本記事は、桑原晃弥氏の著書『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

努力
(画像=kieferpix / stock.adobe.com)

1%の危機というのはなお、
相当な努力を費やす価値があるのです

――「セレブたちの卒業式スピーチ」

2022年5月、マスクが発したツイートが、日本で大きな話題になりました。そこにはこう書いてありました。

「当たり前のことを言うようだが、出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう。これは世界にとって大きな損失となろう」

マスクがこうしたツイートをしたきっかけは、共同通信社が英語で配信した「この1年間に日本の総人口が64万4,000人減った」という、人口統計のニュースのようです。1億2,000万人あまりが暮らす日本の人口が64万人減ったからといって、「日本はいずれ存在しなくなるだろう」というのはあまりに飛躍しすぎだと感じるかもしれませんが、このツイートは実にマスクらしいものであり、マスクの考え方や行動の仕方を考えるうえでとても興味深いものでした。

たしかにマスクが言うように「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなる」というのは統計的な事実です。今の状態が続けば日本の総人口は200年後に1,000万人をきり、2340年に100万人となり、そして2490年に10万人となり、3300年に日本列島は無人になる、というのが「人口統計資料集」のデータです。

これは統計が示す「確実に来る未来」だけに、「じゃあ、なぜ動かないんだ」がマスクの疑問だったのではないでしょうか。マスクははるかに小さな「いつか来るかもしれない危機」にさえ挑んでいます。マスクは早くから「人類の火星への移住」を唱えていますが、かといって「今すぐに人類に危機が訪れる」と考えているわけではありません。

「地球は多分長い間、大丈夫だろう」と断ったうえで、しかしこう話しています。

「たとえ99%くらい確かだとしても、1%の危機というのはなお、たくさんある惑星に地球の生物圏のバックアップを確保するための相当な努力を費やす価値があるのです」

マスクによると人類の技術は常に向上し続けるものではなく、資金などの問題もあって、時に下降したり伸び悩むこともあるといいます。つまり、危機が間近に迫ったからといってその時確実に対策を取れるとは限りません。だからこそ、「いつか来る危機」に対しては、できるうちに準備をしなければならないというのがマスクの考え方です。

「確実に来る危機」はもちろんのこと、「いつか来るかもしれない危機」のためにも、人類は準備をし、備えなければならないというのがマスクの行動原理です。

ワンポイント
「健全な危機意識」こそが困難を乗り越える力になる。

街は3Dだけど道は必ず2Dなんだよな

――「イーロン・マスク」上

マスクのビジネスはしばしば現状への大いなる不満からスタートします。

Xドットコムを立ち上げた理由の一つは、「インターネットの時代に、わざわざ銀行の窓口に足を運ぶのは時代錯誤」に思えたからですし、そんな時代遅れの銀行業界に革命を起こしたいというものでした。

スペースXの創業も元々はどこかの国のロケットを使って火星に植物を育てるプラントを運びたいと思っていたにもかかわらず、安くて信頼のおけるロケットが存在せず、「ないなら自分でつくるまで」というのが理由でした。

こうした不満は恐らく多くの人が感じるものですが、たいていの人は「不満」を「仕方がない」と諦めるのに対し、マスクの場合は、「じゃあ、どうするか」という具体的な解決策に進むところに特徴があります。

マスクがサンフランシスコとロサンゼルスを30分で結ぶ「ハイパーループ」という新たな移動手段について公に口にしたのは2012のことです。計画されていた新しい鉄道建設に対する不満と、多くの時間を奪われる渋滞に対する不満から生まれたアイデアです。ハイパーループというのは、高い位置に空気抵抗を減らした密閉チューブを設置して、その中を乗客を乗せたカプセルが圧縮空気で時速700マイルで移動するというシステムです。

マスクは渋滞などを念頭に必要とされている交通システムの理想をこう述べます。

「今望まれているのは、絶対衝突しなくて、飛行機よりも倍速く、駅に着いたらすぐに出発できる移動手段だ」

似たような理由から誕生したのが「ザ・ボーリング・カンパニー」です。

2016年、香港でいくつもの会議をこなしたマスクはテスラの営業やマーケティングのプレジデント、ジョン・マクニールにこう言います。

「街は3Dだけど道は必ず2Dんだよな」

街の上にチューブを通せばハイパーループになり、街の下にトンネルを掘れば、道路も3Dになります。マスクはすぐに行動を起し、スペースXのエンジニアに命じて短期間で安くトンネルを掘ろうと、掘削機を購入します。新会社「ザ・ボーリング・カンパニー」の始まりです。

どちらもまだ圧倒的な成果は上げていませんが、マスクのビジネスはいつも現状への不満と、それを解決してみせるという情熱からスタートします。

ワンポイント
不満をそのままにせず、荒唐無稽でも解決策を考える。
イーロン・マスクの名言
桑原晃弥
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『イーロン・マスクとは何者か』『逆境を乗り越える渋沢栄一の言葉』(以上、リベラル社)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『トヨタ式「すぐやる人」になれる8つのすごい!仕事術』(笠倉出版社)、『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学』(KADOKAWA)、『amazonの哲学』(だいわ文庫)、『イーロン・マスクの言葉』(きずな出版)、『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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