Close up of computer circuit board for Modern Technology
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AI(人工知能)分野が驚異的な成長を遂げている近年、活用領域は金融や医療、不動産、教育、小売、製造、農業など多様化しており、デジタル社会の未来に不可欠な技術としてさらなる進化が予想される。その一方で、AIの学習/解析に必要なデータ量の爆発的な増加や解析環境の複雑化といった課題が横たわる。解決のカギとして開発/投資が活発化している領域が「AIインフラストラクチャー(以下、インフラ)」である。大手IT企業やスタートアップ間で開発競争が激化する中、その市場規模は2029年までに4,225億ドルを超える見込みだ。

時代はより高度なAIインフラへ

AIインフラとは、AIとML(Machine Learning:機械学習)ソリューションを組み合わることにより、スケーラブルで信頼性の高い特定のデータソリューションを開発/展開するための基盤的要素である(「A Guide to Artificial Intelligence Infrastructure」(Plat.AI))。具体的にはAI搭載アプリの構築、テスト、トレーニング、展開などに必要な技術スタック(アプリの構築及び実行に使用される一連のテクノロジー)を意味する(「AIインフラストラクチャーとは」(Pure Storage))。

インドの市場調査企業「Data Bridge Market Research(データ・ブリッジ・マーケット・リサーチ)」によると、関連ハードウェア/ソフトウェア、テクノロジー(機械学習、深層学習)、機能(トレーニング及びインターフェイス)、開発(オンプレミス、クラウド、ハイブリッド)、エンドユーザー(企業、政府、クラウドサービスプロバイダー)を含む世界のAIインフラ市場は2021年に235億ドル(約3兆1,110億円)と評価されており、2029年までに4,225億5,000万ドル(約55兆9,441億円)に成長する見込みだ(「Global AI Market - Industry Trends and Forcast to 2029」(Data Bridge Market Research))。

需要の増加とともにAIを取り巻く環境がますます複雑化している近年、変化に対応可能できるより高度なインフラへの需要が高まるのは当然の流れである。

スタートアップへの投資は6兆円以上

AIインフラセクターの成長をリードするのは、「IBM」や「Microsoft」「Google」といった大手IT企業だ。

米半導体メーカー「NVIDIA(エヌビディア)」は、AIの大規模導入に向けて今後ますます重要性を増すことが予想されるAIインフラの拡大に取り組んでいる企業の1つである。同社は2021年に米データ関連企業Equinix(エクイニクス)と提携し、エンタープライズ向けのインスタントAIインフラ、AI Launch Padをローンチした(「NVIDIA Announces Instant AI Infrastructure for Enterprised」(NVIDIA))。

同社は「Adobe(アドビ)」や「Oracle(オラクル)」といった企業とも提携関係を結んでいるほか、最近では「AWS(Amazon Web Service)」と共同で大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)のトレーニングや生成型AIアプリの開発に最適化した“世界で最も拡張性の高いオンデマンドAIインフラ”の構築に挑んでいる (「Why is big tech racing to partner with Nvidia for AI?」(ITPro))、「AWS and NVIDIA Collaborate on Next-Generation Infrastructure for Training Large Machine Learning and Building Generative AI Application」(NVIDIA))。

一方で、スタートアップも躍進している。2022年12月15日の時点で3,000社を超えるAIインフラスタートアップが存在していたが、中にはAI/クラウドベースのアプリ開発プラットフォームを提供する米国の「Open AI」や、AIデータサイエンス及びモデリングプラットフォームを提供する中国の「4Paradigm(パラダイム)」のように、ユニコーン企業(*評価額10億ドル/約1,323億9,029万円を超える未上場企業)に成長したものもある。

投資も活発化しており、1,310社のスタートアップが調達した資金は総額470億ドル(約6兆2,220億円)にのぼる。そのうち3分の1以上が2019年~2021年の期間に調達された。

スタートアップへの投資を積極的に行っているのはY Comninator(コンビネーター)やIntel Capital(インテル・キャピタル)、Google Venture(グーグル・ベンチャー)などで、主にプロセッサーやMLプラットフォーム、データサイエンスプラットフォーム、トレーニングデータ、ビジョン処理ユニット分野に多額の資金が流入している。

本稿で紹介したのはAIインフラ市場動向のほんの一部に過ぎず、実際には多様な領域においてさまざまな動きが見られる。進化し続けるAIのエコシステムを構築する上でインフラは極めて重要な役割を担っていることから、新たなイノベーションの創造も含め、継続的な成長が期待できるだろう。