年金基金の取り崩しが始まり、社会保障費としての財政支出の拡大となり、それが有効需要(社会保障を受け取った人の支出)となり、現役世代の所得を増加させているという仮説を紹介してきた。

これまでは、高齢化比率が上昇しているにもかかわらず、年金基金が積み上げられ続け、過剰貯蓄がデフレ圧力として現役世代の負担を過度にしてきたと考えられる。

年金基金の取り崩しは、この過剰貯蓄から一転して、貯蓄から需要への変化になっていることを意味し、内需の回復を支えている可能性がある。現役世代の所得を増加させ、デフレ圧力が和らぐことになる。

日銀の資金循環統計で公表となる金融資産の変化から金融負債の変化を差し引いたネットの金融資産の増加分(資金過不足)を名目GDPで割ることにより、家計の貯蓄率を計測する。

家計の貯蓄率は、1990年代前半から下落を始め、2002-2005年にはゼロ%近くまで低下し、それ以降は5%程度まで修復してきた。この下落の局面は、高齢化にも変わらず、年金基金が積み上げられ続け、富が家計から奪われていたことを意味する。

この隠れた過剰貯蓄が、総需要の破壊による雇用環境の悪化とともに、消費者心理も悪化させ、内需を更に萎縮させ、デフレ圧力を強めてしまった可能性がある。

家計の貯蓄率の低下が財政ファイナンスの懸念として指摘されてきたが、それが高齢化にもかかわらず年金基金が過度に積み上げられた結果だとすると、かなりおかしな展開になっていたと言える。

高齢化を懸念して必要以上に準備を前倒しし、それが家計のファンダメンタルズを悪化させ、貯蓄率の低下が更なる財政不安につながり、増税と社会保障負担の引き上げが更に家計のファンダメンタルズを悪化させる、悪循環になっていたと言える。

現在は年金基金が取り崩されているので、貯蓄から需要への変化となり、内需と雇用環境の回復につながり、それが家計の貯蓄率を修復させてきたと考えられる。消費者心理が改善し、内需が拡大に転じ、デフレ圧力が和らぐ、これまでとの逆の展開となっている。

本来は年金基金は存在するだけで安心材料になるはずであり、それが取り崩されるということは現役世代の所得を増加させ、デフレ圧力が和らぐことになる。

それが誤解により、取り崩しが始まっただけで財政に対する過度な不安感を抱き、消費税率引き上げや現役世代の社会保障負担増加につながってしまえば、デフレ完全脱却の力を削いでしまうことになる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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