特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

1971年、北海道札幌市で創業した大進ホーム。初代の星野清成(現会長)氏はリフォームから事業を始め、やがて注文住宅を手がけ始める。極寒地に求められる耐雪性、耐震性、断熱性に優れた住宅を顧客に提供し続け、現在までの建築実績は7,000棟にのぼる。しかしながら2015年に就任した二代目社長の星野覚一朗氏は、これらの性能はすでに大きな差別化ポイントにはなりにくいという。真に顧客に求められている住宅とは何か? 証券会社から建築の世界に飛び込んだ二代目社長に話を聞いた。

(取材・執筆・構成=長田小猛)

(画像=大進ホーム株式会社)
星野 覚一朗(ほしの・こういちろう)
大進ホーム株式会社代表取締役社長
1977年北海道生まれ。東京大学卒。
大学では経済学を学び、卒業後は野村證券に入社。10年間証券畑を歩き、2013年に父が創業した大進ホームに入社した。2015年には社長に就任し、社内のさまざまな古い慣習を改革。短期間で年商を2倍に上げるなど、精力的に会社を躍進させ続けている。

改革したのは社内の環境。従業員が気持ち良く働けることが大切

――東大から証券会社、その後建築業界へ。まずは社長の経歴からお聞かせください。

中学・高校までは札幌の一貫校で、それから上京して東京大学の経済学部に進学しました。卒業後、野村證券に入社したのが2002年、それから10年間お世話になりました。ただ、その10年間で、金融商品というお金そのものを仕事として扱うよりも、心を満たすことでお客様に喜んでいただける、そのような仕事に次第に興味を持つようになりました。

それで、証券会社での生活が10年目になり、今後のことを考えようとしたときに、父が経営している住宅会社でがんばってみたいと思うようになり、入社を決断しました。

――建築と証券は、まったく畑が違いますね。最初からうまく行きましたか?

2013年に大進ホームに入社したのですが、最初は営業を担当して知識を身につけました。これまでとは全く異なる環境で苦労も少なくありませんでしたが、お客様にも恵まれ、充実した時間を過ごせました。そして翌年に副社長、2015年には社長に就任しました。

――社長に就任されてから売上が2倍になったと聞きました。かなり大幅な改革を断行されたのでしょうか?

当社の事業は、注文住宅の建築、分譲住宅の販売、店舗やアパートの建築、リフォーム工事、リノベーション工事などです。お客様とのご縁に恵まれ、当時10億だった売上を20億まで増やすことができましたが、事業ベースの部分はもとからしっかりしていたので、建築の工法や仕様、協力会社さんとの関係も含めた人脈といった事業のベースをしっかりした形で引き継がせてもらったことが大きかったと思います。その上で、まず変えたのはホームページです。私が入社した当時からホームページはありましたが、これが全く機能せず、年間の問い合わせ件数が1件程度でした。さっそく住宅会社専門のホームページの制作会社を探しだし、全面的に作り替えました。今もお付き合いのある会社ですが、すぐに問題点を洗いだして改善につなげてくれました。広告もこれまでのチラシからSNSやGoogle中心に切り替え、今では月に40〜50件の資料請求があります。

次に社内の仕事環境の改善を行いました。まず属人ベースで行われていた仕事を、チームでするように変えていきました。情報のオープン化です。例えばお客様から問い合わせの電話があったとき、今までは資料請求やモデルハウスの見学申し込みなどの情報が平等に開示されていませんでした。個人、もしくは一部の人間で情報を抱えこんでしまっていたんですね。ここから不公平感なども生まれていたように思います。往々にしてこのような不公平のしわ寄せを受けるのは若い社員で、これが離職につながってしまうこともあります。

また、契約率や利益率といった指標も個人や集客チャネルごとに集計し、見える化を行いました。精緻に管理されていない部分もあったのでしっかりと数値化を行い、経営層だけでなく一般社員にも見えるようにしました。これにより全社員が現状を正しく理解し、課題の改善にも前向きに取り組んでくれるようになりました。情報をオープンにしたことで、社員の不満や不安も少なくなり、結果として社員の定着率アップや生産性向上につながっています。

大進ホームが手がけた住宅の一例(画像=大進ホーム株式会社)

耐雪性や断熱性だけではない、大進ホームの差別化ポイント

――貴社の事業の強みは何でしょうか?

当社は1971年に創業してから、札幌市内と近郊を中心に、今までに7,000棟あまりの住宅建築を手がけてきた実績があります。ご存じのとおり北海道は雪が降り寒い土地柄なので、耐雪性や断熱性はとても重要です。当社の住宅もここにはとても気を遣った設計となっていて、一般的な工法よりも柱や梁の間隔を半分にしたり、建物全体を断熱材で包みこんで保温したりと独自の工法を採用しています。しかし耐雪性や耐震性、断熱性能の高さは北海道ではもう当たり前で、これらはお客様にとっての大きな差別化ポイントになっていないように感じています。そのため、私はかねてからどの会社も取り組んでいない、お客様に喜んでいただける独自の差別化ポイントを探していました。それが、昨年から当社が新しく展開を始めた、整理収納アドバイザーとつくる家「ラクいえ」になります。

――整理収納アドバイザーとつくる家とは? どのような経緯でこの「ラクいえ」を作られたのでしょうか?

妻が以前に、整理収納アドバイザーの資格を取得したのが始まりです。その当時は家の中の物はもちろん、私の物もどんどん捨てられてしまって(笑)。ところが気がついたらすごく快適なのです。試しに会社の机まわりやメールなども整理したら、仕事もはかどるようになった。これはすごいなと思いました。そしてたまたま目にしたリクルートの住宅リサーチでは、家づくりの不満ランキング1位が「収納」になっていた。3人に1人が収納に不満を持っていたのです。マンションでも戸建てでも、住宅メーカーは収納場所の多さをアピールしている。それなのになぜ収納が不満になるのか? これはつまり、収納場所が多いだけでは問題が解決しないと言うことです。住宅会社とお客様の要望がマッチしていないのですね。

私たちは整理収納アドバイザーのプロから助言をもらって、すぐにモデルハウスづくりを始めました。自然と片付く家を実践するためです。収納場所が多いだけでなく、適切な場所に収納スペースがあって、生活の動線上で必然的に物を片付けられるようにする。例えば子ども部屋のクローゼットなどでも、子どもの手が届くところにハンガーパイプを設置するのです。そして、子どもの成長に合わせてその高さも変えていく。こんな工夫のある家を「あ、片付く」が実感できるラクいえとして昨年の8月から販売し始めました。現在は当社の7割のお施主様にご採用いただいています。

――今回のコロナ禍は事業に影響を与えましたか?

発生当初は、トイレの便座などの資材が入りにくくなるという不安があったり、また初めてのテレワークの導入など、対応に右往左往させられることもありましたが、業績としてはあまりマイナスの影響はなかったように思います。昨年の2月には、北海道では全国に先駆けて独自の緊急事態宣言が発令されましたが、当社ではモデルハウスのご来場を完全予約制に切り替えるなど、できる限りの対応を講じた上でイベントは継続する判断をしました。また、8月には新商品の「ラクいえ」も無事にリリースでき、結果的にそれが新築の受注につながったと思います。リフォームでは売り上げが多少落ちこみましたが、会社全体としては20%ほど業績を伸ばすことができました。

――今後はどのように事業を発展させていきたいとお考えですか?

整理収納の不満を世の中からなくしたいと思っています。これからの会社はその存在意義が世の中から問われる時代になったと感じています。当社は世の中に必要とされる会社でいたい。断熱が良くて頑丈なだけではなく、大進ホームで家を建てればスッキリと片付いた家で末永く暮らせる。家づくりを通じて、そんな暮らしづくりもご提供していきたいです。