大阪銘板株式会社は、創業からほぼ110年の歴史を持つ企業である。同社は、技術革新と持続可能なビジネスモデルを追求し、その歩みを進めてきた。初の成形機の購入から、松下電器産業(現パナソニックホールディングス)、シャープ株式会社、三菱電機株式会社との協業、そして海外進出とAppleのMacintoshの開発への参加まで、大阪銘板は多くの冒険と革新に挑戦してきた。本記事では、四代目の山口社長のリーダーシップのもと、どのように大阪銘板が業界のパイオニアとしての地位を築き、地域社会と深く結びつきながら、次の100年へと展望を広げているのかを紐解いていく。

(執筆・構成=野坂 汰門)

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山口 徹(やまぐち とおる)
大阪銘板株式会社代表取締役社長
1969年、大阪府生まれ。小学校高学年から中学校卒業までの6年間、父の仕事の関係でシンガポールで過ごす。1993年 同志社大学大学院工学研究科を卒業後、日系電器メーカーを経て、1997年に日本フィリップス半導体事業部(現 NXPセミコンダクターズ)に入社。システムマーケティングとして、オートモーティブ分野の顧客を相手に新規ビジネスの立上に従事し、カーメーカー、Tier1メーカーから数々のデザイン・インを獲得する。2004年6月大阪銘板に入社し、2005年2月代表取締役社長に就任。
大阪銘板株式会社
1914年創業。1932年法人化。1954年射出成形を開始。1955年世界初のテレビブラウン管マスク射出成形に成功。家電業界にビジネスを広げ、近年では自動車やアミューズメント業界に参入する等あらゆるニーズに対応。2014年に創業100周年を迎えた。 一貫生産体制(デザイン提案-試作-金型-成形-仕上・組立)で効率的な生産体制を整えている。BtoC向け自社商品の展開や、様々な研修・プロジェクトの立ち上げ等、多方面において挑戦を続けている。“人を生かす企業”を理念の一つに掲げ人財開発にも力を入れている。

大阪銘板の事業変遷

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まず、これまでの事業変遷についてです。今、山口社長は四代目ということを伺っていますが、創業の頃から山口社長がご就任されるまでの経緯を教えていただけますか?

大阪銘板という名前から、よく銘板屋さんだと思われるのですが、これは創業当時の名残で、現在は銘板を手がけておりません。当時は時代劇で出てくるような木彫りの屋号を作ったことが始まりです。

創業者が独立したのが1914年で、当初は木彫りの看板を作っていましたが、将来的には金属のプレートが伸びると考え、木彫りの看板とは全く違う技術を創業者自身で開発し、真鍮銘板の製品が主流になりました。

その後太平洋戦争の影響で、真鍮が手に入らなくなったため、セルロイドで銘板を作るようになったのですが、その技術が評価され、戦闘機に乗せる航法計算盤の製作や戦争が終わった後もラジオのダイヤル盤にも使われるようになりました。

当時は、松下電器産業(現パナソニックホールディングス)、シャープ株式会社、三菱電機株式会社などから一切合切仕事をいただいていたらしいです。

何が他社より優れていたのでしょうか。

単なる板だったラジオのダイヤル盤を、射出成形の技術を活用し、立体的で意匠性やデザイン性の高いものを提供したことです。これが私たちのプラスチックの射出成形の原点になります。これが70年以上前のことです。

その後はラジオのダイヤル盤だけでなく、テレビのブラウン管のマスクの設計にも携わるようになったと。

それまでは木で作っていましたが、木で作ると家具と同じように、一つ一つ手作りになるので大量生産できずコストも高くなります。しかし、プラスチックで成形することで大量生産が可能となり、安価なテレビを提供できるようになりました。

今となっては、当たり前のように一家に一台テレビがありますが、その時代だとテレビ業界へ進出するというのはかなり大きな挑戦だったのではないでしょうか。

そうですね。その頃はテレビが新しく出てきた時期で、テレビが初めて家に来た日には近所の人がみんな見に来るような時代でした。成形機も当時は非常に高価で、過去6年分の内部留保を全て投じて購入したそうです。これが国産の業務用の一号機と言われています。

それはかなりアグレッシブな投資ですね。その後は、海外へ事業展開されていますよね。

はい、射出成形のパイオニアとしてラジカセなどオーディオ機器向けの製品も増えていきました。そして1978年には海外展開ということで、シンガポールに工場を建設し、欧米系のメーカーさんと取引を始めました。

その十年後には、当時のアップルの製品である、Macintoshの開発にも携わりました。当時の我々の会社案内にアップルのMacintoshが掲載されています。

その後は、金型部門を立ち上げ事業所も拡大し、順調だったように見えますが実際どうだったのでしょうか。

当時は家電の全盛期で、作れば売れるという時代だったので、事業所もどんどん増やしていました。雲行きが変わったのは、バブル崩壊した頃からです。

私が入社したのが2004年頃で、このあたりから徐々に国内の家電需要が減少していきました。

なるほど、現在の売り上げは自動車などが大部分を占めていますね。

はい、私が前職で自動車向けの半導体を扱っていたこともあり、自動車関連の事業を開始しました。現在は、売り上げの大部分は、先代が始めたアミューズメント関連製品と私が始めた自動車部品となっています。

時代の流れに合わせてチャレンジを繰り返し、事業構成を変えてきたように感じたのですが、ここには、会社の理念や社長の思いなど、何か特別なものがあったのでしょうか。

全て会社の理念に現れていると思います。弊社の最高経営方針には、弾力経営体制や技術商品の持続的創造といったことが刻まれています。この理念は、二代目が作ったもので、成功の方程式を後進に伝えていくために作ったものだと私は理解しています。

山口社長が大阪銘板の歴史を見て重要だと考えることは何ですか?

新しいことに挑戦していくということが、弊社の根底にある重要なことだと思っています。例えば、当時売れると思われておらず、誰も引き受けなかったVTR(ビデオテープレコーダー)の試作に取り組んだ結果、その後のVTRの展開に伴う依頼を全て弊社で受けることができました。今でも、この精神を持って活動していて、様々なベンチャー企業様とご一緒しています。他の企業様が断るような案件にも積極的に取り組んでいます。たとえ、そこでロスが出ても、その中から、将来の柱になるような事業を生みだそうというポリシーです。

成熟した日本の経済環境では、無理してまで仕事を取りたくないという企業が多い中、貴社の姿勢は非常に新鮮です。

ありがとうございます。その観点ですと、私たちは真逆ですね。

大阪銘板の強みとは

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そのような事業の変遷を経て、現在の事業の強みは何でしょうか?

私たちの強みは、他の成形事業者から見れば後発の領域である、自動車やアミューズメント業界でも一部のお客様からは一番仕事をいただけるメインサプライヤーのポジションまで上り詰めていることだと思います。

素晴らしいですね。ここにはお客様への対応について何か秘訣があるように感じますが、どうでしょうか?

お客様によって違うので、一言では言えませんが、お客様のお話を真摯に聞き、ご要望を叶えるために徹底的にやり切ることが大切だと思います。

例えば、業界によって製品の管理に対する考え方が大きく異なり、 家電業界では、製品事体に問題がなければOKですが自動車業界では製品に問題ないことに加え、4M(Man:人、Machine:機械、Material:材料、Method:方法)の観点で製造が正しく機能し、品質管理が出来ているという証拠の提示も求められます。

最初は何もできない新参者の私たちでしたが、お客様と真摯に向き合った結果として、今は、信頼のできるパートナーとして評価をいただいていると思います。その結果、他の企業よりも多くのお仕事をいただけるようになりました。

お客様と真摯に向き合うためには、人材採用や組織の教育という点が重要になるかと思うのですが、”人”についてはどのように考えていますか?

最近は、採用に力を入れています。昔は人手さえあれば回っていくという状況だったので、採用は重視していなかったようですが、現代は自分の頭で考え、判断できる人が必要です。そのため、採用には時間をかけています。人数合わせの採用は一切しておらず、理念に共感して一緒に働きたいと言ってくれる人を探しています。チームでの仕事を望まない人や文化に合わない方は、たとえ優秀であっても採用しないという方針です。

人材育成や教育についてもお伺いしてよろしいでしょうか。

教育については、現場の教育は国家資格と、社内資格制度を活用して組織全体の技術の底上げを行っています。

製品の組み立てや仕上げなどは社内資格、射出成形については国家資格の取得を推奨しており、それらを取得できるように、先輩や周りの人がサポートしてするという体制を築いています。また、マネジメントについては一部のメンバーに外部研修を受けてもらい、その後、学んだことを社内に持ち帰り、彼らが講師となり他のメンバーに落とし込むスタイルを採用しています。

ーこのスタイルを採用してから、組織にはどのような変化がありましたか?**

一番はマネジメント層のメンバーが組織のリーダーとしての役割やするべき振る舞いが定着してきたように思います。例えば、昔は部下が失敗すると、上司が批判的な態度を取ることが多かったのですが、今では上司が部下の失敗に対して「教え方や伝え方に問題がなかったか。」「どのように改善していくべきか。」というように客観的な視点から振り返るような風土ができてきています。

それは研修や教育のプログラムによるものなのか、それとも企業としてそういう組織文化をもっているのでしょうか?

両者だと思います。研修で学んだことは時間が経つと忘れてしまいますが、それが継続しているということは、社内でもそういう話がされているからこそ、組織文化として定着しているのだと思います。

大阪銘板の地域での取り組みとは

続いて、地域とのつながりについてもお聞きできればと思います。御社のように長年事業を継続していく上で、地域との関わり方は、重要なポイントの一つになるかと思うのですが、地域社会から支持されるための秘訣や、地域での取り組みについて何か事例があれば教えていただけますか。

私たちの事業は海外も含め広範囲に及ぶので、特定の地域という認識はありません。しかし、周辺の小学校や中学校との関係は大切にしています。

それは具体的にどのようなことを行っているのですか。

例えば、大分や岡山で、小学生の工場見学などの活動を行っています。また、全てではないですが、各地域の市長さんとコミュニケーションをとることは大事にしていて、地域の情勢や行政側で考えていることを理解し、信頼関係を築いています。

そのようなビジネスとは別のない関係を築いていくことも大事にされているのですね。ここまで、企業の変遷や地域との取り組みについてお聞きしてきましたが、山口社長の経験の中で特に印象的なブレイクスルーや成功実績があれば教えていただけますか。

そうですね、先ほど話した自動車事業の話とか結構いろいろありますが、 一つ挙げるとするなら、材料開発についてですかね。

詳しく教えていただけますか?

以前は、マグネシウムを使ってデジタルカメラを作っていたのですが、マグネシウムは強度が高く、電磁波を通さないというメリットがある反面、加工が大変だったり、高価だったりと使いにくい材料でもあります。

そこで、材料メーカーさんと一緒に新たな材料の開発に取り組み、マグネシウムの高い強度はそのままに、マグネシウムを使う一番のメリットである電磁波シールド性能を持った材料を開発しました。これによってパナソニック様のデジカメやムービーにマグネシウムの代替材料としてご採用頂きました。

素晴らしいですね。ここでも新たなことに挑戦する姿勢が感じられますね。

この材料は何年も使用されていましたが、デジカメやビデオカメラがスマホに取って代わられてしまったことで、使われなくなってしまいました。ですが、ここで完全に終わってしまった訳ではなく、パナソニック様から業務用に使いたいとのご意見をいただいたことで、新たに業務用のグレードを開発して現在でも使用しています。これでパナソニック様のエコVCにて金賞をいただきました。

ホームページを拝見したのですが、一面に収まらないほどの受賞歴が並んでいてびっくりしました。まさに努力の結晶ですね。

大阪銘板が見据える将来の展望

それでは最後に、今後の展望についてお聞きできればと思いますが、山口社長が思い描いている未来構想やビジョンについてお聞かせいただけますでしょうか?

来年、我々は創業110周年を迎えます。我々の目指すところは、100周年のタイミングでもお話したのですが、次の100年も会社として続けていくということを考えています。

壮大なビジョンですね。具体的には、どのようなことを成し遂げていきたいのでしょうか?

いくつかあるのですが、まずは継続的に新規事業を立ち上げていくことが重要だと考えています。私は新規事業は10年から15年のスパンで考えるべきだと考えています。これは過去の歴史を見て思うことなのですが、例えば、我々が最初に取り組んだテレビ事業は、ブラウン管テレビの製造から始まり、最後の製造が行われるまで45年から50年ほどです。しかし、その後の液晶テレビの日本での生産は10年ちょっとで終わってしまいました。つまり、事業の移り変わりが速くなっていて、一つ事業を創り上げたからといってそれがいつまでも続くような時代では無くなったと思っています。そのため、社員にも新規事業は10年でなくなると考えるように伝えています。我々は次々と新しい事業を立ち上げる姿勢を続けていくつもりです。

先ほどもお話いただいた、今取り組んでいる小さな事業を20年、30年後のメインの事業にしていくという考え方ですね。

まさにおっしゃる通りです。それこそ、規模としてはまだまだ小さいですが、自社商品の開発にも力を入れています。 あとは、持続可能な社会に向けた環境への配慮ですね。今の時代、プラスチックというと環境の面では悪者にされてしまいます。弊社が扱っているものは、元々使い捨てのものではないのですが、現在、何社かのお客さまと協力して自動車や家電のリサイクルを始め、いくつかの取り組みを行っています。まだ、詳細はお話できないのですが、もう少ししたら発表できると思います。

新規事業への挑戦と環境面への配慮の二軸で、今後の事業を継続的に発展させていくというところですね。これを進めていく上で、山口社長が、個人的に一番大事にしていることは何でしょうか?

それは、人の話に戻りますね。一流の経営者は人を残すという言葉がありますが、まさにその通りだと考えています。お金も事業もいずれは使い古されていくものだと思います。ただ、人がいれば新たな事業やお金を生み出すことができ、会社は永遠に継続していけると思います。だからこそ、人に投資し、一流の人を育てていくことが一番大切だと私は考えています。

なるほど。人を育てていくにあたり、理念の浸透という部分が大事なのかと感じたのですが、そのあたりはどのようにお考えでしょうか。具体的に行っていることなどあれば教えてください。

私たちの会社では、他社ではあまり見られない取り組みとして、トップメッセージというものを隔週で出しています。私がA4サイズの紙にメッセージを書き、それに対して従業員全員が「このメッセージを読んでどう思いますか?どう行動しますか?」という返答を提出してもらっています。

それはすごい取り組みですね。従業員の方々はどう感じているのでしょうか?

最初は読まない人もいましたし、負担に感じる人もいたと思います。しかし、この取り組みを通じて、従業員一人ひとりが考える力、表現する力が養われていると感じています。また、私が書いたメッセージを全員が読むことで、会社の理念が共有され、組織全体としての一体感も生まれているので、理念浸透の仕組みとしても良いものだと考えています。私の周りの人たちが色々な情報を提供してくれるので、そこから得た経験や日々の出来事などネタは無尽蔵にありますので、書く内容に困ることもないですね。

それは素晴らしいですね。現状に甘んじることなく、新たなことに挑戦し続ける姿勢と”人”を育てる文化に感銘を受けました。ありがとうございました。

氏名
山口 徹(やまぐち とおる)
会社名
大阪銘板株式会社
役職
代表取締役社長