お目当ての株を「いつ買うのか」はいまも変わらず、すべての投資家にとって悩みの尽きない問題です。そこで今回は、値下がり銘柄のなかからお宝銘柄を見つけ出す方法や、買い注文を入れるタイミングの見極め方について解説します。

目次

  1. どのタイミングで買うべきか。そして本当に買うべきか
    1. 「なぜ、その株が下がったのか?」を考える
    2. 企業の公表する資料を見てみる
  2. 逆張りはなぜ投資家冥利に尽きるのか
    1. ハイリスクだが儲けも大きい逆張りは「危険な蜜の味」
    2. トレンドに乗る順張りが王道
  3. 落ちてくるナイフをなぜつかんではいけないのか
    1. 下げ相場での購入リスク1:一旦下げ止まってもさらに下がる可能性がある
    2. 下げ相場での購入リスク2:二番底がないこともある
  4. 急落銘柄を買う時にやってはいけないこと
    1. ナンピンは避けるべし
    2. 「指数下落のツレ安ならいずれ株価は戻る」は本当か
    3. そのまま塩漬けから脱け出せないリスクを考える
  5. まとめ:底値の見極めは相当難しいことを知っておくべき

どのタイミングで買うべきか。そして本当に買うべきか

急落銘柄への投資で難しいのが、「どのタイミングで買いを入れるか」「本当にその銘柄を買うべきか」です。

「なぜ、その株が下がったのか?」を考える

内的要因か、外的要因か

もし株価の変動が、企業の不祥事などの内的要因で起こった場合には、注意が必要です。

例えば、株価下落の要因がその企業の業績不振や不祥事によるもの場合、企業が実施する今後の改善施策が適切かどうかを確認する必要があります。適切であれば、市場から評価され、株価は元に戻る可能性もあるでしょう。

対して、株価の変動が外的要因で起こった場合はどうでしょうか。

例えば、現在発生している感染症の世界的な流行などは、個別の企業で対応できる範囲を超えて、業界全体に影響を及ぼしています。

このような要因で株価の下がった銘柄は、その外的要因が去れば元どおりの価格をつける可能性もあります。下落時に買っておくことで、利益を得られる可能性もあるといえるでしょう。

企業の公表する資料を見てみる

ここからは、値下がりした株を買う基準になる数値を紹介します。

PER、PBR

PER、PBRとは、一言で表すと「その会社の株が割安かどうか」をみる指標です。

PERは、企業の収益力と比べて株価が割安かをみる指標、PBRは、企業の資産と比べて株価が割安かをみる指標です。
それぞれの計算式は以下のようになります。

  • PER=株価/1株益
  • PER=株価/1株純資産

あくまで目安ですが、PERの標準はだいたい15倍、PBRの標準は1倍です。企業の数値がこの標準からどれだけ離れているかを確認すれば、株を買うかどうかの判断に役立ちます。

例えば、2021年2月20日時点でのANAホールディングスのPERは29.28倍、PBRは1.09倍です。

自己資本比率

自己資本比率とは、会社の総資産のうち、借金を除いた純粋な企業の資産の比率を表す数字です。簡単に言うと、会社の借金が多すぎないかを確認する数値です。
この自己資本比率の平均は、業界によって異なります。値下がりしている企業の自己資本比率が平均より高ければ、株価が持ち直すと判断する一つの判断材料になります。

例えば、2021年2月20日時点でのANAホールディングスの自己資本比率は41.4%です。

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逆張りはなぜ投資家冥利に尽きるのか

(画像=metamorworks/AdobeStock)

投資手法は、順張りと逆張りに大別されます。王道の順張りに対して、覇道の逆張りはリスクも高いとされています。それにもかかわらず、逆張りが多くの投資家を惹きつけるのはなぜでしょうか。

ハイリスクだが儲けも大きい逆張りは「危険な蜜の味」

逆張りは相場の流れにあえて逆らうわけですから、裏目に出た時の損失が大きくなりやすいといえます。そのかわり、読みが当たった時は大きなリターンを得られるでしょう。

株価は、発行体の業績・配当政策や財務状態、さらには経済情勢といった基礎条件(ファンダメンタルズ)を反映するといわれています。一方で、昔から「行き過ぎもまた相場」といわれるように、市場が常に正しい評価を下すとは限りません。相場の過熱や冷え込みによって、基礎条件と株価が大きく乖離することも少なくありません。そんな時こそ、逆張り投資家の腕がなるのでしょう。

トレンドに乗る順張りが王道

底値を狙う逆張りは、機関投資家でも判断を誤ります。ましてや個人投資家にとっては、かなり難易度が高いといえるでしょう。

逆張りの対極にある投資手法は順張りです。相場は強気と弱気が錯綜するボックス相場と、はっきりとした方向感を示すトレンド相場があります。

トレンドの方向感は、移動平均線などのテクニカル分析で比較的容易に探ることができます。比較的安全な資産運用を目指すなら、順張りをおすすめします。

落ちてくるナイフをなぜつかんではいけないのか

株価が急落している銘柄は、お買い得に見えます。だからといって「千載一遇のチャンス」とばかりに買い走ると、そこからさらに下げが加速し、結果的に大ケガを負うことも少なくありません。

投資の世界で昔からある格言の1つ「落ちてくるナイフはつかむな」は、ナイフを落ちる手前でつかむのは困難なばかりか、ケガをするリスクも高いという意味です。ナイフは地面に落ちてから拾う、つまり底値を確認してからゆっくり拾えばよいのです。

下げ相場での購入リスク1:一旦下げ止まってもさらに下がる可能性がある

(画像=moonrise/AdobeStock)

「二番底」といって、一度は底を打ち好転した相場がさらに急落するケースも少なくありません。特に10年に一度といわれるような急落相場では、一気に値を下げることは少なく、持ち直しと下げを繰り返しながら底に向かうことが多いものです。最悪の場合は「底割れ」といって底が見えない状態になります。そうなると、底値を探るのはベテラン投資家でも至難の業です。

リーマンショックが、その典型的な例です。1万4,000ドル近辺で推移していたニューヨークダウは、2007年にサブプライム問題がくすぶり始めてから下落を続け、2008年9月15日のリーマンブラザーズ破綻を機に一気に値を崩し、2008年11月に7,449ドルの底値を付けた後、一旦9,000ドル近くまで値を戻しました。

ところが、これでリーマンショックが終わったわけではなかったのです。ダウは翌年再び下降トレンドに転じ、3月初旬には6,469ドルを付けました。多くの投資家がこの二番底を見抜けず、損失を被ったのです。

下げ相場での購入リスク2:二番底がないこともある

ただし相場急落局面での二番底は、必ず形成されるとは限りません。

2020年5月に米国金融機関が行ったアンケート調査の結果でも、機関投資家の7割が二番底を予測していました。つまり、3月から5月に向けての相場回復を、一時的な株価の戻りである「ベア・マーケット・ラリー」と考えていました。

当面、中国以外の経済回復が見通せず、ましてや欧米・日本では景気低迷が続いていたのですから、当然の見立てといえます。

しかし、その後も東京市場・ニューヨーク市場で株価は上昇を続け、11月には急落前の水準に戻ってしまいました。相変わらず欧米では外出規制・ロックダウンが続いていますが、実態経済とは対照的な相場の活況は、各国中央銀行のなりふり構わぬ資金供給の効果と考えられています。

「ベア・マーケット・ラリー」を見越し、ショートポジションを積んでいた海外投機筋は踏み上げに苦しみ、大きな損失を被りました。

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急落銘柄を買う時にやってはいけないこと

急落銘柄に投資する際に守りたい鉄則は、「ナンピンと塩漬けには手を出さない」です。

ナンピンは避けるべし

ナンピンとは、保有していた銘柄の株価が下落したときに、さらに保有高を増やして取得単価を下げる投資手法です。うまくいけば、株価が回復した時にリターンを得られます。2018年12月の「クリスマスショック」を事例に検証します(銘柄:三井住友FG)

  • 2018年6月末:終値4,306円×100株取得=取得価額43.06万円
  • 2018年12月末:終値3,645円(下落率15%)×100株取得=取得価額36.45万円
  • 取得単価:(43.06万円+36.45万円)÷200株=3,975.5円
  • 2018年12月末:終値4,038円×200株売却=80.76万円
  • 売却益80.76万円-3,975.5円×200株=1.25万円

クリスマスショックによる含み損をナンピンで相殺し、わずかながら利益を出しています。

しかし、ナンピンは常にうまくいくとは限りません。次は、同じ三井住友FG株をそのまま保有し、今回の株価急落局面でナンピンしたケースです。

  • 2020年3月末終値2,623円(下落率34%)×200株取得=取得価額52.46万円
  • 取得単価:(43.06万円+36.45万円+52.46万円)÷400株=3,299.25円

3月末の終値はほぼ底値の水準で、ナンピンのタイミングとしてはベストといえます。しかしその後の株価は、月末終値ベースでみると3,200円にも届いていません。下げがあまりにきつい場合は、ナンピンは機能しないのです。「下手なナンピン大ケガのもと」という相場格言もあります。

「指数下落のツレ安ならいずれ株価は戻る」は本当か

今年3月に急落した日経平均も、9月上旬時点では急落前の水準に戻りました。ところが個別銘柄を見ると、最高値を更新する銘柄が目立つ一方で、急落前の水準を大きく割り込んでいる銘柄も少なくありません。この時点で急落前の水準に戻ったのは、東証1部上場企業では3分の1に過ぎないのです。

アメリカでは、GAFAをはじめとするデジタル企業の株価が絶好調です。日本国内でもテレワークや外出自粛に伴い、クラウドや半導体関連の勝ち組企業は業績が上向いています。たとえば半導体製造装置を扱う東京エレクトロンの株価は、6月に急落前の2万4,500円に戻り、11月中旬時点では3万円を超えています。

一方で景気敏感銘柄の多くは、いまだに急落前の水準です。ウォーレン・バフェット氏による出資で話題を呼んだ5大総合商社株ですが、5社中4社が年初の水準を超えられず(9月末終値ベース)、上回ったのは非資源・中国ビジネスが好調だった伊藤忠商事だけです。

国内総合商社・大手5社の株価の推移
銘柄 年初株価 9月末株価 騰落率
三菱商事

2,876円

2,512円

△13%
伊藤忠商事

2,510円

2,685円

+7%
三井物産

1,945円

1,803円

△7%
住友商事

1,613円

1,374円

△15%
丸紅

800円

594円

△26%

つまり、「ツレ安」で下がった株価が相場の戻りとともに回復するかどうかは、業種や個別企業の業績によるところが大きいのです。

そのまま塩漬けから脱け出せないリスクを考える

「出遅れていても塩漬けしておけば、いずれ株価は戻る」と考える個人投資家は少なくありません。塩漬けを生む思考の根底には、「株価は上昇するのが当たり前」という意識が潜んでいるといわれています。私たち個人投資家は、もはやそんな常識は通用しないということに、早く気づかなければなりません。「持ち続けていれば、いつか株価は戻る」という幻想は捨てるべきです。

ツレ安が株価下落の本当の理由なら、いつか株価は戻るでしょう。しかし日経平均などの指数の急落は、単に地合いの悪さを示しているだけではありません。産業・経済構造の変化の予兆であるケースが多いのです。

リーマンショック前後の東京市場を振り返ってみましょう。日経平均がリーマンショック前の水準(2007年6月終値1万8,138円)を超えるのは、2015年2月です。その後も株価はおおむね順調に上昇を続け、2019年12月末の終値は2万4,000円を超えました。リーマンショック前の3割増しの水準です。

それでも、一部の業種・銘柄はリーマンショック前の水準に戻っていません。その代表格が、銀行株です。三菱UFJの場合、2007年6月末終値が1,360円であったのに対し、2019年12月末終値は593円と半値以下です。リーマンショック前と現在を比べても、極端に業績が落ちているわけではありません。日銀のゼロ金利政策や資金需要の低迷など、銀行業に対する成長性の期待値の低下が、結果的に、株価に現れているのです。

「見切り千両、損切り千両」という相場格言もあります。ナンピン・塩漬けの誘惑に負けず、値を下げてしまった株は早々に諦めて損切りし、次に向かうのが賢い選択といえそうです。

まとめ:底値の見極めは相当難しいことを知っておくべき

株価の天井や底値を見極めて売り買いをするのが理想ですが、それはプロでも難しいでしょう。では、どうすればよいのでしょうか。

相場の世界では、昔から「魚の頭と尻尾は猫にくれてやれ」といわれてきました。値下がりが続いている時は、グッと我慢しましょう。やがてトレンドは反転します。流れが変わったことを確認してから買いを入れても、決して遅くありません。尻尾はあきらめ、一番おいしい身(その後の値上がり益)をいただこうではありませんか。

いつもうまくいくとは限りませんが、波に乗れた時の達成感は何物にも代えがたいものです。

急落銘柄に投資する場合は、ある程度売買注文を繰り返すことになります。したがって、売買手数料の安い大手ネット証券を選ぶのが得策です。銘柄探索に役立つテクニカル・ファンダメンタルズ分析情報も充実しているので、うまく活用してください。

※本記事は2020年11月24日現在の情報をもとに作成しています。掲載する銘柄は解説例であり、投資を推奨するものではありません。

野口 孝雄
上場企業(大手日用品メーカー)にて、事業戦略・財務に携わる。とくに財務部門所属時には、株主総会運営・決算開示を経験、経営分析の力をつける。個人としての投資経験に合わせ、「投資される」企業側からの視点を加味した、独自の切り口によるコラムを真骨頂としている

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