日銀は2021年3月19日、ETF(上場投資信託)買い入れについて、これまで年間6兆円としてきた“目安”を撤廃した。2010年10月の制度創設以来、ETF買いは拡大の一途をたどってきたが、事実上の縮小へ初めて方針転換した。背景には、2020年3月のコロナ暴落時に、日銀保有のETFに一時含み損が発生した苦い経験がある。今後、日銀は買い入れ自体は続けるが、購入額は段階的に減らしていくことになる。一方、日経平均株価3万円の水準で推計50兆円規模に膨らんだETFの処分方法は決まっていない。

6兆円の“目安”をなくしたのも
購入額の削減が目的か

(画像=Skylight/PIXTA、ZUU online)

日銀が2021年3月18、19日に開いた金融政策決定会合では、ETF購入ルールを修正。年間12兆円の買い入れ上限を維持する一方、6兆円としてきた“目安”を撤廃。日経平均に連動するETFを購入対象から外して、TOPIX(東証株価指数)連動型だけを買うことになった。

日銀は2020年4月、従来80兆円としていた国債購入の“メド”を撤廃。日銀は無制限に国債を買えると説明したが、実際には購入額を減らしていった経緯がある。ETF買いで6兆円の“目安”をなくしたのも購入額を削減していくのが目的とみられ、実際、目安の撤廃後は株価が下落しても買いを見送るケースが目立っている。

日銀がETF買いの縮小に動くきっかけは2020年3月に世界的に株価が急落した「コロナ暴落」だった。2020年3月19日には日経平均株価が前年末水準を約3割下回る1万6358円19銭まで下落し、日銀が保有するETFの時価が買い値を下回る「含み損」状態になった。株価はその後、日米欧など主要国の大型財政出動に助けられて急反騰し、2020年3月期末のETF評価額はプラスに浮上。もしも株価が底打ちするタイミングが遅れていれば、2019年度の日銀決算書に元本割れのETFが計上されるところだった。日銀の損失は最終的に国や国民の損失になる。

含み損リスクに加えて、ETF買いが実務的に難しくなってきたことも日銀がETF買いを見直す理由だ。ETFは東証に上場している以外、一般の投資信託と仕組みはほとんど変わらず、中身は個別の上場株だ。日銀は2010年12月の初回買い入れ実施から延々と買い続ける一方、一度も売却していない。

日銀保有が2割オーバーで
一部の銘柄は慢性的な品薄状態

このため、日銀がETFを買うたびに市場から株式が吸い上げられ、一部の銘柄は慢性的な品薄状態が続いている。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングや半導体検査機器のアドバンテストなどは、ETFを通じた日銀による間接保有が発行株式数の2割を超えている模様だ。ETFに組み入れる株式が集まらなければ、日銀はETF買いを続けられなくなる。主要225銘柄を買う日経平均型ETFの買い付けを止め、約2100銘柄を買うTOPIX型ETFに購入対象を一本化したのは、1銘柄当たりの購入金額を少しでも減らし、ETF買いの延命を図るのが狙いだろう。