外債の投資妙味は大幅増。リスクは為替変動か‐ニッセイ基礎研究所 前山裕亮氏インタビュー前編

利回りが過去10年で最高水準に達した米国債。米国債格下げに伴う米政府による国債入札規模の拡大、日銀によるイールドカーブコントロール(YCC)の調整、そして米雇用の強いデータなどから、その需要は増加している。

この8月には、世界的な投資家のウォーレン・バフェット氏が米国債を購入したと報道された。2024年には景気後退と本格的な金融緩和への舵切りが予測される声もあるなか、いま米国債や外国債券への投資の魅力についてどう考えるべきか。

本テーマについて、資産運用に関する幅広い情報を発信しているニッセイ基礎研究所金融研究部の主任研究員、前山裕亮氏にお話を聞いた。(聞き手:ZUU online編集部)

目次

  1. 米国株式は割高、2023年内に調整する可能性がある
  2. 以前と比べて外債の投資妙味は増すも、為替リスクに注意が必要
  3. いまはまだ外債投資を判断するタイミングではない
前山裕亮(ニッセイ基礎研究所金融研究部 主任研究員)
お話を聞いた人:前山裕亮(ニッセイ基礎研究所金融研究部 主任研究員)
証券系シンクタンクで機関投資家向けの日本株式のクオンツアナリストとしてキャリアをスタート。その後、外資系金融企業でのアセット・アロケーションのコンサルタント業務を経て、現在のニッセイ基礎研究所へ在籍。大学・大学院と理系出身の強みを生かし定量分析、データ分析系を得意とする。日本株式や債券、投信、投資優遇税制に関するレポート作成やメディア露出等、幅広く資産運用をテーマに情報を発信する。日本証券アナリスト協会検定会員、投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

米国株式は割高、2023年内に調整する可能性がある

――現在の株式相場、為替相場、金利相場の見通しについて教えてください。

日本株は、短期的には米国株の影響を受けるため、米国株の見通しなしには語れません。米国株については、米国経済の強さを認める一方、現状は市場でのバリュエーション(価値評価)が高すぎると見ています。そういった意味では、2023年内に調整する可能性があります。

米国株の株価調整について、時期的な見通しは難しいところです。米ハイテク企業の株価は業績底打ちから上昇を見せていますが、現状のバリュエーションから踏まえると、来期の増益が観測されない場合、足元の高いバリュエーションの説明がつかなくなります。本当にハイテク株がコロナ禍のような急成長に戻れるのかどうかが注目ポイントです。

仮に成長局面に戻ったならば、急落や調整局面を迎えない可能性もゼロではありませんが、現実的には難しいだろう、というのが私の見立てです。

投資家の期待が大きすぎることを考えると、米国株は年内どこかで調整するのではないか。その1つのトリガーがFOMC(米連邦公開市場委員会)の動きにありますが、意外に、いまのところ大きな騒動なく進んできています。ただし、引き続き注意が必要です。

このような背景から、日本株は、米国株式に伴う連れ安に警戒しています。仮に日本企業の業績が思いのほかよい場合、下落は小幅で済む可能性もありそうです。基本的には米国株次第で、国内企業の業績によって下落の深さが変わってくるというように見立てております。

為替相場については、7月28日に日銀によるYCC緩和が発表されましたが、日米の金融政策次第という側面が大きいです。

米国では利上げの打ち止め、日本では政策の見直しが入る可能性が高く、それに伴って円高ドル安が進むとみています。米国の利上げが本当に打ち止めされるのか、もしくはさらに、来年の早い段階で利下げに転じるのか。これがやはり最大の注目点です。

日本については、YCC緩和は第1弾と見ることもできなくはないため、状況次第ではさらに円高ドル安が進むという展開も考えられます。そういった意味で、ドル円相場はボラティリティが高くなりそうです。

金利についても為替相場と同じく金融政策の動向次第です。米国の利上げが一段落したか、日本の金融政策がどう変わるか、その動きを見ていく必要があります。

米国株式市場は、良好な経済指標と企業業績の底打ち期待、インフレ鈍化や利上げ早期終了の見込みなどから、景気後退を回避しつつインフレが鎮静化する「ノーランディング」の期待が高まっています。日本の個人投資家もこの流れに乗ろうとしているのか、あるいは米国株式の堅調さに惹かれてか、購入している人も少なくないかもしれません。

しかし現状では、米国が本当にノーランディングとなるかは不透明であり、もしノーランディングになったとしても、現在の米国株式は割高である可能性もあります。また、金融政策の変動によって為替が大きく動き、ヘッジしていないファンドの価格が下落するリスクもあります。

そのため、米国株式ファンドの先行きに対しては、年内は過度に楽観視しないほうがよいと警告をしています。もし大きな下落があれば、追加購入の余裕を持つような慎重な投資スタンスを推奨しています。

以前と比べて外債の投資妙味は増すも、為替リスクに注意が必要

――そのような相場環境下において、外債投資に対する見解をお聞かせください。

ひと言で外債と言っても、為替ヘッジの有無で判断は変わります。ヘッジ無しを前提とすると、金利の見通しで申し上げたように、高止まりするか、低下するか、2つの選択肢があります。

米FRBが量的緩和を進めていた時期の米国長期金利1%もしくは2%切っているような状況から比較すると、いまの米国債券は投資妙味が出てきたという事実があります。しかし、これも為替リスクには注意が必要です。

外国債券の金利が、仮に4%で継続すれば高い金利を受け取れますし、金利が低下すれば債券価格の上昇も期待できます。しかし、仮に金利が低下し、債券価格が現地通貨建てで上昇しても、同時に内外金利差の縮小に伴い円高が進めば、円建てでは横ばい、もしくは下落する可能性がある点には、気をつけなければなりません。金利が高くても、円高が進めば、横ばいもしくは円建てで見ると、価値がマイナスになることが、外国債券への投資の際には往々にして起こり得ます。

いまはまだ外債投資を判断するタイミングではない

――為替変動リスクは、通貨の分散投資で回避できるのでしょうか?

多少の回避は可能ですが、ヘッジしようがない部分もあります。分散投資や時間分散は1つの対応策です。しかし、外国債券を為替ヘッジなしで持つ場合、円高リスクを許容して投資するというのが前提です。

――先ほどの経済見通しを踏まえて、外国債券のタイミングについてはどのようにお考えでしょうか?