本記事は、桑原晃弥氏の著書『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=loran4a / stock.adobe.com)

さっと作れば、さっと結果がわかります。
そしたら、さっと修正できるわけです

――「イーロン・マスク」下

マスクの特徴は事業化に際して緻密な計画は練るものの、以後の進め方に関しては「まずものをつくる」を優先するところにあります。

理由はつくることで見えてくるものがあるし、人も動くし、改善のアイデアも出るからです。

マスクは学生たちを前にこんなスピーチをしたことがあります。

「あなたが会社をつくるつもりなら、最初にやってみるべきことは、実際に動く試作品をつくることです。パワーポイント上なら何でも目的通りに動かすことができます。でも実物のデモ製品があれば、それがまだ原型だとしても、人々を説得するにはずっと効果的なのです」

あなたが素晴らしいアイデアを持っていて、それを会社などでみんなに懸命に話をしているにもかかわらず誰も耳を傾けてくれない時、あなたならどうしますか?

「こんな最高のアイデアを理解できないなんてバカばかりだ」と愚痴をこぼすだけでは何も始まりません。「もう少し力があれば」と思ってもすぐに偉くなるわけもありません。それよりも「まずつくってみる」。それがすべての始まりなのです。

マスクはスペースXでもあれこれ議論をしたり、分析をしたりに時間を費やすのではなく、「さっと作れば、さっと結果がわかります。そしたら、さっと修正できるわけです」とまずやることを推奨していました。部下にはこう言っていました。

「とにかくエンジンを作って試験架台で動かしてみろ。問題ないようならロケットに取り付けて飛ばしてみろ」

マスクにとって大切なのは分析や議論を重ねて問題のないものを時間をかけてつくることではなく、「なにが問題なのかをいかに早く突き止め、それを直すのか」です。

反対にリスクを恐れ、失敗を何より恐れる企業であれば、とにかく議論を重ね、試験を繰り返し、「これなら絶対に大丈夫」となって動き始めるわけですが、それでは時間ばかりがかかってせっかくのチャンスを逃すことにもなりかねません。

一方、マスクはつくって失敗したら、その失敗の原因をすぐに調べて、すぐに改善して、再びつくって、試せばいいという考え方です。失敗を恐れすぎると人はどうしても臆病になりがちですが、リスクがあるからこそ「まずつくる。まず試す。失敗したらすぐに改善する」というサイクルを猛スピードで回すことが必要なのです。

ワンポイント
さっと作れ。失敗したらそこから学んで次に進もう。

問題があったのは事実だが、原因をきちんと究明すれば乗り越えられる。
私たちは技術の会社だ。立ち止まる必要はない。前に進もう

――「日経ビジネス」

「絶対の成功が約束されているのなら、それは挑戦とは呼ばない」という考え方があるように、イノベーションや挑戦には失敗がつきものです。

では、失敗を恐れて挑戦をやめてしまうか、それとも失敗を乗り越えて前に進むかで企業のありようは大きく変わってきます。

マスクのスペースXが初めてロケットの打ち上げに挑戦したのは2006年3月のことですが、わずか25秒で制御不能となり落下しています。残骸が火を噴きながら海に落ちるのをみながら、マスクは「胃がきゅっと痛みました」と言いましたが、それでもみんなでヘリコプターに乗り、残骸を確認しに行った後、メンバー全員で屋外のバーで黙ってビールを飲んだといいます。

しばらくしてマスクは「これまでもロケットを打ち上げる企業や組織が何度も痛い目にあった末に成功にたどり着いている事実を忘れてはならない」とみんなを励ましています。

その後、「これは長期的な案件だとスペースXでは考えており、なにがあろうと、成功するまで歩みを止めることはありません」という公式発表を行っています。

しかし、その後の挑戦も簡単なものではありませんでした。2007年3月、2度目の挑戦を行いますが、宇宙には到達したものの、軌道に達することはできず墜落します。3度目の挑戦(2008年8月)も失敗します。資金には限りがあるだけに、マスク自身は「3回で成功できなければ、倒れても仕方がない」と覚悟をしていましたし、そのことは他のメンバーもよく分かっていました。打ち上げたロケットは順調に飛行、エンジニアの1人が「3度目の正直だ」と叫んだものの、その願いも空しく最後は地上に向けて落下しています。

もはや万事休すとみんなが諦めますが、マスクはロサンゼルス工場に4台目の部品があると知り、それを組み立てて4度目の挑戦を行うことを表明します。

「問題があったのは事実だが、原因をきちんと究明すれば乗り越えられる。私たちは技術の会社だ。立ち止まる必要はない。前に進もう」というのがマスクの思いでした。みんなが絶望的な気持ちになっていた中、マスクの「もう一度がんばろう」はみんなを奮い立たせたといいます。その甲斐あってか、2008年9月、スペースXはついに打ち上げに成功します。

ワンポイント
失敗をしてなお前に進む。それこそが本当の「挑戦」だ。
イーロン・マスクの名言
桑原晃弥
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『イーロン・マスクとは何者か』『逆境を乗り越える渋沢栄一の言葉』(以上、リベラル社)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『トヨタ式「すぐやる人」になれる8つのすごい!仕事術』(笠倉出版社)、『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学』(KADOKAWA)、『amazonの哲学』(だいわ文庫)、『イーロン・マスクの言葉』(きずな出版)、『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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『イーロン・マスクの名言』
  1. 「いつか来る危機」に対しては、できるうちに準備をしなければならない
  2. イーロン・マスクは「まずものをつくる」を優先する
  3. 自分で自分の発想を制限してはいけない
  4. 危機においてはトップは最前線で指揮を取れ
  5. 現代のリーダーに必要なのは、明るい未来を信じられる仕事を創ること
  6. あれもこれもみんな順調というのも、よくない
  7. 大きなビジョンを達成するためには、利益を度外視した挑戦も必要