大学での金融教育の課題は、社会人としてのお金のリテラシーを幅広く身につけること
ー大学での金融教育において課題に感じていることはありますか?
佐々木教授:
大学は生徒と先生の関係が高校と異なり自主的に学ぶ場所です。そのため高校より一歩上の段階を目指す必要があります。金融リテラシーにおいては、社会人として経済的に自立するための知識と判断力が必要です。加えて、金融知識を活用し実践する力も求められます。ライフプランニングの課題回答を見ると、社会人になることに対して金銭面で悲観的に考えている大学生が多くなっています。我々の学生時代とは経済の先行きに対する見通しが全く異なっています。
学生を見ると「よくわからないから投資はしない」という人と、「少し勉強すれば簡単に儲けられる」と思っている人の両極端に分かれているように思えます。投資で簡単に儲けられると思っている学生は、タレントのCMやユーチューバーの甘い情報に踊らされて、いきなり証拠金取引に繋がるFXや仮想通貨に手を出しがちです。金融商品のリスクについては、「損か得か」、あるいは「債券が株式よりも安全だ」ではなく、きちんと短期債と長期債、グロース株とバリュー株など、リスクの程度の違いも教えるべきだと思っています。
極論にまどわされず、お金と幸せの関係など、大多数の生活者にフォーカスした金融教育がなされるべきです。金融教育=投資とすぐに関連付けてしまうことには、違和感を覚えます。
ー 佐々木教授が担当されている「銀行論」「証券経済論」などの講義では、具体的にどのようなことを教えているのでしょうか?
佐々木教授:
現在、預金や貸出、為替のような基本的な業務だけでは、銀行は生き残れない時代になっています。どの銀行もコンサルティング業務にシフトしており、相続、事業承継、企業再生などの業務に力を入れています。そういうコンサルティング業務に関する内容も「銀行論」で取り上げています。
「証券経済論」では、株や債券、投資信託、外国債券について教えています。講義の後半では、運用だけではなくコーポレートファイナンス、デットとエクイティの資金調達の割合などを学びます。
さらに、「1つのカゴに卵を全部盛るな」という有名な投資手法について、理論的な検証も実施しています。例えば、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行それぞれに投資していたとしても、分散投資とは言い難いものです。一方で、輸出型企業や輸入型企業の投資先を組み合わせると、分散投資効果が生まれます。証券経済論では、分散投資効果を、相関係数を使い実際の数字で示すところまで取り扱っています。
ー最後の質問です。大学HPで「主体的で積極的な行動がチャンスを引き寄せる力になる」と学生へ向けてメッセージを送られていますが、このメッセージにはどのような想いが込められているのでしょうか?
佐々木教授:
実際に教えていて感じるのは、学生の多くが受け身であることです。もし今自分が若者だったら、年金制度や社会保障に不満を持つと思うのですが、今の学生はそうではありません。あきらめてしまっているのでしょうか、社会を変えたいという感じでもありません。
ネットやSNSを上手に使いこなす一方で、リアルなコミュニケーションが苦手な人が大半です。また、協調性を自分の意見をアウトプットせずに「人の話をよく聞くこと」と勘違いしている学生も多い気がします。
私のゼミでは「沈黙はキン」を徹底しています。ここでの「キン」は、goldではなくprohibitの「禁」という意味です。学生たちには「当てられたら、とにかく自分の考えを話す」という課題を与えています。
個人的には、もっと若者らしく面白い学生が増えてほしいと思っています。そうした願いを込めて、「主体的で積極的な行動がチャンスを引き寄せる力になる」というメッセージを学生に送りました。