暦年贈与で重要になる契約書の書き方をひな形付きで解説
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目次

  1. 暦年贈与を検討している方へ
  2. 暦年贈与で契約書が必要になる理由
  3. 贈与契約書の作り方
  4. 暦年贈与と契約書に関する注意点4つ
  5. 贈与契約書作成のQ&A
  6. まとめ

相続対策として生前贈与をする際に、多くの人が活用するのが「暦年贈与」です。暦年贈与では毎年110万円の基礎控除を活用しつつ時間をかけて生前贈与をすることで、いざ相続が発生した際の財産圧縮が可能です。

暦年贈与は生前贈与を活用した相続対策としてポピュラーですが、この節税スキームを有効に活用するために、知っておくべきことがあります。

暦年贈与で失敗しないためには契約書をしっかり作成しておく必要があるので、当記事では贈与契約書の作成方法やひな形なども提供しつつ、暦年贈与をスムーズに進める方法について解説します。

暦年贈与を検討している方へ

暦年贈与による相続税対策を検討している方に向けて、知っておくべき基礎知識を節税の観点でおさらいしておきましょう。

暦年贈与の仕組み

贈与税には、2つの課税方法があります。暦年課税と相続時精算課税です。特に何も手続きをしなければ、暦年課税が適用されます。

暦年課税の場合、贈与税には年間110万円の基礎控除があります。年間110万円以下の贈与であれば非課税で、申告も不要です。年間の贈与額が110万円を超えた場合であっても、課税されるのは110万円を超えた分のみです。

暦年贈与はこの仕組みを利用して、年間の贈与額を110万円以下に抑えて少しずつ生前贈与をして相続時の財産を少なくし、相続税の節税を目指す贈与方法です。

暦年贈与が節税になる理由

暦年贈与が節税スキームとして注目されている理由は、相続税率の高さにあります。以下は、相続税の税率です。

相続財産の評価額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
1,000万円超から3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超から5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超から1億円以下 30% 700万円
1億円超から2億円以下 40% 1,700万円
2億円超から3億円以下 45% 2,700万円
3億円超から6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

出典:国税庁 No.4155 相続税の税率

最高税率は55%なので、6億円を超える相続をした場合は相続財産の半分以上が税金になります。

「5,000万円超から1億円以下」と「3,000万円超から5,000万円以下」の間にも10%の差があります。

相続財産がこの境目にあるような人は、「少しでも相続時の財産を圧縮して相続税を節税したい」と考えるでしょう。

そこで「生前贈与を活用して、相続開始までにできるだけ多くの財産を移転しておきたい」と考えます。

暦年贈与で毎年少しずつ財産を移転しておけば、相続開始時の財産が少なくなるので、相続税率の低減と相続税額の圧縮が実現するわけです。

暦年贈与で契約書が必要になる理由

暦年贈与自体に違法性はなく、適切に処理すれば節税メリットを享受できます。

しかしながら、適切に処理しなければ定期贈与といって「本来は1回で贈与する予定の財産を税逃れのために分割した」と見なされる可能性があります。

そのリスクへの対策となるのが、贈与契約書です。家族間などの贈与であっても契約書を作成しておくことが重要なので、ここでは贈与契約書が重要な理由を解説します。

暦年贈与で契約書が必要になる理由3つ
1.贈与の事実を証拠として残せる
2.税務調査が入った際に対抗できる
3.相続発生時のトラブルを回避できる

1.贈与の事実を証拠として残せる

先ほど述べた「定期贈与」であるか否かは、税務署が判断します。贈与者(財産をあげる人)や受贈者(財産をもらう人)の双方が贈与であると主張しても、それが税務署に認められるかどうかは別問題です。

贈与をした事実を証拠として残すのに有効なのが、契約書です。

家族間など身近な人同士の贈与で、しかも現金の手渡しであれば「身内同士なのに大げさ」「家族内のことなのでどうせバレない」といって、契約書などの書面を残さず贈与をする場合もあるでしょう。

しかし、これだとその贈与について疑義が生じた場合、当事者が合意をした「それぞれ毎年独立した贈与(つまり定期贈与ではない)」であることを証明する手段がありません。

たとえ身近な間柄の贈与であっても贈与契約書を作成し、しっかり保管しておきましょう。贈与契約書の作成方法については、後述します。

2.税務調査が入った際に対抗できる

贈与に関する疑義が生じて税務調査が入った場合に、贈与の事実の有無が争点になることがあります。

贈与者と受贈者の双方が主張しても、書面がなければ証明したことにはなりません。税務署に疑われた際にもその事実を堂々と証明するためには、契約書が必要です。

3.相続発生時のトラブルを回避できる

相続は「争族」と揶揄されることもあるほど、トラブルが起こりやすいものです。

相続には、法定相続人や各相続人の遺留分(相続の権利が保証されている取り分)の取り決めがありますが、贈与には特に決まりがありません。

そのため、特定の人に多額の贈与をすると不公平感が生じやすく、それが「争族」に発展するおそれがあります。

当事者だけが密室でお金のやり取りをしたと疑念を持たれると問題を複雑にしてしまうので、贈与の事実を契約書に残しておくことは、相続時のトラブルの回避にも役立ちます。

贈与契約書の作り方

贈与契約書には、特に書式がありません。必要な情報が記されていていれば問題はなく、法的にも有効です。

とはいえ、初めての人が白紙の状態から贈与契約書を作成するのは難しいでしょう。そこで、贈与契約書の作成に必要な情報と、ひな形を提供します。

贈与契約書の書式は自由

贈与契約書も契約書の一種ですが、書式は特に指定されていないので自由です。

契約の当事者は贈与者と受贈者で、それぞれを特定できる情報と贈与財産の内訳がわかれば契約書としての効力が生じます。

当記事ではひな形を提供しますので、それに必要事項を記入すれば贈与契約書として使用できます。

贈与契約書に必要な項目

贈与契約書の作成にあたって必要な情報は、以下のとおりです。

贈与契約書に必要な項目
1.贈与者の氏名、住所
2.受贈者の氏名、住所
3.贈与契約締結の日付、贈与を実行する日付
4.贈与財産の種目、内容、金額など財産に関する情報
5.贈与の方法

1.贈与者の氏名、住所

誰が財産をあげるのかを明確にするために、贈与者の氏名と住所を記載します。一般的に、契約書では「甲」となります。

2.受贈者の氏名、住所

誰が財産をもらうのかを明確するために、受贈者の氏名と住所も記載します。

贈与は贈与者と受贈者の双方が「あげる」「もらう」ことを合意している必要があるので、契約書では受贈者が署名捺印することで受贈の意思を表示します。一般的に、受贈者は契約書では「乙」となります。

3.贈与契約締結の日付、贈与を実行する日付

贈与契約を締結した日と、実際に贈与を実行する日付を記載します。

締結日と実行日が同じであっても問題ありませんし、別の日でも構いません。現実に即した日付を記入しましょう。

銀行振込であれば、振込日を贈与日として記載します。

4.贈与財産の種目、内容、金額など財産に関する情報

次に記載するのは、「何をあげるのか」に関する情報です。贈与財産の種目や内容、必要であれば金額、不動産であれば所在地などの情報を記載します。

5.贈与の方法

どうやって財産を贈与するのか、方法を記載します。現金の手渡しや銀行振込、不動産の名義変更など、これらの情報についても贈与の事実に沿って記載します。

贈与契約書のひな形

贈与契約書のひな形を作成しました。この内容をコピーしてWordなどのソフトに貼り付け、必要な内容を書き込めば贈与契約書として利用できます。

贈与契約書


贈与者      (以下、甲という)と受贈者      (以下、乙という)は、以下のとおり贈与契約を締結した。


第1条 甲は、乙に対して       を贈与することを約し、乙はこれを承諾した。

第2条 甲は、第1条において贈与した財産を、令和  年  月  日までに、〇〇〇〇(贈与の方法)によって贈与する。

以上の契約を証するために本書を2通作成し、記名捺印の上、甲乙各1通を保有するものとする。
以上

令和  年  月  日
甲                  
        (住所)               
(氏名)            印  

乙                  
(住所)               
(氏名)            印  

下線部分や〇〇となっている部分には、当事者の情報や贈与財産に関する情報を記入します。

契約書はパソコンで作成してもOK

前項で紹介した贈与契約書のひな形を、テキストデータとしてそのままコピー&ペーストしても利用できます。

パソコンなどで作成した文書でも有効なので、ペーストしたものをプリントアウトしても利用可能です。

ただし、氏名だけは自書(手書き)である必要があります。また、印鑑についてもプリントアウトではなく、実際の印鑑で捺印してください。

捺印は三文判ではなく実印を推奨

贈与契約書に捺印をする場合の印鑑に特に定めはないのですが、可能であれば実印を使用することをおすすめします。

三文判だと第三者が同じものを用意できる余地ができてしまいますし、実印だと第三者が同じものを用意できる可能性が低くなり、印鑑証明書を用意することで、契約書の信頼性が高くなります。

贈与者と受贈者に1通ずつ発行する

贈与契約書は贈与者と受贈者が1通ずつ保管する必要があるので、契約書は2通発行します。

暦年贈与の場合は毎回作成する

暦年贈与は、毎年少しずつ贈与をしていくスキームです。面倒かもしれませんが、贈与をしたことを証拠として残すためにも、毎回贈与契約書を作成しましょう。

定期贈与と見なされないためにも、契約書の内容は毎回変えて個々の契約として締結するのがポイントです。

暦年贈与と契約書に関する注意点4つ

暦年贈与をスムーズに進めるための注意点を解説します。

暦年贈与と契約書に関する注意点4つ
1.契約書と事実の整合性を確保する
2.銀行口座の管理は受贈者が行う
3.名義変更を伴う贈与は名義変更も済ませておく
4.贈与者が亡くなる7年以内は贈与と見なされない

1.契約書と事実の整合性を確保する

贈与契約書は法的に有効な書面なので、そこに書かれていることが事実と異なると法的な問題が生じます。

贈与者と受贈者についてはもちろん、日付や金額などについても事実との整合性を確認しましょう。

贈与をしたのであれば契約書が必要ですし、契約書を作成したのであれば契約書に記載されている贈与を実際に行う必要があります。

2.銀行口座の管理は受贈者が行う

現金の贈与を行う場合は、銀行口座に振り込むのが一般的です。現金に手渡しであっても、贈与された現金は銀行口座で保管するでしょう。

その際に注意したいのが、受贈者名義の銀行口座の管理です。

贈与によって財産の所有権が受贈者に移っているのに、受贈者名義の口座を贈与者が持ったままだと贈与の事実についての整合性が取れません。

親から子へ贈与をする際に、親が子の名義で開設した口座に入金することがあります。子がその自分名義の口座の存在を知らない場合は、受贈者が同意していないので贈与が成立しません。

契約書を作成すれば「知らなかった」という事態は起こりにくいと思いますが、親が子のために貯金していたとしても、贈与ではなく死亡時の相続になることがあります。

受贈者が銀行口座を管理することで、贈与が完了した事実を成立させることが重要です。

3.名義変更を伴う贈与は名義変更も済ませておく

不動産など名義がある財産については、贈与とともに名義の変更や登記を済ませておきましょう。これについても、贈与契約書の内容と事実との整合性を取る必要があります。

名義変更が必要なものは贈与時に手続きを済ませ、それを証明するための書類(登記事項証明書など)を保管しておくとよいでしょう。

4.贈与者が亡くなる7年以内は贈与と見なされない

令和6年1月1日に施行された改正によって、贈与者が亡くなる7年前までの贈与は生前贈与ではなく、相続財産の一部と見なされるようになりました。

改正前は3年間だったので、さらに4年間さかのぼることになりました。

相続税対策の一環として暦年贈与を活用するのであれば、できるだけ早めに動くことをおすすめします。

贈与契約書作成のQ&A

最後に、贈与契約書の作成におけるよくある質問とその答えをQ&A集としてまとめました。

贈与契約書作成のQ&A
Q1.受贈者が未成年者の場合はどうする?
Q2.相続時精算課税制度との併用は可能?
Q3.110万円を超える暦年贈与を推奨するような情報がありますが、これはなぜ?

Q1.受贈者が未成年者の場合はどうする?

受贈者が未成年であっても、贈与者の「あげる」と受贈者の「もらう」という合意が成立していれば、贈与は可能です。

未成年者であっても契約書の受贈者欄に記名と捺印をすれば、贈与契約は成立します。ただし、契約の際に親権者の同意を得ておかなければ、後で親権者によってその契約が無効化される可能性があります。

後で話が変わってしまうことを避けるために、贈与契約書を作成する時点で親権者にも記名・捺印をしてもらいましょう。

Q2.相続時精算課税制度との併用は可能?

贈与税には、暦年課税と相続時精算課税という2つの課税方法があります。これらは二者択一であり、併用することはできません。

何も手続きをしなければ暦年課税になりますが、一度相続時精算課税を選択すると暦年課税に戻すことはできません。

ただし、これは同じ贈与者からの贈与に限った話であり、別の贈与者からであれば暦年課税と相続時精算課税のどちらかを選ぶことができます。

つまり、別々の贈与者からの贈与であれば、暦年贈与と相続時精算課税制度を併用することができます。

Q3.110万円を超える暦年贈与を推奨するような情報がありますが、これはなぜ?

年間110万円は基礎控除額です。これを超える贈与をすると超過分が贈与税の課税対象になるので、節税メリットをあえて捨てているように見えるかもしれません。

しかし、110万円を少しだけ超えるように贈与をして、申告・納税をすれば税額はわずかです。200万円以下の贈与であれば税率は10%なので、111万円を贈与して納税したとしても税額は1,000円です。

1,000円の税金を負担することで贈与の証拠を残せば、定期贈与であると見なされるリスクを回避できるます。

あえて110万円を超える暦年贈与を推奨する情報があるのは、こうしたメリットを享受するためです。

まとめ

暦年贈与をスムーズに進めて相続税対策を行うためには、暦年贈与である事実を明確にして証拠を残す必要があります。

贈与契約書はそのための有効な手段ですが、それ以外にもあえて基礎控除額を超える贈与をして納税の事実を残す方法もあります。

当記事では贈与契約書の作成方法にスポットを当てて、法的に有効な契約書のひな形も提供しています。これらを活用して、スムーズな暦年贈与と、その先にある相続税対策にお役立てください。