金融教育は、金融関連の職業に就く人や専門家を育成する意味でも重要
- 学生の経済的自立や金銭トラブルの防止といった点においても、金融教育は役立つのでしょうか?
植林教授
成人年齢が引き下げられたことで、多くの金融契約が可能になりました。また、IoTやスマートフォンの普及により、金融取引はますます簡単になってきています。しかし一方で、大学生たちが十分な金融知識を持っているかというと、例えば奨学金の延滞がクレジットカードの発行や住宅ローンの審査に影響を与える、といった基本的な知識が欠けていることがあります。
金融教育は、金融関連の職業に就く人や専門家を育成する意味でも重要です。椙山女学園大学の現代マネジメント学部では、2024年度から「企業経営」と「公共政策」の2つのコースに分けることになっています。学生たちの就職先としては、地域金融機関以外にも、公共政策に関連した団体が選択肢に入ります。一例として、日本銀行の名古屋支店、愛知県信用保証協会といった機関にゼミ生を送り出している状況です。
金融分野においては、今後女性の活躍がどんどん増えていくでしょう。そうした背景からも、コンプライアンスやコーポレートガバナンス、正義や共感性といった部分を重視した金融教育を提供しています。
- 「日本の金融教育が遅れている」というお話がありましたが、教えている学生に対して実際に感じることもあるのでしょうか?
植林教授
まず、具体的な話に入る前に、統計的なデータを紹介します。金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査(2022年)」によると、日本の金融知識は他国と比べて劣っています。例えば、金融知識を問う問題の正答率を調査した結果では、日本の47%に対し、アメリカは50%でした。2016年の調査時で10%下回っていたことを考えると、差は以前より小さくなっています。しかし、同調査の他国(イギリス、ドイツ、フランス)との比較結果を見ても、金融知識に対する正答率が他国を下回っている状況です。
これらの結果は、日本で金融教育が十分に定着していないことが一因であると推測されます。現在、ほとんどの学生が銀行口座やクレジットカードを持っています。ネット決済や株式売買などに慣れ親しんでいる学生もいるでしょう。しかしそれでも、パスワード管理やリスク認識が不十分であることが問題となっています。
また、多くの学生は資産運用に対して保守的です。「ポートフォリオ理論」や「ドルコスト平均法」といった基本的な金融知識に関しても、理解していない学生が多いように感じられます。資産分散やリスクの取り方がわからず、リターンが見込めない投資を行うことも。それだと資産は増やせませんよね。
ほかにも、金融トラブルに遭った場合に、適切な相談先を知らないという問題も存在します。これらの事情を踏まえると、日本では全世代に対する金融教育が必要といえるでしょう。実務や生活との繋がりが理解できる形で、金融教育を進めていく必要があります。
- たしかに、金融は人生にも大きく関わってくるテーマですよね。椙山女学園大学のように、実務家の方をお招きして講義する形式は、非常に効果的だと感じています。
植林教授
やはり、実務と理論の2つの視点が重要です。両者を適切に組み合わせることで、資産運用におけるリスクを適切に評価し、購入資産を選択できるようになります。理屈がわからないままでは、リスクを恐れて資産運用を避けるようになり、長期的に見て損することになります。そのため、学生には偏った金融知識を教えるのではなく、全体のバランスを考慮しながら、適切な知識を伝えることが重要だと思っています。
- 大学のホームページに掲載されている「静かなるものは、健やかなり。健やかなるものは遠くへ行くなり」というメッセージには、どのような想いが込められているのでしょうか?
植林教授
この言葉は、経済学者のレオン・ワルラスやヴィルフレド・パレートが好んだ言葉です。私は卒業生へのはなむけの言葉として使うことが多く、「長い目で見て地道に努力し続けることが、自分にとってプラスになる」という意味が込められています。