金融教育の課題は「教えられる」といえる先生が少ないこと
ー金融教育に対して先生が感じられる課題は何でしょうか?
田中由美子教授
いくつか考えられます。
1つ目は、消費者教育の中の、金融・経済分野を「教えられます」と言える先生が少ないことだと思います。
外部講師の活用も推奨されていますが、理想的なのは、対象者である生徒・学生の理解力や予備知識の程度を熟知している教員が、時間をかけて複数回教えたり、日々の新聞・ニュースをHRで取り上げて話題にしたりという、系統的・継続的教育をおこなうことだと考えます。ですが、それができる人材が不足しています。
これを解消するには、①教員養成課程において学ぶ機会を確保すること、②現職教員の方への研修を充実させること、とともに、③外部講師と連携する場合には、入念な打ち合わせをおこなうこと、が不可欠です。
私の経験でも、見聞きした中にもありますが、外部講師に一任すると、専門的すぎて「やはり難しい」との印象が残って逆効果になったり、反対にゲーム的な内容のみの場合、ゲーム感覚で運用・投資を始めたりする恐れがあります。受講後の生徒・学生から、「わかりやすかった」「役に立った」「自分でも学びたい」との感想が出るような、わかりやすく、実際の資産形成に役立つ、実践的で充実した内容の連携講座が望まれます。
2つ目は、授業・教材を考える際の目標設定として、教員・講師側からの「教えたいこと」よりも、生徒側からの「生活で生かせること」「頭と心に残る授業」を考えることが大切です。ここからスタートすると、学習内容の取捨選択が容易になるだけでなく、生徒の知的好奇心を高めることができます。
学校教育で全てを教えることはできませんが、「自分でも調べてみよう」「もっと学びたい」という意欲喚起ができるような、インパクトのある授業づくりが必要だと考えています。
ー 高校でも金融教育が必修化されました。現状における金融教育の推進の仕方や、金融リテラシーの浸透具合について、田中先生が課題に感じていることがあれば具体的にお聞かせください。
田中由美子教授
高等学校家庭科の新学習指導要領には、金融教育に関する学習内容とその取扱いとして、
「…民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット・デメリット)、資産形成の視点にも触れるようにする。」と記されています。これに沿った学習を進めるには、まず、社会保険の内容を知り、その不足分がいくらかを把握した上で民間保険を検討し、自助にもつながる資産形成のための金融商品の特徴を教えるという段階的な学びが必要です。
しかし、これらの教育が行き届かないまま、運用・投資を推奨している風潮があり、課題を感じています。
「金融リテラシー調査(2022)の結果」(金融広報中央委員会)によると、2019年~2022年にかけて、若い人たちの株式運用や投資信託の購入が大幅に増加しており、金融への関心が高まっている様子がうかがえます。また、18~29歳の若い層の人たちは、ほかの年齢層に比べて金融教育を受けた割合が高いこともわかりました。一方で、知識問題への正答率は高くありません。
つまり、「若年層は、金融教育を受けた人が多いにも関わらず、知識が定着していない」、そして「知識が乏しいまま関心は高まり、運用・投資をおこなっている」という実態が明らかとなりました。解決策を講じる必要のある、喫緊の課題だと考えます。