そもそも「経験から学ぶ」とはどういうことか

新井宏征,リフレクション,経験
(写真=The 21 online)

現代のように先が読みにくい時代に私たちが取り組まなければならないのは、学び続けることです。学びを続けていく場合には、単に知識やスキルを知るだけではなく、それを実践できるようにしなければいけません。そして、知っていることを実践できるようにするためには、「経験から学ぶ」という視点が必要になります。

この記事では、経験から学ぶとはどのようなことなのかを解説した上で、そのために必須の「リフレクション(内省)」に焦点を当てて、具体的なやり方をご紹介します。

「不確実な時代」に唯一、確実なこと

AI(人工知能)によって人間の仕事が奪われる。そんな話題をさまざまなメディアで見かけることが増えてきました。今後、私たちが想像している以上にAIなどの技術が発展し、私たちの仕事に影響を与えることは間違いないでしょう。しかし、実際に、それがいつ実現するのか、実現したとしてどこまでの影響なのか、それを読み切ることは簡単ではありません。

例えばYouTubeが設立されたのは2005年(Googleに買収されたのは2006年)。先日最新モデルの発表があったiPhoneの最初のモデルが発表されたのは2007年。どちらも今から10年ほど前の出来事ですが、YouTubeやiPhoneの登場によって、ここまで世界が変わる(例えばYouTuberという職業が生まれる)ことを想像できていた人はほとんどいなかったはずです。

このようにさまざまなことが不確実な時代の中、私が唯一確実だと考えているのが「学び続けることの重要さ」です。

時代が変化していくにつれ、必要とされるスキルも変わってきます。今の時代に重宝されるスキルを身につけていたとしても、それが将来に渡っても同じだけの価値を持つ保証はどこにもありません。このような環境の中では、身につけたひとつのスキルにしがみつくのではなく、時代の変化を読み取りながら、変化にあわせて必要なスキルを身につけていくことなのです。

単なる知識を「使える」に変える「学びの3段階」

学ぶことが大切だとわかっていても、日々仕事やプライベートに忙しい私たちにとって、学び続けるための時間を捻出することはそう簡単ではありません。しかし、学生のように机に向かって本とノートを開いて勉強をすることだけが学びではありません。仕事をしている人にとっては、平日にもっとも時間を使っている仕事こそが、最大の学びの機会なのです。

この学びの機会を活かすためには、仕事で必要な知識やスキルの学びには次の3段階があることを押さえておかなければいけません(図)。

(図=The 21 online)
(図=The 21 online)

最初は、知識やスキルを「知らない」という状態です。そこから本や雑誌、インターネット、あるいは研修などで学ぶことで、「知っている」状態になります。この変化をもたらす学びを「知識の学び」と呼ぶことにしましょう。

ただし、この段階は「知っている」というだけで、その知識やスキルを実際に仕事で使える状態、つまり最終段階である「実践できる」状態にはなっていません。この「知っている」状態から「実践できる」状態にステップアップするために必要になるのは「経験からの学び」です。

最近は本や雑誌だけでなく、SNSなどで多くの情報が手に入るため、「知っている」状態になることはそんなに難しくはありません。しかし、「知っている」からといって「実践できる」とは限りません。日々の仕事で「実践できる」と言える状態になるためには、「知っている」ものを使ってみることが必要になります。

「反省」ではなく「振り返り」をしよう

ただし、「知っている」ものを使ってみても、最初からうまく使いこなせるわけではありません。失敗をするかもしれないし、思っていたほどの効果が出ないかもしれない。失敗もせず、効果は出たものの、思った以上に時間がかかってしまって、効率があまり良くないということもあるでしょう。このようにして「知っている」状態と「実践できる」状態のギャップに直面したタイミングこそが、「経験からの学び」をするもっとも良い機会なのです。

この「経験からの学び」をする際に行うのが「リフレクション(内省)」です。リフレクション(内省)という言葉は、さまざまな場面で使われる言葉ですが、今回のコラムでは「仕事における振り返り」という意味で使います。

仕事における振り返りとは、「知っている」ものを使ってみた経験から得た気づきを言語化する取り組みです。経験から得た気づきを言語化するというと、「反省」と結びつける人がよくいます。しかし、「反省」と「振り返り」は似て非なるものです。「反省」という言葉は、悪かったこと、失敗したことを明確にするというイメージがありますが、「振り返り」は決して悪かったことだけを取り扱うわけではありません。

「KDA」で自分の経験を振り返ると……

では、実際に「振り返り」をする場合、どのように進めれば良いのでしょうか。さまざまな振り返りの方法やフレームワークがありますが、私はKDAというフレームワークをよく使っています。フレームワークといっても決して大げさなものではなく、次の3つの観点から経験を振り返る方法です。

K:Keep「うまくいっているなどの理由で、今後も続けていくこと」
D:Discard「良くない結果につながったなどの理由で、今後はやめること」
A:Add「今回の経験から、今後新たに始めようと思っていること」

振り返りの対象となる経験を思い返して、続けること、やめること、新たに始めることの3つの観点から、思いつくものをどんどん書き出していきます。ノートのページをKDAの3つのスペースに区切って、それぞれの欄に書き出しても良いかもしれませんし、付せんを使って思いつくままに書き出してから、KDAのそれぞれに分類しても良いでしょう。

「振り返り」はいつ、どこでやればいいのか

振り返りのタイミングも重要です。大きなプロジェクトや提案に取り組んでいた場合は、それらが終わった直後、記憶が新鮮なうちに取り組みます。ただし、プロジェクトなどが完了するまで振り返りを行うのを待つ必要はありません。プロジェクト期間中、定期的に振り返ることで、それまでの経験からの学びを活かし、それ以降のプロジェクトの進め方をより良くするための具体的な行動が明確になるはずです。

私の場合は毎週末に、普段使っている手帳を使ってKDAを使った振り返りをしています。その1週間を振り返り、仕事の種類に関係なくKDAを洗い出し、特にDのやめること、Aの新たに始めることを念頭において、翌週の計画を考えるようにしています。

紙とペンさえあれば、あるいはパソコンやスマホのメモ機能を使えば、いつでも簡単にできるKDAの振り返りを使って、日々の貴重な経験から学びを引き出し、「実践できる」状態へのステップアップを目指していってください。

新井宏征(あらい・ひろゆき)スタイリッシュ・アイデア代表取締役
株式会社スタイリッシュ・アイデア代表取締役。産業技術大学院大学 非常勤講師。SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、2013年より現職。シナリオプランニングやプロダクトマネジメントなどの手法を活用し「不確実性を機会に変える」コンサルティングやワークショップを提供。東京外国語大学大学院修了。University of Oxford Said Business School Oxford Senarios Programme修了。主な訳書に『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『プロダクトマネジャーの教科書』、『90日変革モデル』(すべて翔泳社)、主な著書に『世界のインダストリアルIoT最新動向2016』、『スマートハウス/コネクテッドホームビジネスの最新動向2015』(インプレス)などがある。(『 The 21 online 』2017年10月02日公開)

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