特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

三重県で創業し、ハウスメーカーとして確固たる地位を築いている株式会社サンクスホーム。三重県および中部圏でナンバーワンになるため、そして社員のモチベーションアップのため、支店の出店展開を続けている。また、お客様のニーズに合わせ、住宅販売からスタートした事業を不動産取扱およびエクステリアにも拡大した。新型コロナウイルス感染拡大下においてインターネットでのキャンペーンを展開し、受注数前年比169%増を実現するなど成功体験を重ねながら、今後のさらなる飛躍を目指す。

(取材・執筆・構成=高野俊一)

(画像=株式会社サンクスホーム)
台堂 清(だいどう・きよし)
株式会社サンクスホーム代表取締役社長
1947年三重県生まれ。
1972年創業の株式会社セイワで代表取締役社長を務め、1996年にグループ会社の株式会社サンクスホームを設立、取締役社長に就任した。現在は本社を含め東海エリアに6店舗を展開。

エリア拡大へ新規出店を続ける理由

――株式会社サンクスホームは1996年に設立され、最初は伊勢市で活動を開始した後、支店を津市、鈴鹿市、四日市市、さらには名古屋エリアなどへ出店しています。現在までの経緯を教えてください。

事業を開始した伊勢市だけでなく支店の出店を展開してきたのは、社員に対して夢を与えたいからです。若い人が会社に入社する際には、やはり「いずれ出世したい」、「給料もたくさん欲しい」と考えます。しかし、一つの店舗だけですと社員の高齢化が進み、若い人を採用できなくなってきます。出店を続ければ、支店長をはじめとするさまざまな役職が必要となりますので、出世の窓口を作れます。社員のモチベーションを高めるには出店が一番だろうと考えました。

出店を続けるもう一つの理由として「エリアナンバーワンになりたい」ということもあります。住宅産業では現在のところ三重県でナンバーワンの会社があります。その会社は、当社を設立したころは年間200棟程度の販売数でしたが、現在は年間300棟です。それに対して当社は年間100棟くらい。それを何とか、三重県のトップへ持っていきたいと思い、出店展開をしています。ただし、名古屋店に関しては、地場ビルダーをM&Aしました。なぜならば、現場監督をはじめとするスタッフを三重から送れば単身赴任になりますし、また現地で一から育てるのも困難だからです。

――住宅販売、不動産取扱、およびエクステリアの3事業を展開しています。それぞれの事業内容についても教えてください。

当社は戸建ての住宅販売からスタートしました。しかし、そのうちにお客様から「庭や門扉などの外構についてもまとめてやってほしい」との要望が出るようになりました。また、当社としても売上を伸ばすためには、外構工事を外注に出すのではなく、自社でやったほうが良いと感じていました。そこで、家と外構をトータルで設計する方針に転換し、エクステリア事業をスタートしました。不動産事業を始めたのは、三重県の場合には土地がないお客様が約85%だからです。土地なしのお客様に不動産業者の仲介なしで土地を提供することで、信用が高まり、また営業的にも強くなります。そこで、不動産取扱事業もスタートし、土地、外構、そして住宅をトータルで販売し、顧客満足を高められるようにしています。

住宅事業についての当社の強みは「営業設計」ができることです。一般にハウスメーカーなどでは、営業スタッフがお客様に要望を聞き、それを設計スタッフに図面化してもらうということが多いです。しかし、20年前なら家は「建てばいい」と思われていたところ、近年では情報があふれ、家に対するさまざまなこだわりをお客様が持つようになっています。営業と設計が別々ではそれらお客様の要望を十分に汲み取ることが難しいため、当社では営業スタッフと同行して、設計のフォローもできる「営業設計スタッフ」がお客様のところへ出向くようにしています。この体制により、お客様の個性や要望に合わせた設計がしやすくなるのとともに、同行者がいるため経験が浅い営業スタッフでも務まるのがメリットです。営業設計の導入により、受注数は拡大しています。

サンクスホームが手がけた住宅の一例(画像=株式会社サンクスホーム)

コロナ禍でのイベントを契機に受注大幅増

――御社独自の取り組み「ISM39 マイハウスシュミレーション」についてお聞かせください。

当社はこれまで注文住宅一本でやってきましたが、近年になりお客様の考え方に変化が見られるようになりました。要望の多様化はありつつも、「そこまでこだわらなくていいから、安くていい家がほしい」というお客様が増えてきたことです。そこで、お客様の要望をひととおり網羅する39のライフスタイルを考案しました。それぞれのライフスタイルに合わせたプランをあらかじめ作成し、そのプランを使用するかわりに価格を低く抑えられるようにしたのがISM39です。年収300万円未満の人でも家が建てられるよう、2年ほどかけて企画を練りました。

――ISM39を利用したお客様の反応はいかがですか?

注文住宅を長年手掛けてきた私たちにとって、お客様への提案の仕方に最初は難しさもありました。ISM39のプランは間取りを動かせないため、注文住宅設計時のようにお客様の要望を何でも聞いてしまうわけにいかないからです。プランのメリットをこちらから伝えて受注につなげるという、営業方法の転換に苦労しました。しかし、徐々に受け入れていただき、現在は注文住宅が7割くらい、ISM39などの規格系が3割くらいの割合になっています。

――昨年から発生している新型コロナウイルスの感染拡大によって、どのような影響がありますか?

三重県下では、どのハウスメーカーも、どの工務店も、基本的に業績は右肩下がりとなっています。イベントや内覧会を中止するなどし、自粛態勢に入ったからです。しかし、当社では昨年、一昨年比169%の受注を達成しました。その理由は、ネットでのイベントを実施したからです。資料請求も一昨年比4、5倍になりました。受注数は過去最大です。

――受注や資料請求の増大は、やはりネットでイベントを実施したことが大きかったのですか?

紙媒体での資料などはこれまでも作成していました。しかし、近年では反響が小さくなり、特にスマホを使いこなす若い世代は紙媒体の資料を見ておらず、当社でも時代の変化を感じていました。そこで、コロナを機にネットでのイベントを実施してみたところ、反応がとても良かったのです。時代の変化は、コロナによって加速したところもあるのではと思っています。

――今後の目標や展望を教えてください。

これから2、3年は、コロナなどの影響で状況は厳しいと見ています。したがって、受注数110棟~120棟くらいの最低限のペースを何としても維持しようと思っています。受注数の伸びが期待できない分、利益の上がる体質を再構築しようとしています。2、3年後には時代の流れが大きく変わると思いますので、それまでにしっかり準備をしておいて、その後は三重県ナンバーワン、中部圏ナンバーワンを目指し、大きく飛躍していきたいと考えています。

また、「企業は人なり」と言いますし、採用には力を入れていきたいです。今後も社員を幸せにするために夢のある会社を作っていきたいと思っています。さらに、建築は自社だけで業務を完結させるのは困難です。当社にも協力会社が30社ほどおりますので、この協力会社も幸せになれるような企業でなければ、皆さんに応援してもらえないと思っています。協力会社との信頼関係構築にも、しっかりと力を入れていきます。