地域に根ざした医療をかかげ、24時間365日のサポート体制で、患者やその家族に在宅医療を提供する医療法人貞栄会。設立からわずか5年で静岡県、東京都、千葉県に拠点を広げ、順調に事業規模を拡大してきた。今回、理事長の内田氏に鬼速PDCAを導入した経緯や導入後の変化、今後の展望などを伺った。
導入のきっかけ
組織の拡大で見えてきた在宅医療と経営を両立する壁。増え続ける在宅医療の需要に応えるためにも、戦略を見直せる鬼速PDCAの導入を決めた。
鬼速PDCAを導入した背景を教えてください。
内田理事長2015年に設立した私たちの医療法人は、これまで順調に規模拡大してきました。というよりも、拡大せざるを得ない側面もあったのです。2025年に在宅医療を受ける人が100万人を超えるといわれているように、在宅医療の業界は需要過多なんです。
私たちも設立当初は少人数のクリニックでしたが、ニーズの増加に対応するべく少しずつ規模を拡大してきました。全体の仕事量も増加しましたが、医者は「スタッフができなければ、自分でやってしまおう」と考えてしまいがちなんですね。しかし、個人の力ではいずれ限界を迎えるのが分かりきっています。そこで組織化していく必要性を実感し始めたのです。
解決策を求めて、何人もの組織コンサルタントから話を聞きました。しかし、例えばある会社から提案されたのは、組織が存在していることを前提に、全体を底上げしていくような改善案だったんです。あるいは、組織の構造や考え方から変えましょうというものも。しかし、私たちは組織どころかNo.2すらいなかったので改善案を実行することが難しく、その前の段階から対応する必要がありました。
そこでまずは、代表を務める自分自身の頭の中を整理し、クリニックの現状や課題をしっかり把握して、戦略を練ることから始めようとしたんです。その時に『鬼速PDCA』の本に出会い、セミナーに参加したのが最初のきっかけです。
セミナーの内容は、組織を“因数分解”して問題点を見つけていくという話がメインでした。それは私も普段何気なくやっていることだったのですが、組織を見るときに大事な観点であることに気付き、今の私たちの事業に必要なことだと感じたのです。
導入後の変化
5つのモデルから会社を“因数分解”することで、組織の課題が明確に見えてくる。
実際に鬼速PDCAを導入してみていかがでしたか?
内田理事長PDCAエンジニアの方にサポートしてもらいながら、鬼速PDCAの考え方である、理念ビジョン、事業モデル、組織モデル、金融モデル、外部環境の5つのモデルから事業を“因数分解”したところ、私たちの課題が見えてきました。
医療業界というのは、良くも悪くも医療業界の中だけで全てのことが起こってしまっていて、職員も旧態依然のままなんです。IT化や労働環境の変化にも対応しきれていないのが現状です。なぜそうなのか、その課題をまた深掘りしていくと、組織モデルにおける採用・教育が課題であることが分かってきました。
例えば看護師さんですが、人数が増えてくると、私たちの理念や大事にしていることが薄まってしまい、サービスにも影響が出ていたんです。なぜなら今までの採用が「来た人を採用」していたから。そうではなく「こういう人が欲しい」という要望をさらに深く分解した「人材の要件定義」をもとに、採用媒体まで精査して採用を進める必要があったのです。
鬼速PDCAの効果
“因数分解”での分析を起点に採用戦略を推進。欲しい人材を即採用できた。
鬼速PDCAが、人材採用の場面でどのように活かされたのか教えてください。
内田理事長在宅医療はとても変化の早い業界です。今年もこのコロナ禍でオンライン診療が加わり、訪問自体が不要になる場面もでてきました。そのなかでどんな人材が必要かといえば、変化を恐れない人や、新しいことを創造していける人です。特に法人の中核になってもらうような方たちには、そういう素質が必要だと思います。
また、内科や外科という従来の医療と違って、診療内容に型がないんです。例えば看取るだけの方になると、具体的な医療ではなく安心感を与えたり、やりたいことを提供してあげたり、その人に寄り添った手伝いをすることになります。
それより少し前の段階の場合、その人が家に居られるようにアドバイスをします。例えば家の中に段差があり、転倒して骨折する可能性があるなら、「段差をなくした方がいいよね」、「歩き方を変えた方がいいよね」などの提案をします。食事についても、「塩分多いからこんな風に変えたらどう?」と話したりしますね。
このように在宅医療の医師は、医療を提供して患者さんが長く家に居られるようにするのが目的です。看護師さんであれば、不安な家族や本人たちに寄り添うというようなことですよね。この分析をもとに「必要な人材」を明確にしていきました。
欲しい人材に対して「媒体×人材要件」の組み合わせで、鬼速PDCAの“因数分解”を活用しながら、どのような文章で採用をかけるかまで設計してみると、すぐに経験のある方の採用が決定しました。ちゃんとポイントを見極めて動けば、こんなに早く結果が出るんだと驚きましたね。
今後の活用
鬼速PDCAの導入をきっかけに、事業拡大を推進する理事長室を発足。
「学びの場」を提供することで、在宅医療の現場を変革する。
鬼速PDCAを活用しながら、今後はどのような事業展開を考えていますか?
内田理事長今後の展望しては、まず医療法人貞栄会が提供する在宅医療を、しっかりと一つの形にしていくことですね。私があえて名前を「内田医院」ではなく「静岡ホームクリニック」とつけたのは、在宅医療がその地域に根付いてほしいからなんです。もし私がいなくなったとしてもその地域にクリニックの名前が残り、患者さんの元で診療するサービスをずっと続けてもらいたいんです。
鬼速PDCAの導入をきっかけに以前から考えていた理事長室を立ち上げ、人がどんどん集まってきています。これが形になってくると、事業拡大を推進するために必要なものが、ギュッとまとまってくると思うんですよね。
そして、今後はこのクリニックを「学びの場」にしていきたいと考えています。というのも、医師が在宅医療を学べる場が今のところほとんどないからです。我々のクリニックを在宅医療の学校にして、「在宅医療とは何か」、「患者さんとどう向き合っていけばいいのか」、またはその接遇の仕方などをきちんと学べる場所にしていきたいと考えています。
ただ、若さの溢れる現役の医師に在宅医療の魅力を伝えるのは大変難しく、人を集めるのは簡単ではありません。では、どうすれば関心をもってもらえるかというと、やはり実際に体験してもらうのが一番良いのではないかと思います。採用に加えて規模自体を拡大していくには、すでに従事している医師の育成のために、ノウハウの標準化もしなくてはいけません。つまり、教育コンテンツが必要になってくるんです。人材を集めることと育てること、その二つを同時に叶える方法として、「学校」という選択肢に辿り着きました。
我々はその地域での在宅医療に先駆けて取り組み、一定の評価をいただいているので、そのスキルやノウハウを提供することで、医療全体にも貢献できるのではないかと考えています。鬼速PDCAを活用して在宅医療に関わる人材を増やすことで、多くの地域において医療を提供できる環境を作っていきたいと考えています。その中で人、地域、社会に貢献していきたいですね。