経済も悪化が見込まれる。そうなれば、今年度の企業業績は、今後の資源価格や為替動向次第では、7年ぶりに減益になる可能性も否定できない。

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(画像=出所より筆者作成)

中小企業の業績拡大が景気回復のカギに

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(画像=Khongtham/Shutterstock.com)

こうした中、企業活動によって生み出された付加価値のうち、賃金などの人件費に回った割合を示す「労働分配率」について見てみよう。

法人企業統計季報では、企業の経常利益と支払利息、減価償却費、人件費の合計を付加価値とし、そのうち人件費が占める比率が「労働分配率」とされている。そこで実際に計算してみると、全産業の労働分配率は、2008年度をピークに低下に転じ、2016年度時点まで低下傾向にある。

しかし、これを企業規模別に見ると、大企業では労働分配率が2008年度から8%ポイント程度低下する一方、中小企業では同6%ポイント程度の低下にとどまっていることがわかる。特に大企業の低下は、新興国の安価な労働力との競争や配当の増加等により、業績の伸びに対して人件費が上昇しにくくなっていることが指摘されている。

一方、中小企業の低下幅が少ないのは、中小企業の付加価値の伸びが相対的に低いことや、人手不足による人件費の圧迫等によるものとみられる。付加価値が大企業ほど伸びない中で、労働需給のひっ迫により人件費の抑制が困難となり、企業業績が拡大している割に中小企業の人件費負担感が低下していないことを意味している。

他方、企業規模別に労働者の人員構成を見ると、大・中堅企業が占める割合が上昇する一方、中小企業の割合が低下傾向にある。それでも2016年度時点で、資本金1千万円以上の企業(金融機関を除く)のうち、中小企業が総人員の61.2%を占める。したがって、大企業を中心に業績が回復しても、家計の所得が増えにくい構造になっている。

所得を増やすには、多くの雇用の受け皿となっている中小企業が業績を向上させ、多くの働き手の賃金を増やすことで国内需要を活性化することが必要だろう。現在のような大企業と中小企業の二極化が今後も進行すれば、景気回復が持続しても、その恩恵は大企業中心となり、結局は景気の実感が伴いにくいことが懸念される。

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(画像=出所より筆者作成)

永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。