親子間で預金移動や贈与税はかかる?ケース別で解説
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目次

  1. 親から子への預金移動は贈与税がかかる?
  2. 預金移動で贈与税がかからないケース
  3. 預金移動で贈与税がかかるケース
  4. 親から子への預金移動による贈与税の計算方法
  5. 親子間での預金移動で悩んだら・・・

親子であれば、親の口座から子の口座に預金を移動しても、贈与税の課税対象にはならないのでしょうか。答えは「場合による」です。

まとまった金額であっても、住宅取得を支援するなどの目的で一定金額以内の預金移動であれば、非課税となります。

一方で、課税対象となる預金移動もあります。一定金額以上の預金移動や借金の肩代わりといった目的だと、贈与税の対象となります。

この記事では、親子間での預金移動で贈与税の課税対象となるケースとならないケースをそれぞれ詳しく説明します。

親から子への預金移動は贈与税がかかる?

親から子への預金移動は贈与税がかかる場合とかからない場合があります。

気を付けなければならないのは、こうした知識を持たずに預金を移動し、贈与税の申告も納税もせず、後に税務署に申告・納税漏れを指摘されることです。

贈与税は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に申告・納税をする必要があります(一定条件下で申告が不要になるケースもあります)。

申告期限を過ぎると加算税や延滞税が課される可能性がある他、刑事罰に処されることもあるため、注意が必要です。

日常的な生活費や教育費のための預金移動なら大丈夫?

日常的に親が子の生活費や教育費を負担するため、親から子へ何らかの財産(現金など)が贈与されることがあります。

親が生活費や教育費を直接支払う場合と、親が子の口座に預金を移動する場合では、贈与税の課税対象となるかどうかが変わります。

基本的に、親が生活費や教育費を直接支払う場合は贈与税の課税対象となりません。

一方で、生活費や教育費のためのお金を子の口座に入れてしまうと、贈与税の課税対象となってしまいます。

国税庁の公式サイトでは、生活費にはケガや病気の治療のための治療費や養育費、子育てに必要な教育費など、さまざまな費用が含まれることが説明されています。

しかし、名目は子どもの生活費や教育費であっても、そのお金で株式や不動産などを購入すると贈与税の課税対象となります。

預金移動で贈与税がかからないケース

続いて、課税制度や非課税措置の特例をうまく活用し、親子間の預金移動が贈与税の課税対象とならなくなるケースを説明します。

暦年課税制度での年110万円以下の預金移動

贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。まず、暦年課税が適用されるケースを説明します。

暦年課税では、年間に贈与を受けた合計評価額が110万円以下であれば、贈与税は課税されません。

基礎控除額(課税対象額から一律で差し引かれる金額のこと)が110万円に設定されているからです。

そのため、1年目に110万円、2年目に90万円、3年目に50万円、4年目に100万円といった形で、4年間で合計350万円の親の預金を子の口座に移動しても贈与税はかかりません。

年間110万円以内の贈与により10年間で合計1,000万円に達したとしても、課税されないのです。

ちなみに贈与税が課税されるのは「贈与を受けた人」で「受贈者」と呼びます。

注意しなければならないのは、親の口座から子の口座への預金移動が年間110万円以内であっても、その子が別の人(例えば祖父母)からも贈与を受け、年間で贈与を受けた金額の合計が110万円を超えた場合は、超えた分が贈与税の課税対象となることです。

相続時精算課税制度での年2,500万円以内の預金移動

「相続時精算課税」を選択した場合は、累計で2,500万円以内の預金移動であれば贈与税は非課税となります。

相続時精算課税では、2,500万円が特別控除額として設定されているからです。

2024年1月からは年間110万円の基礎控除も導入され、相続時精算課税を選択するメリットが増えました。

ある年に預金1,000万円が親の口座から子の口座へ移され、相続時精算課税を選択したケースで考えてみましょう。

まず基礎控除の110万円が1,000万円から差し引かれ、残りの890万円が特別控除枠の2,500万円から差し引かれます。

すると特別控除枠は2,500万円から1,610万円に減りますが、特別控除枠は「累計」で計算されますので、残った枠は翌年以降も引き続き使えます。

ちなみに暦年課税と相続時精算課税を比べると、まとまった金額を贈与する場合は暦年課税のほうが負担は大きくなりがちです。

どちらの課税方式でも控除額を超えて贈与を受けた場合は課税対象となりますが、暦年課税の場合の税率は10〜55%、相続時精算課税の場合は一律20%と設定されています。

教育資金の贈与への非課税措置を利用した預金移動

贈与税には教育資金の一括贈与に関する非課税措置という特例が用意されており、この制度を利用することで1,500万円まで非課税で預金を移動することができます。

この非課税措置は、祖父母や親などの直系尊属からの贈与が対象です。ここでいう教育資金には、以下のようなものが含まれます。

学校に支払うもの 入学金、授業料、施設整備費、検定料、学用品の購入費、修学旅行のための費用、給食費など
学校以外に支払うもの 学習塾やそろばん教室などの授業料や施設使用料、指導のために使用する物品の購入費など
その他のもの 学校などに通うための定期券代や、留学の航空券代など

この非課税措置の特例の適用を受けるためには、「教育資金口座」を開設する必要がある他、教育資金の預け入れや信託を行う日までに「教育資金非課税申告書」を提出する必要もあります。

結婚・子育て資金の贈与への非課税措置を利用した預金移動

親が子に結婚・子育て資金を一括贈与するために預金を移動した場合も、贈与税の非課税措置の対象となります。直系尊属である祖父母からの一括贈与であっても、贈与税は非課税となります。

非課税となる金額は1,000万円までです。この特例措置を適用させるためには「結婚・子育て資金非課税申告書」を提出する必要があります。

また、前年の所得に関する一定要件などを満たす必要もあります。

ここでいう結婚資金は、以下のようなものです。

結婚資金 挙式や結婚披露宴のための費用、新居のための家賃や敷金、引っ越し費用など
子育て資金 不妊治療のための費用、妊婦健診や分娩費などの費用、幼稚園や保育所の保育料、ベビーシッター代、子どもの医療費など

住宅取得等資金の贈与への非課税措置を利用した預金移動

親から子に住宅取得等資金として一括贈与をした際にも、非課税措置の特例が適用されます。住宅の新築や取得の他、増改築も対象です。

住宅によって上限額が異なり、「省エネ等住宅」用の場合は1,000万円まで、「それ以外の住宅」用の場合は500万円までが非課税となります。

ここでいう省エネ等住宅とは、以下の3つの要件のいずれかを満たす住宅用家屋のことです。

・断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上
・耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物
・高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上

この適用を受けるためには、贈与を受けた人の年齢がその年の1月1日時点で18歳以上であることが必要です。

また、過去一定期間の贈与税の申告で同様の非課税措置の特例の適用を受けたことがないことなどを満たす必要があります。

その他にも、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに一括贈与を受けた資金を使って住宅用家屋の新築などをする必要があります。

預金移動で贈与税がかかるケース

続いて、預金移動が贈与税の課税対象となる場合、預金移動に似たケースで贈与税が課税される場合について説明します。

前述のケースに当てはまらない預金移動

ここまで説明してきた2つの課税方式の基礎控除内・特別控除内での贈与、教育資金や結婚・子育て資金、住宅取得等資金としての贈与に当てはまらない預金移動の場合は、基本的に贈与税の課税対象となります。

前述のケースに当てはまらない預金移動
1.投資に充てるための預金移動
2.借金の肩代わりのための預金移動
3.親子間で親が保険料を支払い、子が保険金を受け取ったケース
4.親子間で美術品を格安で譲るケース

1.投資に充てるための預金移動

教育資金や結婚・子育て資金のためなどと偽り、実際には投資のために親の口座から子の口座に預金を移動した場合も、贈与税の課税対象となります。

ただし、暦年課税と相続時精算課税の基礎控除・特別控除内であれば、贈与税は非課税となります。

証券口座は、未成年でも開設することができます。例えば、この子の証券口座で株式投資を行うために1,000万円を親の口座から子の口座に入金したとします。

暦年課税で申告を行う場合、1,000万円のうち110万円は基礎控除として差し引かれますが、残りの890万円は課税対象となります。

相続時精算課税で特別控除枠2,500万円を使い切っていて、同様に1,000万円を親の口座から子の口座に預金を移動した場合はどうなるのでしょうか。

相続時精算課税にも毎年110万円の基礎控除がありますが、特別控除枠は使い切っていますので、基礎控除だけを差し引いた890万円が課税対象となります。一方、特別控除枠が890万円以上残っていれば、全額が非課税となります。

2.借金の肩代わりのための預金移動

親が、子の借金を肩代わりするために預金を移動した場合はどうでしょうか。

子の口座で投資に充てるための預金移動の場合と同様に、基礎控除・特別控除に収まらない金額の贈与の場合は、控除額を超えた分の金額に贈与税が課税されます。

一方、贈与税が非課税となるケースがあります。それは、子が自身で借金を返済できない状況に追い込まれ、生活の困窮などが起こっているケースです。

3.親子間で親が保険料を支払い、子が保険金を受け取ったケース

預金移動ではありませんが、以下はよくあるケースなので取り上げておきます。

親が保険料を支払っていた保険があり、親が亡くなって子が受け取った生命保険金も贈与税の課税対象となります。

ただし、親が保険料を支払っている保険であっても、病気やケガ、通院、手術などのために支払われた一時金などは贈与税の課税対象外です。

4.親子間で美術品を格安で譲るケース

こちらも預金移動ではありませんが、美術品を親から子へ贈与した際にも申告漏れの指摘を受けることがありますので、説明しておきます。

市場価値が2,000万円の美術品を親が所有しており、親が子にそれを110万円で譲ったとします。

もしこのようなケースで贈与税が非課税になるなら、2,000万円の現金で2,000万円の美術品を購入し、それを110万円で子に贈与すれば、2,000万円の現金を非課税で子に贈与できることになります。

子はその美術品を2,000万円で売却すれば、現金2,000万円が手に入るからです。

こうしたやり方を税務署は厳しくチェックしています。実際にこうした行為を行って発覚した場合は、市場価格と譲った時の価値の差額が、課税対象額として計上されることになります。

親から子への預金移動による贈与税の計算方法

親から子への預金移動によって課税される贈与税を計算する際には、2つの課税方式のどちらを選択するかを決めた上で課税対象となる課税価格を計算し、適用される税率を乗じて課税額を算出します。

暦年課税における計算方法

暦年課税の課税方式における贈与税の計算式は、以下のとおりです。

(1年間で贈与を受けた価額の合計額 − 基礎控除額110万円) × 税率 − 控除額

暦年課税における税率は「一般税率」と「特例税率」があり、親から未成年の子への贈与などでは一般税率、祖父母から孫への贈与や親から子への贈与では特例税率が適用されます。

それぞれの税率と控除額は以下のとおりです。

<一般税率>

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% -
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

出典:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

<特例税率>

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% -
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

出典:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

基礎控除後の課税価格とは、上記の式の「1年間で贈与を受けた価額の合計額 − 基礎控除額110万円」のことです。

特例税率のほうが、課税額が抑えられる仕組みになっています。基礎控除後の課税価格が4,000万円の場合、一般税率と特例税率における課税額は以下のとおりです。

<一般税率>
4,000万円 × 55% − 400万円 = 1,800万円

<特例税率>
4,000万円 × 50% − 415万円 = 1,585万円

一般税率の場合は1,800万円、特例税率の場合は1,585万円で、課税額は特例税率のほうが215万円少なくなります。

相続時精算課税における計算方法

相続時精算課税の課税方式を選択した場合は、基礎控除・特別控除の範囲を超えた課税価格に対し、一律で20%の贈与税が課税されます。例えば控除後の課税価格が1,000万円の場合、贈与税額は200万円です。

親子間での預金移動で悩んだら・・・

親子間での預金移動について贈与税が課税されるのか課税されないのかわからない場合は、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

専門家でなければ判断できないケースもあります。また、税務署などに電話で相談してみてもよいでしょう。

まとめ

親から子への預金移動による贈与において想定外の課税が行われることを防ぐために、課税方式ごとの控除額や非課税措置の特例の知識を身につけておくことは、非常に重要です。

基本的なルールを理解することは難しくありませんが、判断に迷った場合は税理士などに相談してみましょう。