新たな社会保険導入による国庫負担の増加

◆遅れていた社会保険の導入

中国における、近年の社会保障に関する財政支出の増加には、少子高齢化に加えて、新たな対象者に社会保険制度が導入されたことで、社会保険に関する直接的な財政負担が大きくなっている点が挙げられる。中国の社会保険は、大きく分けて都市の就労者を対象とした制度(年金、医療、労災、失業、出産育児の5つ)と、都市の非就労者および農村部住民を対象とした制度(年金、医療)がある。

前者の都市の就労者を対象とした制度は、1949年の中国建国以降、順次導入が進められたが、後者の都市の非就労者を対象とした医療、年金制度の導入や、農村住民を対象とした制度の国庫負担が開始されたのはごく最近である(図表4)。なお、日本の介護保険に相当する制度はまだ導入されていない。

経済が高度成長にあった胡錦濤政権下では、国が皆保険を目標とし、それまで社会保険のカバー外であった都市の非就労者の医療保険(2007年国が導入を発表)、年金(同2011年)、が導入された。また、農村部住民を対象とした制度についても、医療保険は2003年、年金は2009年から国による財政負担が開始され、制度が大幅に改正されている。

中国の社会保障関係費 図4

◆社会保険への財政支出は5年で2.4倍に増加

上掲の胡錦濤政権下で導入された社会保険制度は、被用者保険と異なり、いずれも中央及び地方の財政負担が重くのしかかる制度となっている。また、中国の社会保険制度は、中央(国)がガイドラインを決定するものの、各地方に、保険料の設定から徴収、給付の規準、保障の範囲までの具体的な制度運営が委ねられている。

例えば、都市の非就労者を対象とした医療保険の保険料は、都市の就労者を対象とした定率の保険料とは異なり、予め設定された複数の保険料の中から、自身の経済能力に応じた保険料を選択し、納付するという仕組みをとっている。地方政府は、加入者のインセンティブを高めるために、本来の給付に加えて、納付する保険料の多寡に応じた金額を、補助として支出している。

また、都市の非就労者を対象とした年金制度についても、現時点では制度が導入されて間もないため、財政から無拠出の基礎年金が給付されている。更にこの年金制度についても前掲の医療保険と同様で、より高い保険料を納付した加入者に対しては、地方財政からより高い補助を支出している。

加えて、より長く保険料を納めた場合には、地方財政が年金給付時に納付年数に応じた加算金を支出することになっている。このような給付以外の補助が財政を圧迫する大きな要因の1つとなっている。しかしながら、中央財政は、これらの補助や基礎年金の一部を負担しているのみである。制度を維持していく上では、地方財政が当該地域の経済情勢に基づき、より多くの補填や財政支出をする必要がある。

中国では社会保険制度を新たに導入する場合、その導入時期は管轄地域が決定するため、同じ制度でも開始時期には数年の時間差がある(*3)。加入者の多くが高齢者や低所得層である中で、今後、制度が更に普及し、少子高齢化が進展した場合、このような制度設計が、財政支出への圧力を更に高める要因となろう。

地方財政における各社会保険基金への財政支出をみると、2010年から2014年の5年間で2.4倍にも膨らんでいる。都市の就労者を対象とした年金への財政支出の規模が最も大きいが、特に都市の非就労者や農村住民を対象とした年金制度や、農村住民を対象とした医療保険等、新たに導入されたり、国庫負担が引き上げられた社会保険の影響により、財政支出が急速に増加している(図5)。

中国の社会保障関係費 図5