AI Artificial intelligence wave lines
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超低金利時代にピリオドが打たれた2022年、この年はヘッジファンド業界の二極化が鮮明となった年でもあった。リターンや新規立ち上げ数が(2008年の)金融危機以来の最低水準に落ち込む一方で、一部のファンドは記録的な利益を叩き出した。2023年はこのような二極化がさらに加速しそうだ。鍵を握るのは「マクロ戦略」と「AI」である。

インフレ、利上げが浮き彫りにしたヘッジファンドの二極化

英オルタナティブ投資情報企業「Prequin(プレキン)」のデータに基づいてロイターが報じたところによると、2022年第1~3四半期はインフレや米金利の急激な上昇が圧力となり、世界のヘッジファンドから総額1,098億ドル(約14兆5,786億円)が流出した( 「Hedge funds set to mark worst returns in 14 years」(REUTERS))。

株式や債権といった伝統的な資産の価値下落に伴い、世界のヘッジファンドの純資産は4兆1,000億ドル(約544兆3,223億円)と前年から4.8%減少。リターンは6.5%減と、13%減を記録した2008年以来最大の落ち込みとなり、新規ヘッジファンドの立ち上げ数も過去10年間で最低水準の915 本となった。

国際オルタナ投資市場調査企業「Hedge Fund Research(HFR:ヘッジファンド・リサーチ)」の調査からは、2022年第3四半期までの12カ月間に推定544本のヘッジファンドが閉鎖され、手数料は2008年以来最低水準へ低下したことも明らかになっている(「Hedge fund launches lowest since 2008」(funds europe))。

多数のヘッジファンドが苦戦を強いられたにもかかわらず、「DE Shaw」「Man Group(マングループ)」「Caxton Assosiates(キャクストン・アソシエーツ)」など、市場のボラティリティが追い風となったファンドも存在する。一部のファンドはマクロ経済の動向に焦点を絞った戦略(*)を採用し、通貨とコモディティに投資することで関連証券との価格差から利益をあげた。


*:マクロ経済指数などの変動を狙って利益を追究する投資戦略。


ヘッジファンドの業績が明暗を分けた要因についてUBSは「マクロ(系ヘッジファンド)は歴史的に株式市場全体の動きとの相関性が低く、ポートフォリオの分散に役立つ」とし、(「Hedge funds set to mark worst returns in 14 years」(euronews.next))「金融引き締めと高ボラティリティが2023年も継続することを考慮すると、(この流れは、経済情勢などを考慮して債券や通貨を取引する)マクロ戦略を用いるマネージャーには追い風となる」とコメントする。

2023年は上位5%が資金流入の80~90%を独占?

現在、世界にはおよそ1万5,000のヘッジファンドが存在し、業界はまさに「激戦区」となっているが、2023年はプレイヤーの淘汰が加速する可能性が高い。

米ヘッジファンド・コンサル企業「Agecroft Partners(エイジクロフト・パートナーズ)」は、世界中の2,000人を超える機関投資家および数百のヘッジファンドとの対話に基づいて作成した『第14回:2023年のヘッジファンド業界最大のトレンド予測』の中で、「最も強力なブランド力を有する上位5%のヘッジファンド・マネージャーが、投資家の資金流入の80~90%を占めるようになる」と予想する( 「Biggest hedge funds will keep lion's share of customers in 2023, data shows」(REUTERS) )。強力なブランドの中には中小規模ファンドも含まれる。これらのファンドが拡大を続ける一方で、新規立ち上げが減り、主に中小規模のファンドの閉鎖が増えるというのだ。

2022年第4四半期の時点で、ヘッジファンドの資金の70%がAUM(運用資産)50億ドル(約6,641億3,617万円)以上の大手に流入していたのに対し、5億ドル(約664億1,361万円)以下への流入はわずか6%だった。

しかしその一方で、一部の大手が運用している資産規模が投資家のリターンを最大化するために最適な水準を大幅に上回っていると見なし、リターンの効率低下を懸念する声もある( 「Top Hedge Fund Industry Trends For 2023」(Seeking Alpha) )。

デジタル化が加速 9割が「AIを活用」

もう1つ注視すべきは、ヘッジファンドにもデジタル化の波が押し寄せている点だ。2023年はとりわけ、AI(人工知能)の普及がさらに広がることが予想される。実際、Bridgewater(ブリッジウォーター)やRenaissance Technologies(ルネッサンス・テクノロジーズ)など、AIを採用するヘッジファンドは増えている。

英市場調査企業「Market Makers(マーケット・メーカーズ)」が上位50のヘッジファンドを対象に実施した調査では、トレーダーの9割が「ポートフォリオのリターンを達成するためにAIを活用する」と回答している。

このような観点から見ると、将来的に機械化された少数のヘッジファンドが業界を牛耳る可能性が考えられると同時に、ヘッジファンドに特化したテクノロジー商品/サービスが、投資対象として頭角を表す未来も予想される。

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ヘッジファンドの運用実績や商品の優位性だけでは投資家に十分アピールできない時代に突入したようだ。二極化の動きが加速し始めたヘッジファンド業界の動向を追う上で「マクロ戦略」「AI」は欠かせないキーワードとなる。