政府からの「リスキリング支援1兆円投資」や「人的資本開示の義務化」の発表があり、企業というものの“人財”や“社員”への向き合い方が問われている。そんな中、“働くもの”に愛され、社員の力で成長し続ける企業に、その取り組みや今後の展望を伺った。

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(画像=株式会社伊勢半)
澤田 晴子(さわだ はるこ)
株式会社伊勢半 代表取締役社長
大学卒業後、商社勤務やカルチャースクール講師などを経て、約20年間企業教育のコンサルタントとして活躍。
2003年伊勢半グループ入社。最後の紅屋・伊勢半の紅づくりや日本の化粧文化について伝える「紅ミュージアム」の設立や、あざ・傷あと・白斑など肌色に悩みを抱えた方向けのカバーメイク化粧品を販売するグループ会社「マーシュ・フィールド株式会社」の社長などを歴任。
2009年、株式会社伊勢半の社長に就任し現在に至る。
江戸時代の1825年に創業した紅屋がはじまりの総合化粧品メーカー、2025年に創業200周年を迎える。
現在はコーポレートブランドKISSMEを掲げ「私らしさを、愛せるひとへ。」というメッセージのもと、「キスミー フェルム」「ヒロインメイク」「ヘビーローテーション」「キス」「キスミー マミー」といったセルフメイクブランドを展開。
一方で、現存する最後の紅屋として江戸時代から変わらぬ製法で紅づくりも守り続けている唯一の企業。

日本で最も長い歴史を持つ女性用化粧品メーカー、その原点は紅屋

弊社は江戸時代後期の1825年に紅屋「伊勢屋半右衛門」として創業しました。江戸時代に使われていた紅は、食紅や浮世絵につかう絵の具など様々あり、それらの製造・販売を行っていました。この紅は江戸から現在に至るまで、当時と同じ製法で作り続けています。当社は2025年に創業200周年になりますが、これまでの歴史の中では、戦争や震災があったり、企業として経営難に陥りそうになった時期もありました。しかし、その都度社員が一丸となって叡智を集めて、力を合わせて紡いできた末に、ようやく200周年を迎えるところです。

当社は化粧品メーカーであり、製造業としての側面と販売会社の役割がありますが、私の前職は教育コンサルタントでしたので、組織拡大や人財育成については、ある程度ノウハウがある一方、この業界や経営については本当に無知だったため、多くの苦労がありました。

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(画像=株式会社伊勢半)

企業文化の差異を乗り越えてチームを一つにした方法

組織において最も苦労したことは、組織全体の共通認識を作ることと、会社への理解を促し、誇りを持って働く優秀な社員を育成するということでした。

2005年に、株式会社伊勢半という製造会社と、株式会社キスミーコスメチックスという販売会社が合併し、異なる文化の組織が統合されたことにより、組織の不協和音が起きました。安全・安心を最重要と考え、とにかく真面目に着実にという文化の製造部門と、市場からニーズをつかみ取って、打ち出していくという文化の営業部門とでは、根本的な考え方が違うため、日々の議論においても、議題について話をする前のすり合わせの段階でつまずくことが多かったです。例えば、一言で原価と言っても商品の原料価格の話をしている人と販売するときの費用を含めたコストについて話している人がいるというような状況です。このような状況の中では、それぞれの分野の専門性を持っていない私が、社長として一人で取りまとめることはかなり困難でしたので、社員の中で、マネジメントに長けていてなおかつ専門的な知識と経験を持っているメンバーを選抜して本部長として任命し、本部長会議という場を設けて運営していきました。ここで、全体の共通認識として大事にしたことは、お互いのことを学び、理解するために、知らないことはわからないとはっきりと言うということです。一番の素人である私自身が率先してこの行動を行うことで、私自身が勉強するだけでなく、異なる文化を持ったメンバーの相互理解を促しました。

また、このように経営の核となる組織を作るとともに、全社に対しても相互理解を促すための活動を行いました。社長としては伝えているつもりでも、いざ現場の社員に話をきいてみると理解されていないということは多々あり、経営者の考えを現場レイヤーの社員まで伝えて理解してもらうことは難しいと感じました。

そこで、まずは全員が自社を理解し会社に対して誇りを持ってもらうために、自社の歴史に関する教育を実施しました。社員は当社が化粧品会社としては老舗だということはなんとなく理解しているものの、人に語れるほどの理解はできていない状態でしたので、私たちの会社はどのように起こり、どのように紡いできたのかを伝えました。さらに、会社案内を作成し全員が営業マンとして社外の方にお話しできるようロールプレイングを実施することで、社員に理解を深めてもらいました。 事業計画や目標設定についても同様です。毎年、各本部長が自分の本部は今年何をするべきであるかを考えて作成した後に、部下に共有してさらに意見を反映させたうえで、本部の方針として落とし込むという仕組みになっていて、経営陣が計画を作って一方的に共有するのではなく、受け取る側の社員がしっかりと腹落ちできるようにしています。

多様な社員を守るための働き方改革

社会全体でも課題になっている、育児や介護により仕事の制限を受ける方々も自分のペースで働き続けられることが重要だと考えています。具体的には、育児休暇において男女共に取得しやすい環境を整えたり、介護が必要なご家族を持つ人が柔軟に休みを取得できたりするといったことです。それだけでなく、困ったときに相談できる人がそばにいることや、何かを調べようと思った時にわかりやすくまとまっているものが用意されていることなど、社員の皆さんが安心して働けるような環境をつくるために、制度設計や文化醸成などを行っているところです。

実際、男性社員の育児休暇取得率は現時点で100%ですし、休暇により空いた穴を部門全体で調整したり、長期休暇の取得や職場復帰における手続きや心理的な負担について上司が支えたり助言したりできるような風土もできつつあります。

また、時短勤務を活用している社員の方も多いのですが、その短い時間の中でどのように生産性高く仕事をするかという観点で、上司が各自の勤務時間に合わせた目標設計を一緒に考えて、その結果のフィードバックも行うことで、通常の勤務とは異なる基準で適切な評価をつけることができる仕組みを作っています。上司としても、最適解を研究しながら一緒になって考えており、そのような柔軟性は当社の強みの一つになっていると感じています。

目標達成のために必要な「進取果敢な行動」

マネジメント層のメンバーに評価のための勉強会を行ったり、個人の専門性を高めるために制度を作って、成長機会を提供するような人財育成の構築に注力しています。 現在はこの専門性認定制度を導入したことで、しっかりと自分の能力を高めれば、会社が見合ったレベルまで評価できるようになりました。

このように、昇進という形だけでなく特定の領域に特化して専門性を高めたい人など、多様なキャリアを実現できるようにすることで、各自が自分の目標に向かいやすくなり、それが各人の働きがいや仕事を楽しむことにつながっていくと考えています。その結果、個人が輝くことで組織としても良い成果を出すことにつながっていきます。

当社のインナースローガンの中に「進取果敢」という言葉があります。誰もが難しいと思っていることや誰もやってこなかったことに勇気を持って挑戦しようという意味です。ここ数年はこのメッセージを繰り返し発信しています。どの部門においても計画を個人目標にまでブレイクダウンして、ひとりひとりが今年の進取果敢な行動を掲げ実行し、そこに良い評価がつくと、ますますやる気を持って取り組んでくれます。私も目標を立てて取り組み、それが少しでも形になると、非常に気力が沸いてきたりするので、新しい目標を見つけながら勇気を持って一歩踏み出してみるということを、社長である私が先頭に立ってやり続けています。

コロナ禍でも短期間で経営を回復したワケ

近年ではコロナによりマスク着用が強いられ、メイクの需要が突然変わるなど、世の中の動向が非常に読みにくくなっています。そのような環境であっても、全社員で進取果敢な行動をもとに知恵を出し合って柔軟に取り組んだことで、コロナ禍においてそうした努力が結実し、短期間で経営を回復させることができました。先が見えず苦しい時期もありましたが、そういう中で頼れる仲間がいることは当社の強みです。これからも社員がライフスタイルに合わせて能力を発揮し、会社としても成長を続けられるよう率先して行動していきたいと思います。

そして社員には、人として思いやりを大事にしてほしいです。そのうえで、仕事においては、達成しなければならない様々な目標はありますが、仕事を楽しむ心を忘れないでほしいと願っています。 やるからには大きな目標に勇気を持って挑戦し、それさえを楽しもうということです。このメッセージはこれからも発信し続けていきたいと考えております。

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氏名
澤田 晴子(さわだ はるこ)
会社名
株式会社伊勢半
役職
代表取締役社長