特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

商空間づくりのプロフェッショナルである株式会社船場は、2016年に東証二部に上場、翌年一部に指定替えとなった。戦後、繊維問屋が多かった大阪の船場で陳列ケースの販売を営んでいた栗山ガラス店が原点で、ショッピングセンターの出店拡大とともに事業を拡張してきた。進化し続ける大手企業は、三井物産出身の八嶋大輔代表取締役社長のもと、国内外の新たな事業創造にまい進している。

(取材・執筆・構成=不破聡)

(画像=株式会社船場)
八嶋 大輔(やしま・だいすけ)
株式会社船場代表取締役社長
1961年富山県生まれ。東京大学卒。
東京大学経済学部卒業後、三井物産に入社。ブランドインポート部部長、台湾三井物産ライフスタイル部長、三井物産ファッションビジネス事業部部長を歴任し、国内外でブランドビジネス、Eコマース事業の拡大に取り組んだ。2018年3月に船場に入社し、副社長・経営企画室長を経て、2019年1月に代表取締役社長に就任。

DXの推進で営業利益が予想比80%増

――7月31日に発表した業績予想では通期の営業利益を2億1,000万円としていましたが、80%増となる3億8,000万円で着地しました。

想定よりもスムーズにテレワークに移行でき、仕事の効率が上がり経費削減が進んだことが大きいです。オフィスへの通勤や現場への出張にかかる時間と経費の大部分がなくなりました。当社は港区芝浦にあり、東京オリンピックが始まれば人があふれて通勤できないだろうと考え、2019年からテレビ会議を活用して無駄な出勤を控え、書類のデジタル化も進めていました。コロナ前に準備を整えていたことが奏功しています。また、1月には本社が入るビルの2フロアのうち、1フロアを返上し完全フリーアドレスの新たなABW(Activity Based Working)型オフィスの導入を進めています。

――2021年からDX本部を立ちあげて、さらなるデジタル化を推進します。

BIM(ビルディング インフォメーション モデリング)を中核としたデジタル化です。BIMとは、コンピューター上でデザインや設計をする高度な情報化技術です。さまざまなシミュレーションができるため提案力が上がりますし、クライアントの意見を反映して瞬時に変更もできるため、効率化が図れるのです。従来のように、デザイナーがパースを描く、クライアントの意見を聞いて描き直す、といった工程が圧縮できます。

大学や大学院で専門的にBIMを学んだ人材数名で専門デビジョンをつくっており、ここを中心に社員に使い方を広めていく方法をとっています。現在、全デザイナー200名のうち20名ほどがBIMを自在に扱えるようになっており、これを2年後に60名以上まで引き上げる計画です。

――DX本部と同時にエシカルデザイン本部も立ちあげました。

これからは、脱炭素や環境に配慮した内装設計を進めたいと考えています。建築の世界全般に言えることですが、環境に配慮したサービスの提供というものが非常に難しい。その一方で、政府や消費者からはSDGsへの取り組みが求められ、投資家はESGに注目しています。船場は比較的小回りが利く会社ですので、業界に先立ってこの分野に取り組みたいと考えています。具体的な取り組みとしては、資材の見直しです。例えば、先ほどのBIMで使用する材料のCO2削減値を明記する。それをクライアントに提案することで、環境に配慮したサービスであることを理解していただけます。クライアントはCO2削減への取り組みを消費者に宣伝でき、満足度も向上します。

――2020年12月期は売上300億円達成を目指していましたが、217億円にとどまりました。

新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前の第1四半期は、売上高が前期比33.1%増の60億6,500万円となり非常に好調でしたが、4月からの緊急事態宣言で商環境ががらりと変わりました。当社はショッピングモールなどの商業施設を得意としていますが、プロジェクトの多くが延期や中止となりました。

今期は220億円を予想しています。前半は今のような状態が続きそうですが、後半はプロジェクトの再開といった明るい兆しも見えてくると考えています。

2019年9月、近畿大学にオープンした次世代型学生食堂(画像=株式会社船場)

商業施設から教育機関、病院へと事業を拡大

――八嶋社長は新規事業を推進する「Brand-new SEMBA」構想を立ちあげ、けん引してきました。手ごたえは?

成果は出ています。「Brand-new SEMBA」は2019年から3か年の中期経営計画に盛りこんだものです。収益構造を改革するため、事業創造への挑戦、海外戦略の拡大、生産性向上の追及の3つを掲げました。その背景として、当社の主力事業であるショッピングセンターの市場環境の変化があります。ショッピングセンターの開業数は年々減少しており、2015年に60施設あったものが、2018年には37施設となりました。2019年は上期で13施設ほどとなり、コロナ前から先細りが鮮明となっていました。

そこで、国内においてはショッピングセンター以外の施設に積極進出しました。オフィス、教育関連施設、図書館、病院などです。新型コロナウイルスの感染拡大で、商業施設の開業数が今後さらに減少する可能性もありますが、コロナ前の2019年からこの構想を立てていたことで、早い動きがとれました。

――国内で特に注力しているのはどのような施設でしょうか?

教育関連施設や公園などの公共施設です。目下、教育方面には力を入れており、2019年には受験生から人気のある、近畿大学の次世代型学生食堂を手がけました。赤を基調とした先進的なデザインで、キャッシュレスなどの最新設備を導入した店舗です。大学は少子化によって入学者の獲得合戦が過熱しています。魅力を高める施策の一つとして、キャンパスライフの楽しみ方の提案があります。食はその中心に来ますので、大学の魅力を高めるためのメインコンテンツとなります。近畿大学の事例は注目度も高く、大きな実績を残すことができました。

――2020年は教育機関向けの展示会である教育総合展にも出展しました。

Re(再生)とカフェをテーマとしたブースを構えました。学生生活に必要不可欠なコミュニケーション誘発型のカフェです。インテリアに廃材を使って環境に配慮したことも評価され、教育関係者からの引き合いは非常に強いものでした。公園やアウトドア施設などへのカフェにも注目しています。コロナで人々が密を避けるようになり、公園などのアウトドア施設でバーベキューをする人も増えました。そのような人々の憩いの空間を提供したいと考えています。インテリアは建物の中というイメージが強いですが、アウトドアでもそのノウハウが活きるという認知を得たいですね。

――海外事業はいかがですか?

2018年の海外事業の売上は27億4,800万円でしたが、2019年は11.2%増の31億8,600万円となりました。この年は、ベトナムの日系飲食店やシンガポールのコワーキングスペースなどを手がけました。マレーシアに拠点を新設し、ベトナムのオフィスを増床するなど、内部体制の強化も同時に行っていました。大型の建設プロジェクトが多数立ちあがっていた時期です。

しかし、世界的なパンデミックで大部分の計画は先送りとなりました。2020年の海外事業の売上は21億3,000万円にとどまりました。ただし、台湾や中国は比較的景気の戻りが早く、止まっていたプロジェクトも近いうちに動き出すと考えています。長期的にはM&Aによる現地企業の買収も視野に入れています。私自身、海外でのビジネス展開の経験が豊富ですので、引き続き当社の成長エンジンとして拡大を目指したいと思います。