今後は米ドル資産への投資がマスト。ただし、株式と債券ではレベルが異なる‐ニッセイ基礎研究所 前山裕亮氏インタビュー後編

投資商品の選択肢を広げたい人にとって、外国債券への投資の有効性を示す一方、現状の市場動向から投資タイミングは要検討とするのが、ニッセイ基礎研究所の前山裕亮氏の基本スタンスだ。一方、外国株式、とくに米国株は本年に調整局面も想定されるものの、投資妙味ありと説く。この詳細についてはインタビュー前編にてお伝えしたとおりである。

なぜ、外国債券への投資はリスク許容度に応じるべき、そして、外国株式、とくに米国株への投資はすべての人にすすめられるのか。本特集の後編では、資産運用における外国債券や外国株式の投資スタンスと、なかでも前山氏が強調する米ドル資産の魅力とその理由について、お届けする。(聞き手:ZUU online編集部)

目次

  1. 外国株式、とくに米国株式は、投資の王様のような存在
  2. 外債のなかには、コア資産にならない商品も
  3. 投資信託を通じて外国債券投資をする際の3つの注意点
  4. あえて1カ国、外国通貨を選ぶとしたら「米ドル」
前山裕亮(ニッセイ基礎研究所金融研究部 主任研究員)
お話を聞いた人:前山裕亮(ニッセイ基礎研究所金融研究部 主任研究員)
証券系シンクタンクで機関投資家向けの日本株式のクオンツアナリストとしてキャリアをスタート。その後、外資系金融企業でのアセット・アロケーションのコンサルタント業務を経て、現在のニッセイ基礎研究所へ在籍。大学・大学院と理系出身の強みを生かし定量分析、データ分析系を得意とする。日本株式や債券、投信、投資優遇税制に関するレポート作成やメディア露出等、幅広く資産運用をテーマに情報を発信する。日本証券アナリスト協会検定会員、投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

外国株式、とくに米国株式は、投資の王様のような存在

――前回のインタビューにて、外国株式については、すべての人が投資をしたほうがよい、とお話されています。その理由について教えてください。

歴史を振り返ればわかりとおり、投資リターンの高かった商品は株式、特に外国株式だからです。リスク商品に投資したい場合、先進国の外国株式を中心に分散投資をするのが、リターンへの期待値は高いと考えています。

とくに米国株は、あらゆる企業やグローバルな地域から収益が得られるという意味で、投資の王様のような存在だと感じます。世界経済の中心が未だに米国であることを考えると、世界の成長性を取り込むことができ、安全性も確保されるため、米国株はまず投資先の候補となる商品だと考えています。

ただし、米国株はここ10年くらい好調過ぎたので、今後も同じようなパフォーマンスを期待しないほうがよいでしょう。

――――投資の王様とはすごい表現ですね。米国株式への投資は、S&P500のような株式指数に連動するインデックスファンドへの投資が有力候補になりますか?

私もつみたてNISAでインデックスファンドを買っています。ただし、米国株式はいくら期待できるからと言っても、本当にそれのみでいいのかという問題があります。そのため、私自身では、全世界株式指数に連動するインデックスファンドを通じて米国株式に投資しています。全世界株式といっても6~7割は米国株式ですので。

――――いずれにしても外貨建ての資産にかたよりますよね。

私は日本で働いているため、“前山という人的資本”から稼ぐ収入は日本円のみになります。外貨を稼ぐ人的資本がまったくないという状態なのです。

そして、資源国ではない日本に住む限りは、ある程度の外貨を保有しておかないと円安インフレに抵抗できません。そのため、円安インフレによる円資産目減りへのヘッジも含めて、とにかく外貨建て資産を持つことを推奨しています。

グローバルに活躍される人が増えているとはいえ、日本の会社員の多くは円で稼ぐ方が多いでしょう。極力外貨を持っていたほうが、5年後10年後、20年後への備えとなります。

外貨建て資産のなかでは、とくに高い収益が期待できる外国株式がおすすめですし、実際に私もつみたてNISAなどで投資しています。ただし、株式である以上、価格変動が大きいですので、それが嫌な人でしたら、外国債券、特に米国債券を中心に先進国債券に投資するのも1つかと思います。

ここからはすべての人向けの話ではありませんが、せっかく投資するのであるならば、投資妙味に面白いものを買うのも1つ。そういう意味では先進国に限らず新興国ものにチャレンジしてもよいと思います。そのあたりはご自身のニーズとリスク許容度に合うように投資するのがよいのではないでしょうか。

実際に私も、過去に新興国債券の現地通貨建て商品に投資をしていたことがあります。ただし、新興国といっても米国の金融政策の動向に大きく左右されます。それが嫌になってすぐに売却してしまいましたので、ほとんど実りはなかったのですが。

外債のなかには、コア資産にならない商品も

――新興国債券投資は何を期待して投資されていましたか?

新興国債券は高い利回りに期待して、コア・サテライト戦略の“サテライト”の位置付けとして投資をしていました。新興国債券のように、ひと言で外国債券といっても“コア”資産にすることをすすめない商品もあります。

――コア・サテライト戦略とは?

コア・サテライト戦略は、投資する際の余裕資金を、コア資産とサテライト資産の2つに分けて運用する戦略を指します。コア資産は投資の核となる部分で、失敗すると目標の達成が困難になる貴重な資金です。一方、サテライト資産は、損失しても投資目標への影響が限定的な資金となります。

コアとサテライトの割合としては、それぞれ80~100%、0~20%が目安になります。コア資産の運用計画で重要なのは、リスクを取り過ぎないようにすること。リスクの許容範囲と期待リターンのバランスをどう取るのか、投資方針を明確に定める必要があります。期待リターンを先に設定すると、リスクを過剰に取る危険性があるため、自身のリスク許容範囲内でリターンを追求するようにしましょう。

――――コア資産に対して、サテライト資産なら比較的リスクをとって投資ができる。コア資産ではできない面白い投資で、ハイリスク・ハイリターンを狙う、ということですね。外国債券への投資でリスク分散を期待することはできますか。

先進国通貨と比べて、南アフリカランドやブラジルレアル、トルコリラなどの新興国通貨への投資はボラティリティが高く面白さがありますよね。面白さ半分で投資する程度には問題ありませんが、私がすぐに売却した理由からもわかるように、リスク分散を期待して新興国に投資することはおすすめしません。

とくに通貨危機やデフォルト、経済危機などの金融ショックが起きた場合、“リスク性資産”か“安全性資産”かの二択に分かれるため、リスクオフ局面では「Cash is King」の世界になります。先進国債券は安全性資産に分類でき、そのような局面では下落したとしても株式等よりは小幅にとどまる可能性が高いです。

その一方で債券といっても新興国債券やハイ・イールド債券(低格付け債券)はリスク性資産的な性質を持ちます。有事への対応を期待するという意味で、資産分散によるリスク低減効果は期待できませんね。

また、経済や金融市場がグローバル化している現在において、地域分散の効果もあまり期待できなくなっています。近年の新型コロナウイルスの感染拡大を見ても、当初、中国国内の問題だった話が半年もしないうちにグローバルな問題になりました。

つまるところ、それだけ経済含め、様々な要素が世界で連動してしまうことを踏まえると、資産や地域の分散を通じた分散投資の効果が薄れてきているように感じます。

日本の会社員の私自身、色々な米IT企業のサービスを日々使っています。MicrosoftのOSをベースに働いていますし、Googleで検索をしています。ネットショッピング時にAmazonを利用しています。一方で、私は自動車を持っていないので、国内の自動車メーカーにお金を払ったことはありません。

これらを踏まえると、日本人はマザーマーケットだから、と国内株式を持ったほうがいいとは言えないと思います。外国株式だから、自分とはまったく関係ない企業だ、と言い切れなくなってきているのです。自分の生活防衛の一環として、お世話になっている企業の株式を持つくらいのノリで投資したほうがよい、と考えるわけです。

投資信託を通じて外国債券投資をする際の3つの注意点

――個人投資家が外国債券への投資を検討する場合、投資信託が身近な選択肢となります。投資時の注意点を教えてください。

外国債券型の投資信託に投資する際に注意点が3つあります。

まず、販売手数料や信託報酬などのコストの高さです。元々、債券は株式よりも収益が期待できない資産のため、株式型以上に債券型の投資信託ではコストを意識する必要があります。アクティブ、インデックス問わず、リーマンショック前に設定された商品などは投資時の利回りを元にコストが決められています。古い商品は特にコストが高いものが多いので注意が必要です。

次に、為替ヘッジの有無です。ひと言で外国債券型と言っても、為替ヘッジの有無によってその商品性やリスク特性がまったく変わってきます。為替ヘッジしていない場合は、ほぼ為替にベットしている商品と言っても差し支えありません。その一方、為替ヘッジしている商品は預金代替や国内債券代替として人気になっています。

ただし、繰り返しになりますが、昨今の日米金利差の拡大、さらには米国の逆イールドもあって、為替ヘッジにかかるコストが非常に高騰している点には注意が必要です。

最後は、投資対象が先進国の国債かそれ以外かです。一般的に外国債券というと先進国の国債をイメージしてしまいますが、様々な外国債券があります。なかには先ほど触れたような新興国債券やハイ・イールド債券(低格付け債券)など、先進国の国債よりも高い収益が期待できるものの、価格変動は株式市場並みに動く投信もあったりします。ご自身のニーズに合う商品であるか確認する必要があります。

――近年耳にするようになったグリーンボンド等への投資はいかがですか?