「使ってない部屋の電気は消して!」これまで何度口にしただろうか。家族に対する筆者の口癖である。キッチンやバスルーム、ベッドルーム、廊下などの電気を片っ端から消して回ると、それを嘲笑うかのように今度はトイレの電気が放置されている。まるでイタチごっこだ。ちなみに、我が家はオランダ政府が普及拡大に注力する「風力発電エネルギー」を利用しているのだが、エネルギーロスゼロに貢献しているとは、とても言い難い。
そんな我が家とは対照的に、世界的には環境問題への危機意識が高まっているようだ。環境問題は投資やビジネスの世界でも注目されており、たとえばブルームバーグのビリオネア指数で世界第3位の大富豪であるビル・ゲイツ氏(2020年12月28日現在)は「エネルギー・ストレージ」のスタートアップに投資していることで知られている。エネルギー・ストレージは再生可能エネルギーの効率化を図る「低炭素社会」の実現に欠かせない技術であり、2035年までに年間収益で5460億ドル(約56兆4976億円)に成長するとの予測もある(詳細は後述)。さらに米国の次期大統領に就任すると見られるバイデン氏が脱炭素社会に大きく舵を切るとの観測も追い風となっているようだ。
今回は「エネルギー・ストレージ(Energy Storage)」の最新事情をリポートしよう。
そもそも「エネルギー・ストレージ」って何だ?
すぐに使う予定のないお金や食べ物を必要になるまで貯めておくのと同じように、エネルギーも使わない分を貯蔵しておくことができる。ただし、電気エネルギーや熱エネルギーは化石燃料などの化学エネルギーと異なり、そのままの形態で貯蔵することは困難なため、一旦格納可能な形態で貯蔵し、供給時に利用可能な形態に変換する必要がある。
たとえば、水素発電は水素を液体化することで貯蔵や輸送が可能になり、必要な時に必要な場所でエネルギーを放出できる。このような技術やシステムが「エネルギー貯蔵」とも呼ばれるエネルギー・ストレージだ。様々な貯蔵方法や技術が存在するが、最も身近な例として、EV(電気自動車)やハイブリッドカー(HEV)にも搭載されているニッケル水素電池などの二次電池がある。
この手法を普及拡大させることで、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスといった再生可能エネルギーのロスを防止し、効率的に商業施設や家庭に大量のクリーンエネルギーを供給することが可能となる。風力発電と組み合わせて使用される「圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)システム」や水力発電と組み合わせて使用される「揚水発電貯蔵システム」が、長時間かつ大容量のエネルギーを貯蔵できる手法として有力視されている。