シンカー:FEDはマーケットに押し切られる形で利上げの休止方向へ動いた。更に、実態経済は堅調にもかかわらず、リスクバランスを中立から下方に修正した。これまでのようなしっかりとした利上げのパスに戻すには、リスクバランスを再び中立化させるほどの景気とマーケットの強い動きが必要となるだろう。注目は物価だ。物価の上昇の加速が鮮明となれば、FEDは動きやすくなる。マクロロジックとしても、マーケットの変動などが足かせとなり中央銀行の引き締め政策が遅れれば、景気・マーケットは過熱方向に向かい、物価の上昇が加速すると考えられる。インフレ期待や原油価格にリバウンドがみられるのも、マーケットがそのようなマクロロジックで動いていることを示しているのかもしれない。物価の上昇の加速が早く来れば、FEDが従来のパスに戻ることも早くなり、政策金利が引き締め領域に入ることにより景気のピークアウトも早くなる。一方、物価の上層の加速が遅れれば、FEDはなかなかハト派スタンスから脱することができず、政策の引き締め効果も強くなく、景気の拡大がマーケットの予想以上に継続する可能性が高くなる。ある意味で、大きなマーケットの変動を経て、物価を基点とする通常のマクロロジックが働くようになったようだ。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●トランプの国家非常事態宣言発令について

大統領が国家非常事態宣言を行った場合、大統領は議会の承認を得ずに、国防費を使用することができる。だが、“外国からの侵略などの国防の危機”であることが認められる必要があり、法律執行の問題ではこの国家非常事態宣言を使うことはできない(19世紀の米国法で、法律執行のために米軍を使用することはほとんどのケースで禁じられている)。メキシコとの壁の建設がこのような“国防の危機”として認められるかどうかは明確になっていない。さらに、緊急事態における大統領の行動や措置が合法か否かの最終的判定は、司法(連邦最高裁判所)により下されることになる。

●TLTROと信用需要

1月のECBミーティングで、予想されているTLTROを含めた流動性ツールについて新たに明らかになったことはなかった。ドラギ氏はこれらのツールについて市場が時期尚早な予想をすることを警戒しているようだ。だが、経済のファンダメンタルズはいまだおおむね良好ではあるものの、長引く経済減速や内需の弱まりを考慮して、ECBが新たな流動性ツールの導入と金利のフォワードガイダンスの変更に迫られる可能性は高まっていると言えるかもしれない。新たなTLTROのアナウンスメントが3月の経済見通し変更のタイミングで行われ、4月に詳細が明らかにされるかもしれない。与信基準のタイト化と同時に信用需要の減速の影響を企業が感じ始めれば、TLTROの重要性が増してくる可能性がある。

グローバル・レポートの要約

●米国経済(2/5):1月雇用統計…勢いは止められない、止まらない

1月の雇用統計は事前見込みを大きく上回り、非農業雇用者数は30万4,000人の大幅増加となった。この数字は基調的な強さを過大に示しているとみられ、(12月の数字と同じく)後に下方修正されると見込まれる。とはいえ、仮に弊社見込み通りに下方修正されても、1月非農業雇用者数の増加幅は20万人を上回り、3カ月及び6カ月平均も20万人超えが続くとみられる。このことから、企業経営者は昨年遅くにみられた景気の逆風や市場の不安定さをやり過ごし、ハイペースでの雇用を続けていると考えられる。

また、毎年の1月雇用統計の発表時には、年次のベンチマーク処理や人口推計更新を映した、各種データの修正が行われる。ベンチマーク処理が雇用統計に及ぼすインパクトは小さいが、家計調査で算出されるデータは、解釈が比較的難しくなる。1月雇用統計では政府閉鎖の影響も出て、失業率が弊社見込み通り0.1%上昇することを助けた。だが、弊社にとって心強いのは、昨年みられた雇用市場の力強さが、景気減速懸念が強まっているにもかかわらず2019年にも持ち越されたことだ。ただ弊社も、今回(1月)の雇用統計が、FRBに動きを迫ることになるとはみていない(FRB高官達が、近い将来は様子見を続けると既に明言しているため)。

●米国経済(1/31):FOMC:市場への詫び状

FRBは極めてハト派的なスタンスに旋回、弊社や市場にはサプライズとなった。1月FOMCの声明では、FRBが「辛抱する」ことを明示して、「ある程度の追加利上げを徐々に進める」という文言が削除された。これでリスクバランスが下方に傾いていることを示唆するともに、「今後の調整が何か」を決める際に辛抱強くなることが適切かも知れないと述べ、次の金利の動きを対称的にした。FRBは、これが十分にハト派的なメッセージとは受け止められないことを避けるために、声明のバランスシート正常化に関する部分も更新、 基本的にはバランスシート縮小が見込みより早くなると示した。パウエル議長も記者会見ではハト派的な発言を示した。弊社は現時点では、2019年は25BP利上げが(6月と9月の)2回実施される、という見方を変えない。だが1月FOMCの結果、今年の利上げが1回に留まる方向にリスクが明らかに傾いた。率直に言って弊社は、1月FOMCと記者会見を終えて、今年中にFRBが1回の利上げを行うかどうかも、いまや経済指標次第になったと考えている。

●英国経済(2/4):BOEプレビュー…政策変更は無いとみるのが自然

英国BOEのMPC(金融政策委員会)は、ブレグジットが円滑に進むという穏当な前提を置かなくてはならないが、ブレグジットへのプロセスが英国に混乱をもたらす中で、それに対する疑問が強まっている。弊社は、MPCには(政策を進めるために他のことも把握しながら)それ以外に選択肢が無いことを理解している。また実際の状況が、MPCの判断に影響することにもなろう。したがって、(労働市場タイト化やそれがインフレに及ぼすインパクトが、繰返して懸念されてはいるが)今週末の政策決定会合で政策の変更が無いことは、非常に明白である。なおGDP成長率やインフレ動向の予測が、予測対象期間の前半で下方修正される見込みだ。

●英国経済(2/1):ブレグジット メイ首相は苦境を脱していない

英国のメイ首相は、自身が反対していたブレグジット修正案が否決され、 (アイルランド国境のバックストップを代替案で置換える)ブレイディ氏が提示した修正案は可決されたことで、安心感や心強さを覚えるだろう。メイ首相はブリュッセルに向かい、離脱協定を修正あるいは破棄するよう、EU27カ国を説得すると見込まれる。今回が弊社の最終分析となるが、従来と同じく、何らかの解決策が見つかると考えている。EU27カ国が譲歩して、英国のDUP(民主統一党)や保守党のハードブレグジット派も同意するとみられるためだ。だが前途はまだまだ遠い。弊社は、英国がEU基本条約第50条(ブレグジット期日)の延期を遠くないうちに要請して、EU27カ国がそれに同意すると見込んでいる。

●欧州経済(1/30):ファンダメンタルズは四半期GDP成長率加速を示す

木曜日(31日)には、2018年第4四半期(Q4)ユーロ圏GDP成長率の速報値が発表される。弊社は、(Q3同様に弱く)前期比0.2%近くになると見込んでいる(ただリスクは、同0.3%となる方向に傾いている)。この場合、2018年通年のGDP成長率は1.8%になる。2018年には明らかにモメンタムが失われたが、それは2019年に入っても続いており、弱さが続く、あるいはリセッションが近いという恐れが強まっている。実際にもリスクは下方に傾いている。最近は市場が不安定で、外需の弱まり(特に中国)、貿易戦争の継続、ノーディール(合意無き)・ブレグジットや欧州政治に関する不確実性(イタリア財政状況のタイト化、フランスの「黄色いベスト運動」、欧州議会選挙)、といったリスク要因も存在するからだ。ただし弊社は最近のレポートで(参照)、こうしたリスクは低下していると結論付けた。弊社のファンダメンタルズ分析も(昨年に比べて財政政策の緩和色が強まる、ユーロの下落、原油価格低下、企業の利益率上昇や、労働市場や設備投資伸び率の底固さから)ユーロ圏景気減速の長期化やリセッション入りを見込むのは時期尚早、と示している。

ただ、貿易の見通しが非常に不確実であるため、2019年Q1もユーロ圏GDP成長率は引続き弱い可能性があり、2019年通年GDP成長率の弊社予測を、11月の世界経済見通し(GEO:GLOBAL ECONOMIC OUTLOOK)で示した1.7%から1.3%に引下げる(1.3%はコンセンサスに近く、IMF予測の1.6%を下回る)。それでも弊社は、ユーロ圏GDP成長率(四半期、前期比)は、(Q1が0.3%となった後)Q2からQ4にかけて0.4%前後(潜在成長率をわずかに上回る)が続くという見方を変えていない。なお国別の2019年GDP成長率弊社予測も、追加で多少の下方修正を行った。ドイツは従来の1.2%から1.0%に引下げ、フランスも同じく1.5%を1.4%に、イタリアも0.8%から0.7%に変更した。スペインは2.1%で据え置いた。

●アジア経済(1/30):輸出はさらに減速も、深刻な不調は回避へ

2018年の終わりにかけて、アジアからの輸出は伸び率低下が加速している。それを主導したのは機械と輸送用機器で、国別には中国が唯一の原因だった。弊社の見たところ、中国の輸入が最近振るわないことは、輸出と内需が等しく影響した結果だ。また関税合戦によるダメージが、中国の輸出と、アジア域内のグローバル・バリューチェーンに組込まれた製品ともに鮮明化している。セクター別には、半導体とエレクトロニクスが最も不安定になっている。

弊社はグローバル景気拡大が今後は減速すると予測しており、アジアからの輸出伸び率もさらに低下すると見込んでいる。ただ、2015-16年のような深刻な不調は回避されるとみている。

●債券市場(2/4):様子を見ながら・・・期待せよ

リスク資産の積み増しや運用利回りの向上を目指す投資家に対し、中央銀行のハト派的な政策運営方針がいま再びシグナルを発している。政策当局は進んでインフレ圧力増大のリスクを冒そうとしている。しかし、向こう数カ月間、債券ロングのポジションには危険性がつきまとう。今のところ、株式相場と債券相場は足並みをそろえながら上昇している。このスイートスポットとも言うべき最適な状態が、長期にわたって持続するような展開は見込みがたい。リスク資産の良好なパフォーマンスが続けば、中央銀行のハト派的な政策スタンスは後退を余儀なくされ、結果的にトリプルA格の債券利回りは上昇に向かうだろう。これが弊社の中期的なメーンシナリオである。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司