今の時代、すべての人がある程度の金融リテラシーを持つべき

ー今の時代、個人が自分の資産を管理しなければならない状況です。「金融論」はお金の流れを理解する上で非常に役立つと思いますが、どう思われますか?

近藤教授
その通りです。現行の年金制度がこのままの形で継続されるかは不透明であり、個人が資産形成に取り組む必要があります。そのためには、金融リテラシーが不可欠です。

私は、今の時代には、すべての人がある程度の金融リテラシーを持つべきだと考えています。

ー高校生や大学生の間に身につけておくべき金融の知識は何でしょうか?

近藤教授
まず、貯蓄を増やすためには、収入と支出をコントロールする必要があります。いかにして収入を増やし、いかにして無駄な支出を減らしていくかを考えることです。これが貯蓄や資産形成の基本になります。

また、資産形成のためには、インフレーションの影響を理解しなければなりません。銀行の預金や国債のような安全資産であっても、インフレーションによって実質的な資産価値が目減りすることを知っておくべきです。

さらに、各種の金融商品についての知識も必要です。それぞれの金融商品が持つ性質やリスクについて理解し、ハイリスクな商品に投資する際は、相応のリスクを受け入れることが求められることを知らなければなりません。

リスクを抑えるためには、投資信託などを使ってリスクを分散させることが有効です。ポートフォリオを組む際は、各自の経済状況や年齢等を考慮したリスク許容度に応じて、安全資産とリスク資産のバランスをとる必要があります。

投資で得るキャピタルゲインやインカムゲインは、通常課税されますが、NISAやiDeCoといった、国が用意した税制優遇措置があることも是非知っておきたいところです。

ー大学生などに実践的な金融の知識を身につけさせるためのアプローチはありますか?
また、学生に金融が自分の人生に役立つという実感を持たせるにはどうすればよいでしょうか?

近藤教授
私は、今のところ自身の教育には取り入れていませんが、学生たちが株式投資ゲームを通じてバーチャル投資を経験することで、学んだ知識を実践的に活用する機会を与えることができるでしょう。

さらに、新聞を読む習慣が身に付けば、学んだ概念や理論を使って、金融市場や経済の動きをフォローすることができるという喜びを感じられるようになります。

こうした実体験を通じて、学生たちは、学んだ知識を自分の生活や将来に役立てられることを実感することができ、それが学習意欲の向上につながるものと考えます。

ー先生の授業では、日常生活とのつながりを見せる工夫はどうされているのでしょうか?
また、金融をより身近に感じられるような教え方や活動があれば教えていただけますか?

近藤教授
私の授業では、机上で学ぶ金融と日常生活とを結びつける工夫をしています。

ゼミナールでは、新聞記事の内容を他人が理解できるように発表させています。新聞記事は、現実の金融の動向を把握するための有力なツールです。それについてディスカッションすることで、現実の金融の動きに関する理解が深まるとともに、その今後のあり方についても考察することができるようになります。

また、講義では、具体的なデータを示すことで、金融を身近に感じてもらうように努めています。例えば、「直接金融と間接金融」を説明する際には、日本人の資産運用手段が欧米人のそれに比べ、いかに預貯金に偏っているかを示すデータを用いています。

これらのアプローチを通じて、学生たちが金融を自分たちの生活と関連づけて学ぶことができると思っています。

ー高校のカリキュラムに金融教育が加わったことで、今後、金融関連科目を積極的に選択する学生が増えると思いますか?

近藤教授
その可能性はありますね。より早期から金融教育を受けることで、金融を身近に感じるとともに、その必要性を認識する学生が増えるかもしれません。

その結果、高校で金融教育を(あまり)受けてこなかった学生と比較して、大学でより広くかつ深く学ぼうとする学生が増えるかもしれません。

ー金融教育は早くから取り組むほど効果的とよく言われますが、先生はその見解をどうお考えですか?

近藤教授
はい、その考え方に私も同意します。欧米では、金融教育が早期から実施されています。

日本におけるリスク資産への投資は、欧米に比べて消極的です。これには、いくつかの要因が考えられますが、その一つとして、日本の金融教育が欧米に比べて遅れていることがあるのではないでしょうか。

リスク資産の性質をよく理解した上で、あえて投資をしないという選択をするのは尊重されるべきです。しかし、よく分からないから投資をしない人がいるとすれば、それを放置しておくのは望ましくありません。

ですから、早い段階から金融教育に取り組むことは、有意味であると思います。

ー日本において金融教育があまり注目されない理由について、お教えいただけますか?

近藤教授
金融教育が(欧米に比して)日本であまり注目されてこなかった理由には、いくつかのものが考えられますが、とりわけ日本人の国民性が関係しているのではないかと個人的には思っています。

日本の社会では、安全や安定性を重視し、リスクを避ける傾向が多々あるように感じます。そのため、リスクを伴う金融取引や投資に対しても、消極的な姿勢をとる人が多いのではないかと推測します。このような社会的傾向が金融教育への関心を低いままにさせる要因になっていたと私は考えます。

最近では、金融教育の重要性が認識されつつあり、政府、教育機関、金融機関、金融機関の業界団体などが以前よりも積極的に取り組んでいます。金融教育の普及と啓発活動の強化によって、より多くの人々に金融の基礎知識やスキルを身につける機会が与えられるようになることを期待しています。