福岡を拠点に、オリジナリティ溢れる草刈機を開発・製造し、農業分野で長年にわたり信頼を築いてきた企業。 創業者からのスタート、地道な営業活動、そして未来に向けた展望まで、詳しく探っていきます。

株式会社オーレックアイキャッチ
(画像=株式会社オーレックホールディングス)
今村 健二 (いまむら たけじ)
株式会社オーレックホールディングス代表取締役
1952年生まれ。福岡県出身。父が創業した大橋農機株式会社(現:オーレック)に76年入社。営業部に配属され関東から東北エリアを開拓。現場の声を反映した製品が大ヒット商品に。88年社長就任と同時に株式会社オーレックに社名を変更した。趣味は自然散策。座右の銘は「百見は一感に如かず」
株式会社オーレックホールディングス
大橋農機製作所として1948年に創業。以来、有機農法の一つである草生栽培を可能にする小型農業機械の開発・製造・販売をしており、国内トップシェアを誇る。2023年1月よりグループ体制へ移行し、近年では、「健康」「環境」「食」の分野に事業領域を広げ、持続可能な農業と社会づくりへの貢献を目指す。

これまでの事業変遷

―まず、事業編成についてお伺いしたいと思います。

当社は1948年に福岡で前身の大橋農機製作所として私の父が創業し、農業器具の販売から始まりました。その後、みかんの栽培及び普及が増えたため、斜面やビニールハウス内で使用できる小型耕運機の開発を進めたのが、次のステップとなりました。

当初は九州内だけの営業範囲で、小さな会社だったため、人手も少なく、営業所も作れませんでした。そのため、OEMとして大手メーカーに全国的に販売していただくスタイルを取っていました。

私自身は1976年に当社に入社し、工学部機械科を出ていたので、開発職に配属になるかと思っていましたが、配属されたのはまさかの営業でした。担当領域は佐賀県と長崎県で、一生懸命やっていましたが、狭い営業域が次第に詫びしくなり、このまま佐賀・長崎で人生が終わるんじゃないかと考えるとゾッとしてきたのです。前述の通り、当時大橋農機株式会社が営業していたのは九州内だけで、この状況を窮屈に感じていました。

その中で、一念発起し、関東方面にトラックを走らせることにしました。東京周辺から千葉、茨城、栃木、群馬、埼玉、神奈川と巡り、商品の売り込みを始めました。

九州の聞いたこともないメーカーが突然現れて商品を売り込むので、初めは信用されず、何度も門前払いをされましたが、実際に商品のデモンストレーションを行い、性能の良さを体験していただくことに加え、技術者というバックグラウンドを活かし製品のメンテナンスも行うことを2年間続け、少しずつ取引が始まりました。

当時の当社の機械は一見すると小さく、性能が良さそうに見えないものでした。しかし、その機械は驚くほどのスピードで動き、しかも綺麗な仕上がりを実現していました。お客様が使ってみたら、これほど使いやすい機械はないということで、大変な人気となりました。試作品ではありましたが、お客様がどうしても欲しいとおっしゃってくれました。そして、そのお客様が周りの方に自慢してくださったのです。そこから商品が次々と売れ、積極的に売りに行かなくても売れる状況に変わり、次々と業界初の製品を開発しては、飛ぶように売れていくきっかけとなりました。

営業活動に加え製品のメンテナンスや修理も行うことでお客様に貢献し、製品のフィードバックを新製品開発にも活かしていく経験から、お客様に貢献しない限り、売り上げや利益は得られないということを学び、その「超顧客志向」とも言える、顧客志向の本質が本当に必要なものだということを学びました。

オーレックグループの強みとは

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(画像=株式会社オーレックホールディングス 草刈機)

―では、次に自社事業の強みについて教えていただけますでしょうか。

当社の強みは新製品を次々と生み出す開発力です。私の経験も大きいですが、それ以上に社内の文化が大きな役割を果たしています。その文化とは「百見は一感にしかず」というものです。これは百回見るよりも一つ感じることがはるかに理解しやすいということです。以前は、私たちの社員の多くが農家出身でした。しかし、過去20年、30年の間に農家出身者が減少し、現在では農作業に詳しい社員がほとんどいません。そのため、私たちは開発の一環として、農作業体験を実施し、農家の方を招いて報告会を行っています。具体的には、農家の方々に協力をお願いして、社員に草刈り、果実の収穫、肥料の散布、枝の剪定など、農作業全般を経験させています。お客様の気持ちを理解するために重要だと考えています。

実際に私自身も営業時代に機械を使い作業することで、「これは良かった」「ここが壊れた」など様々なトラブルを体験しました。それにより、機械メーカーとしてどのような点に注意を払わなければならないかについても学びました。

その結果、他社製品を含めお客様の機械を使うわけですから、その使いやすさや性能といった体験が全部データとして蓄積され、どのように影響を及ぼすかを予測できるようになりました。このような能力を持つ社員が増えることで、社内の製品開発が進化すると考えています。

これからのオーレックグループのテーマについて

―次に、思い描いている未来構想や今後の新規事業、既存事業の拡大プランについてどんなことを考えられていて、それに向けてどんなことに取り組まれているかというところについて教えていただけますでしょうか。

有機農業を普及させることでお客様に貢献したいと考えています。当社の主力商品である草刈機は、有機農法の一つ、草生栽培を支えるツールとして活用されています。今でこそ草刈機が広く普及していますが、草刈機が導入され始めたのは約45年前です。青森のリンゴ園や山梨の葡萄園など全国の果樹園から広まりました。それまで果樹園では、一般的に除草剤を使っており、その影響で土壌環境が悪化し、根が不健康になってしまうことが問題視されていました。それが果樹の収穫量や質に大きな影響を与えていたのです。しかし、草を生やす園地管理法である「草生栽培」が普及し始めたことにより、当社の草刈機が広く使われるようになりました。当時も全国に草刈機はたくさんありましたが、私たちの製品が選ばれるようになったのは、他にはない業界初製品を開発する独創性です。

我々の製品は、過酷な草刈り作業をラクに楽しくし、お客様からは常に喜びの声をいただいてきました。その結果、我々は農家の方々やその先の消費者の方々に向けて、他に貢献できるものがあるのではないかと思い、持続可能な農業に向け、農や食、健康、環境の分野においても貢献領域を拡大しています。

令和3年5月に農林水産省からこれからの日本の農業が目指す姿を示した「みどりの食料システム戦略」が発表されました。戦略の中では、2030年までに有機農業の取組面積を25%拡大するという目標を掲げましたが、現状の有機農業の取組面積はわずか0.5%しかありません。そのため、有機農業を増やすために必要な設備やノウハウを提供したいと考えています。また有機農産物を買う場所・売る場所がないという問題もあるため、流通面でのサポートもしたいと思っています。

新規事業は、それぞれの専門分野を活かしたグループ企業体系を作っていくのにホールディングス体制が適していると考え、約5年前から準備を始めました。今年の1月からホールディングス体制を導入し、それぞれの事業を機能別に会社を作っていく予定です。

―有機農産物を発展させ、流通の支援を行うことで最終的には、消費者に良いものを届けていくことができますね。本日はありがとうございました。

氏名
今村 健二 (いまむら たけじ)
会社名
株式会社オーレックホールディングス
役職
代表取締役