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(画像=櫻正宗株式会社)
山邑 太左衛門(やまむら たざえもん)
櫻正宗株式会社代表取締役社長
1963 年生まれ。1994 年櫻正宗株式会社入社。取締役役員室室長、代表取締役専務を経て、2003 年 7 月 11 代山邑太左衛門を襲名し、同時に代表取締役社長に就任。令和4 年兵庫県功労者表彰を受賞。現在、兵庫県酒造組合連合会会長、日本酒造組合中央会理事・近畿支部長も務め、清酒業界の発展に尽力している。
櫻正宗株式会社
1625 年創醸、兵庫県神戸市に位置する約 400 年の歴史がある蔵元。清酒に最初に「正宗」を付けた「正宗」の元祖であること、名水「宮水」の発見蔵であること、全国で初めての公的酵母「協会 1 号酵母」が櫻正宗酵母であること、高精白米を用いた酒造りの先駆者であることなど、日本酒史に数々の偉業を残している。現在も品質第一であること、地域社会に貢献することを企業理念として、先人達が残してくれた伝統を継承しながら、高品質、高付加価値の商品を提供するべく、酒造りを続けている。

創業から現在までの事業変遷

―御社の歴史は非常に長いかと思いますが、これまでの事業変遷についてお伺いできますでしょうか?

櫻正宗株式会社・山邑 太左衛門氏(以下、社名・氏名略):当社は1625年に伊丹で創醸し、お酒だけを生業とした1717年が創業となります。 1840年には宮水を発見、また明治期に協会1号酵母の発祥などを経て、発展してきました。 第2次世界大戦で大きな被害があるなか、戦中戦後、日本酒は大変な需要がありました。昭和47年には日本酒の出荷量がピークを迎えました。 その後は、ビールなど含め他の酒類が流通し人気を博したことで、酒造業界は多様化しまし た。それに伴い、低価格で大量に売る会社と品質重視の会社など、さまざまな形態の会社が出てきましたが、現在、全体としては日本酒の需要は減少傾向にあります。

―御社の酒造りで革新的な取り組みを教えてください。

江戸時代は、米をあまり削らずに醸造しており、現在の大吟醸、吟醸などのお酒はありませんでした。そこで、急流を利用した水車で長時間高白精米をするなど、早くから新しい技術を取り入れてきました。これにより、精米の品質が向上し、安定して大量に酒を醸造できるようになりました。

この様にして、無色透明の日本酒を製造できるようになったのも技術の進歩によるものの一つです。そうした功績もあり、1800年代後半には国内勧業博覧会で一等賞を受賞したり、 また、国が全国の蔵から優良な酵母を集め、その中で櫻正宗の酵母を1号酵母として選定し、全国に頒布したりしています。

―それは大変な成果ですね。

良い酒とは、日々の努力と技術の蓄積によって生まれるものだと考えています。また、働き方改革や新しい技術の導入も積極的に行っています。さらに、契約農家との連携も重視しており、三世代、四世代に渡りお付き合いを続けています。

長い関係をもった農家さんに安定した米を作り続けてもらうことで、私たちの酒の品質も保てます。それは農村の自然を守るという意味でも重要です。私たちは酒造りの過程で出る副産物も再利用しており、酒造りはSDGsに基づいた産業と言えます。

地域で愛され続ける秘訣や取り組み

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(画像=櫻正宗株式会社 蔵開き)

―地域貢献にも力を入れられているとのことでしたが、地域に愛されるための秘訣や他の取り組みなどはありますでしょうか?

はい、地域に貢献することは、私たちにとって非常に重要なことです。地域の問題などにも積極的に関わっていきたいと考えています。

また、地元で愛されるための秘訣を私たち自身が理解できているわけではありません。何百年も続けてきたからといって、地元の人々に必ずしも愛されるわけではありません。特に阪神大震災の際に避難をされてくる方に、蔵の中を見たことがなかったということを聞いた時は、口では地域に貢献していると言っているけれど、実際にはなかなかできていなかったのではないかと感じていました。

そういうこともあって、地域に貢献するための取り組みとして、地域が誇れる会社になるという目標で、倒壊した昔の木造の蔵に記念館や資料館を作ったり、レストラン、喫茶店やお土産物などを売るショップを作ったりしました。さらに、壊れた建物の跡地には、雇用の機会を生むために、人々が集まるホームセンターやスーパーを誘致しました。地域に貢献することで、本当に愛される会社になるということを意識して取り組んでいます。

守り続けてきた自社事業の強み

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(画像=櫻正宗株式会社 蔵開き)

―次に、御社の強みを教えていただけますでしょうか?

私たちの強みは、伝統的な製造方法とそれに付随する技術や知識です。それを大切にしつつ、新しいことにも挑戦していく点も強みだと感じています。そして、若い人たちにも自由に挑戦してもらいつつ、その結果を元に新しい商品を作っていくことが重要だと考えています。

―企業価値を高めるために具体的に取り組まれていることはありますか?

私たちは、業界のコンテストに挑戦し、そこでの評価を重視しています。海外のコンテストから国内のものまで、幅広く参加しています。また、その結果に対しても、しっかりと反省点を見つけ出し、改善に取り組んでいます。自信を持って出品したにも関わらず、評価が低かったという経験もありますが、私たちの技術者たちは、一生懸命挑戦してくれています。

過去のブレイクスルー

―次に過去にブレイクスルーした経験などがあればお聞かせいただけますでしょうか?

一つは、全ての技術者に技能検定を受けてもらったことです。また、季節労働者だった人たちを正社員化したことも大きな成果でした。そして、記念館を作ったり、スーパーを誘致したりといった地域貢献の取り組みも成功したと感じています。

また、「蔵開き」という、年に一度地元の人々に蔵の中を見てもらうイベントも灘の蔵の中でいち早く取り組み、開催したことで、多くの方に知っていただくきっかけになったのも大きな成功の一つだと思います。 当時は蔵を全て解放するというような考えは他にあまりなく、今では参加者が6,000人にのぼっています。直近はコロナにより開催できませんでしたが、コロナ禍が明けた今、再開を試みています。

伝統と変革

―新しい取り組みに挑戦をし続けていらっしゃるんですね。その一方、伝統を守るべきものもあると思います。その点についてどのようにお考えでしょうか?

私たちの理念である「品質第一」という考えは守るべきだと考えています。私たちが直面する課題は多岐にわたります。それらの課題に対して、私が社員に求めているのは、問題が起きたときや迷ったときには、私たちの企業理念に立ち返ることです。私たちの理念は「品質第一」で、品質を最優先にして、酒造りを通じて人々に潤いを提供し、地域社会に貢献することを目指しています。

また、新しい取り組みに挑戦し続けるということもある意味伝統だと思います。私たちの存在意義は、単にお金を稼ぐだけではなく、伝統や文化、地域社会を尊重し、品質を重視した事業を通じて、人々に喜びを提供することです。そのために、酒造りを通じて人々に喜びを与えることが、私たちの事業の活力となると考えています。

そのために、私たちは技術力の向上を図り、さまざまな研究所や講習会に参加することで最新のトレンドや技術を追求しています。伝統を守るというと、頑固さのように聞こえるかもしれませんが、厳しい時代だからこそ、伝統や品質を大事にしなければ、私たちの事業は持続できないと思っています。

―伝統というと少し難しい表現かもしれませんが、御社にとっての伝統は、常に新しいチャレンジをすること、新しいものを考えていくことを大事にするということなのですね。

そうですね。そのために、私たちは常に新しいことに挑戦し、調整を行いながら前進しています。それが私たちの伝統を守り、事業を継続していくための必要なステップだと考えています。

思い描く未来構想とビジョン

―そんな御社の将来のビジョンを教えていただけますか?

ブランド力をあげたいと考えています。現在のブランド力はまだ不十分で、技術者や業界内では一定の認知度を持っていますが、一般的にはまだ知名度が低いことは否めません。ブランディングを強化するために、さまざまなメディアを活用し、学習を続けています。さらに、日本の人口が減少する中で、世界に向けて日本酒の文化や歴史、そして技術も含めて発信し、アピールしていくことが我々の生きる道だと考えています。

読者へのメッセージ

―最後に、次世代に向けてのメッセージをいただけますか?

酒造業は年配の方が多いですが、私の会社は若い人が多いです。もちろん、中間層が少し薄いという課題もありますが、若い人たちがたくさんいることは大きな強みだと思っています。今後も我々の取り組みに対して、特に若い人に注目していただければと思います。

プロフィール

氏名
山邑 太左衛門(やまむら たざえもん)
会社名
櫻正宗株式会社
役職
代表取締役社長