「三菱UFJ、富裕層向け人材1600人体制 22年までに」そんなタイトルが日経電子版のヘッドラインに並んだのは7月22日のことだった。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が富裕層ビジネスを強化するというもので「傘下証券2社を8月に合併し、専門人材を2022年までに現状の3倍弱の1600人にする。グループ内の人材を『成長分野』に集中投入して活路を開く」と報じていた。
上記に限らず、最近は金融以外でもやたらと「富裕層ビジネス」という表現を耳にするようになった。実はこの「富裕層ビジネス」こそが、預貸の利鞘が無くなり、手数料収入も自由化競争の影響で極端に薄利になった金融業界にとって、正にラスト・リゾートなのかも知れない。多分、そう見えているから三井住友FGも三井住友トラスト・ホールディングスも同じような方向へ歩を進めているのではないか。そして、その先に見据えているのは欧米で古くから発達している「プライベートバンク」という業態の導入ではないか。
筆者は現在の三井住友DSアセットマネジメントでファンドマネージャーを20年近く務めた後、楽天投信投資顧問の代表取締役社長も務めた生粋の「バイ・サイド」の職人だ。要は機関投資家側である。ただその全キャリア期間に亘って、資産運用業を成功させる上で一番お世話になったのは、実は欧米の投資銀行が殆どだった。それは余りにもバックにある資産運用に関するノウハウやテクノロジーが日系金融機関より優れていたからだ。だからこそ、一度は「あちら側」で職人として修業したいと思い続けていたのだが、幸運にもその機会にも恵まれた。
今回から始まる新連載では、その資産運用業の職人が、その内側から直接見てきた、行ってきたことから、読者の皆様の今後の投資活動、或いは新たにこの業界に入られた方の職務遂行のお役に立つと思われるトピックを整理してお伝えしていきたいと思う。皆さんの目から、何枚の鱗を落とせるか、実は筆者自身楽しみでもある。
バークレイズ代表として率いた「インベストメント・ソリューション・チーム」とは?
皆さんは「プライベートバンク」と聞いて、まずどんな金融サービスが対極の「マス・リテール・ビジネス」と違うと連想されるだろうか。平たく言えば「お金持ちだけを相手にする専門金融機関」は、普通の金融機関(銀行、証券、保険)とどう異なり、どんな優れた商品を提供してくれると連想されるのかということだ。
筆者は三井住友銀行と英国バークレイズ銀行(以降、バークレイズ)の間で提携した「SMBCバークレイズ」という極めて先駆的に始まった「富裕層ビジネス」で、両者の提携が解消される2017年まで「インベストメント・ソリューション・チーム(詳細は後述)」をバークレイズの代表として率いることが出来た。つまりイングランド銀行よりも長い歴史を持つバークレイズの伝統ある富裕層ビジネス部門(Wealth部門)のノウハウを輸入し、展開・普及するチームのヘッドを務めた。それまでも随分色々と勉強し、修行を積んだつもりでいたが、グローバルな伝統的大銀行に入ると、予想に違わず吸収したいものが更に山のようにあり、50代の手習いにはかなりな修行になった。「そんな大袈裟な」と思われる方も多いと思うが、現場の最前線に常に居た指揮官として、或いは資産運用業の職人としての偽らざる本音だ。
ちなみに、「インベストメント・ソリューション・チーム」を直訳すると「投資の解決策を提供する組織」となる。具体的には投資哲学、投資方針、投資方法、分析・リサーチ、商品の開発・導入・検証などを指す。たとえば、リサーチに基づく投資アイデアやポートフォリオのご提案をする、それを適える為のベストな商品を企画・開発、或いは世界中の既存商品より優れたものを選定し、導入するなど、プライベートバンカーを裏で支えるブレインと各商品の専門家チームのことだ。ロンドン本社を含む、バークレイズの世界中の各拠点と常に協働する。
「プライベートバンクって銀行なの?」
さて、富裕層ビジネスに関わる人たちの間では、ごく一般的に使われている「プライベートバンク」という呼び方だが、直訳すると「私的銀行」になってしまう。その営業職の人を「プライベートバンカー」などと呼ぶが、彼らは「バンカー」すなわち「銀行員」というカテゴリーに入るのだろうか?