この数年「富裕層ビジネス」と呼ぶ切り口は金融業界に限らず、多くの業種業態で着目され普及してきた。ただ、その実態は単なる「マーケティング手法」に過ぎない場合が多く、単なる客寄せモデルの場合も珍しくないので、実際の利用には少々注意を要すると感じる。また「富裕層ビジネスに詳しい」としつつも、実際筆者などから見ると非常に違和感を持つ話や語りが多いのも事実。少なくとも資産運用ビジネスにおいては「似非」は排除したいものだ。

例えば近時驚いたもののひとつが「世界の富裕層も実践する『長期・積立・分散』……」という宣伝コピー。恐らくラジオやテレビで聞き流してしまえばその違和感には気がつかないだろう。だが富裕層は積立てなどしない。勿論「富裕層」の定義にもより、「マス富裕層」なる階層設定をされると、もしかすると「積立」もあるのかも知れない。ただ明らかなのは、積立投資などで資産形成をしている層は、少なくともプライベートバンクが顧客とするような富裕層とは呼ばない。

昔はドイツの高級外車と言えば「富裕層」若しくは特殊なご職業の方々が乗るクルマと言われた。だが今では国産高級車よりも安価なモデルもあり、またそれに従って中古車のタマ数も多くなったことから、低価格でそれらを購入することも出来るようになった。その結果、富裕層御用達とは言えなくなった。ただそうした外車ディーラーには独特の雰囲気があり、「プチ富裕層気分が味わえるおもてなしがある」という意味で人を惹き付けているのかも知れない。

ただ筆者が見て来た「超富裕層」は華美なことや、見せびらかすようなことは一切されない。西でも東でも、日本屈指の高級住宅地で、塀に囲まれた大きな一角に、外からは簡単に建物が見えないような感じのお屋敷に静かに住われている方が多い。

なぜこんな話から始めているかと言えば、資産運用業界の最近の流行り言葉(というと、怒られるかも知れないが)のひとつである「ESG投資」と「富裕層の投資行動」を絡めた話を耳にすることが増えたからだ。上述の「富裕層もする積立投資」ではないが、「富裕層がするESG投資」といった感じのものにも、実は筆者は極めて違和感を覚えている。今までの経験に照らして「ESG投資」に拘る、そんな富裕層が実際にいるのかなと思うからだ。

ESGを巡るバフェット氏と機関投資家の対立

(画像=altadi / pixta, ZUU online)

そんな最中に、今度はウォール・ストリート・ジャーナル誌(以下:WSJ誌)が『バフェット氏に物申す、ESG巡り機関投資家が反旗』という記事を5月7日に掲載した。内容をさらりと読むと、オマハの賢人とも、投資の神様とも称されるウォーレン・バフェット氏は「ESG投資を理解していない偏屈爺さんだ」という記事に読めなくはないものに仕上がっていた。ただ、実際にはこの問題はもっと多くのディスカッションすべき点を孕んだ話だ。例えば「パッシブ運用」の是非という議論にまで関わって来る。勿論、バフェット氏は「超」が何個も付くほどの富裕層であることは言うまでも無く、投資の専門家でもある。謂わば「超富裕層と機関投資家のESG投資に対する見解の相違」というものが浮き彫りになっているとも言える。今回はこうした点を論じてみたい。