本記事は、桑原晃弥氏の著書『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=domoskanonos / stock.adobe.com)

『私たちは世界に役立つことをしている』。
それが一番大事で、それこそが私のモットーです

――「日経ビジネス」2014・9・29

「世界が少しましなのはアップルがあるからだ。誰かがいいコンピュータをつくらないとね。アップルがやらなければ、おそらくどこもやらないだろう」は経営危機に陥ったアップルを救うため暫定CEOに復帰したスティーブ・ジョブズの言葉です。最高のコンピュータをつくれるのは自分だけだし、それこそがアップルの使命だという自負が伝わる言葉です。

マスクにもこうした強い自負心があります。テスラが生み出した電気自動車は間違いなく世界を変えました。電気自動車には大きな市場があり、電気自動車に消費者がお金を喜んで払うという事実を世界中に知らしめたのはマスクの功績です。

反面、そこに大きな市場があると分かれば、大手自動車メーカーが本気で生産に乗り出すのも当然のことです。大手が大量生産を開始すると、テスラの存在意義は薄れ、競争でも不利になるのではと質問されたマスクはこう答えています。

「最終的に自動車大手がテスラよりも優れたEVを生産できるようになれば、テスラは存在する必要はありません。優れたEVをつくっている限り、テスラの存在意義があるのです」

企業の目的、経営者の目的はさまざまです。

なかには売上げの最大化を目標に成長を加速させる経営者もいれば、利益至上主義を掲げて儲かる会社づくりを目指す経営者もいます。起業家にはそれぞれ起業への想いがあり、その企業でどんなビジョンを実現しようとしているのかが企業の価値観を決め、企業の将来を大きく左右することになりますが、マスクは企業の目標を大きさや利益以外のところに置いています。

自らの目標についてこう話しています。

「私は単純な成長だけを目的に企業を成長させようとは思っていません。会社の成長よりもEVをもっと普及させることの方がはるかに重要です。それが世界にとって良いことだからです。株価うんぬんは関係ありません。『私たちは世界に役立つことをしている』。それが一番大事で、それこそが私のモットーです」

マスクにとって大切なのは持続可能な社会を実現し、人類を救うことです。その思いでリスク覚悟で電気自動車の生産に挑み、自動車業界に革命を起こした結果がテスラをトヨタなどをはるかに上回る時価総額を誇る企業へと押し上げたのです。

ワンポイント
売上げや利益よりも大切にすべきものがある。

明るい未来を信じられる仕事を創ること、それこそがリーダー自身の誇りにも繋がっていくと思うのです

――「GOETHE」

マスクがビジネスに取り組んでいる目的はとても明確です。

人口爆発と限りある資源という問題を抱える人類と地球環境を守るために持続可能なエネルギーを実現することと、人類の新しい環境を宇宙に求め、地球を含む多惑星で暮らすことのできる未来を実現することです。

しかし、マスクは決して悲観論者でもなければ、終末論者でもありません。では、なぜ電気自動車の普及やロケットの開発に懸命になるのでしょうか?

それはリーダーの責務であるというのがマスクの考え方です。こう話しています。

「今という時代に私を含めこれからのリーダーや経営者にとって必要なものとは何でしょう? 明るい未来を信じられる仕事を創ること、それこそがリーダー自身の誇りにも繋がっていくと思うのです」

今という時代は解決すべきたくさんの問題を抱えています。それらの問題を一朝一夕に解決することはできないにしても、解決に向けて着実に歩を進め、結果、「持続可能エネルギーの問題を解決し、別の惑星でも生きていける文明を築き、人類が複数の惑星にまたがって活動できるようになればいい」というのがマスクの願いです。

なかにはこうしたマスクのSFじみたことに莫大な資金を使うことに批判的な人たちもいますが、マスクはこう話しています。

「資源の99%以上は地球上の問題解決に向けられるべきだ。しかし、問題を解決することだけが人生ではないはずだ。心を動かされ、朝起きた時の喜びや将来への期待を抱かせるようなものでなければならない。多惑星種となり、宇宙旅行をするようになって、『SF』を現実にするんだ」

人類にとって宇宙へ行くという以上に壮大な物語はありません。それらは所詮はSFの世界の出来事だったわけですが、マスクはそれを本気で実現しようとしています。それは「世界を救う」という使命感からですが、同時に「SFを現実にする」というワクワク感も抱かせてくれるものです。終末論に与することなく、自分たちの未来を自分たちの手で切り開くという強さがあります。

「どうせなら人類の未来は明るいと考えながら死にたいね」と願うマスクは、だからこそ今、テスラやスペースXに持てるすべてを注ぎ続けているのです。

ワンポイント
リーダーには「明るい未来」を切り開く責務がある。
イーロン・マスクの名言
桑原晃弥
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『イーロン・マスクとは何者か』『逆境を乗り越える渋沢栄一の言葉』(以上、リベラル社)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『トヨタ式「すぐやる人」になれる8つのすごい!仕事術』(笠倉出版社)、『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学』(KADOKAWA)、『amazonの哲学』(だいわ文庫)、『イーロン・マスクの言葉』(きずな出版)、『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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