住宅地などの不動産と同じように、農地にも相続税がかかる。一般に農地は宅地に比べて評価額が低いが、農地の面積は広く相続するとなれば相続税も多額になる。そうなれば相続税により、農業後継者が農地を継承し農業を営むことに重大な影響を与える可能性がある。

しかし農地には贈与税納税猶予制度があり、条件を満たせば生前一括贈与により贈与税の支払いが猶予される。本記事では、まず農地にかかる税金について説明し、次に贈与税納税猶予制度の内容を紹介し、そのメリットとデメリットについて説明する。

世代を超えて農地を相続し農業を営む意思のある人にとって、贈与税納税猶予制度を理解することは大変意義のあることだ。

農地に関する課税の仕組みを整理

(画像=PIXTA)

農地の所有や権利移転に対しては、一般の土地と同じく税金が課せられる。農地の所有や売買及び貸与、また相続や贈与の際にどのような税金がかかるか説明しよう。

農地を所有すると、固定資産税と都市計画税がかかる。固定資産税は土地評価額に税率1.4%を掛けた額となり、都市計画税は農地が都市計画区域内であれば課税され土地評価額に税率0.3%以下を掛けた額である。固定資産税と都市計画税は地方税のため、実際に適用される税率は農地のある地方自治体へ確認する必要がある。

農地を売った場合、売渡により生じた譲渡益に対して所得税または法人税と住民税がかかる。所得税または法人税は譲渡益に15%を掛けた額で、住民税は譲渡益に5%を掛けた額となる。法人税は総合課税される。

農地を買った場合、農地の取得に対する不動産取得税と取得土地の所有権移転登記に対して登録免許税がかかる。不動産取得税は固定資産課税台帳価格に4%を掛けた額で、固定資産税は固定資産課税台帳価格に2%を掛けた額だ。

農地を交換した場合、交換により生じた譲渡益に対して所得税または法人税と住民税がかかり、さらに農地の取得に対する不動産取得税と取得土地の所有権移転登記に対して登録免許税がかかる。所得税または法人税は譲渡益に15%を掛けた額で、住民税は譲渡益に5%を掛けた額となり、不動産取得税は固定資産課税台帳価格に2%を掛けた額で、固定資産税は固定資産課税台帳価格に4%を掛けた額だ。

農地を貸した場合、賃貸料収入に対して所得税または法人税と住民税がかかる。賃貸料収入は不動産所得として他の所得と合算して課税される。農地を借りた場合にかかる税金はない。

農地を相続した場合、相続税と登録免許税がかかる。相続免許税は相続財産額に10%から55%の累進税率を掛けた額で、登録免許税は固定資産課税台帳価格に0.4%を掛けた額となる。相続の場合不動産取得税は非課税となる。

農地の贈与を受けた場合、贈与税と不動産取得税および登録免許税がかかる。贈与税は課税価格に10%から55%の累進税率を掛けた額で、不動産取得税は固定資産課税台帳価格に4%を掛けた額で、固定資産税は固定資産課税台帳価格に2%を掛けた額だ。

なお、かつては土地の保有と取得に対して地方税の特別土地保有税が、土地の保有に対して国税の地価税が課せられていたが、現在何れも適用停止となっている。特別土地保有税は2003年度から新規課税が停止され、地価税は1998度から「当分の間」課税されないこととなっている。

農地の生前贈与の方法

農地の生前贈与の特例として贈与税納税猶予制度ある。贈与税納税猶予制度は農地の生前一括贈与により、相続による農地が複数に分けられることを防止し、さらに農業後継者を税制面で支えることを目的として設けられた仕組みだ。

贈与税納税猶予制度では、贈与者の農家が相続人の一人の農業後継者に農業継承に必要な農地を全て贈与すれば、被贈与者である農業後継者の贈与税が猶予され、贈与者か受贈者のいずれかが亡くなった時に贈与税が免除される。贈与者の死亡により贈与税額が免除された場合は、贈与された農地を相続したものとみなされ相続税の課税対象となるが、被贈者が農業を継続する場合は相続税納税猶予制度の適用を受けられる。

さらに、相続税納税猶予制度が適用された相続税は次の場合には免除される。それは、相続人が死亡した場合、農業後継者が農地を次の農業の後継者に生前一括贈与した場合、相続人が相続税申告の期限より農業を20年間継続した場合である。

このようにして贈与税納税猶予制度は、本来の目的である農地細分化を防ぎ農業後継者を税制面で優遇することで世代を超えた農業経営を支えているのだ。

また、土地など不動産の生前贈与で使用される相続時精算課税制度を利用して農地を生前贈与することもできるが、この場合は相続税納税猶予制度が適用できず、前述した相続税の納税猶予・免除を受けることはできない。

贈与税納税猶予制度を利用するための要件

贈与税納税猶予制度を利用するためには、贈与者と受贈者および贈与する農地についての条件がある。

まず贈与者は農地を贈与した日まで3年以上農業を営んでいる個人でなければならず、贈与税の相続時精算課税制度の適用を受けていないことが必要だ。

受贈者は贈与者の推定相続人でなければならず、次の要件の全てに該当することを農業委員会が証明した個人でなければならない。受贈者が農地を取得した日に18歳以上で、農地を取得した日まで引き続き3年以上農業を営み、農地を取得した日からも農業を行っており、農業委員会の証明時に農業の担い手になっていなければならない。

贈与する農地は、贈与者が農業を行っている農地の全てと採草放牧地および準農地の3分の2以上を相続人の一人の農業後継者に一括して贈与することが必要だ。

農地の生前贈与のメリット3つ

贈与税納税猶予制度により農地を生前一括贈与すると、3つのメリットがある。

最初に、農地を生前贈与することで相続の際の争いを防げる。

次に、農地が分割相続されないので農業後継者に農業経営の基盤である農地をそのまま引き継げ、世代を超える農業経営ができる。

最後に、世代を超えて農業経営を継承するための経済的なメリットがある。贈与税納税猶予制度により後継者に贈与した土地の贈与税納付が猶予され、贈与者の死亡により贈与税額が免除された場合は、贈与された農地を相続したものとみなされて相続税の課税対象となるが、被贈者が農業を継続する場合は相続税納税猶予制度の適用を受けられる。

相続税納税猶予制度では低い額の農業投資価格により相続税を計算し、本来納めるべき相続税額との差分の納税を猶予しているが、相続人が死亡した場合や相続人が次の後継者に農地を生前一括贈与すると、猶予されている納税が免除される。結果的に農業投資価格で計算された相続税だけを納めればよいことになる。

農業投資価格は、農地がこれからも農業で使用されると想定した場合の取引価格として国税局長が決めた価格で、10アールあたり20万円~90万円程度の価格だ。1平米あたり200円~900円であるので、如何に低い評価額であるかが分かるだろう。1ヘクタールの農地であれば農業投資価格は200万円~900万円で、相続税の基礎控除3000万円の範囲内となり相続税は全く納める必要が無くなるのである。

農地の生前贈与のデメリット2つ

贈与税納税猶予制度による農地の生前一括贈与でデメリットが生じる場合がある。納税猶予が打ち切りになると贈与税を納めなければならないが、その納付すべき税額について贈与税の申告期限の翌日から納税猶予の期限までの期間に応じて年3.6%の割合で利子税がかかる。では、納税猶予が打ち切りとなるのはどのような場合だろうか。

まず、納税猶予が全て打ち切りとなる場合がある。猶予適用農地について20%超の譲渡・貸付・転用・耕作放棄をした場合や、受贈者が猶予適用農地での農業経営をやめた場合、受贈者が贈与者の推定相続人に該当しないこととなった場合、継続届出書を提出しなかった場合などだ。この場合、猶税額すべてに利子税を加えた額を納税しなければならない。

次に納税猶予が一部打ち切りとなる場合もある。収用交換などによる譲渡をした場合、猶予適用農地について20%以下の譲渡・貸付・転用・耕作放棄をした場合、生産緑地地区内の農地について買取り申出をした場合や、農用地区域内の農地について農地中間管理機構への譲渡・農地利用集積円滑化事業・利用権設定等促進事業に基づき譲渡した場合などである。この場合、猶予された贈与税の一部に利子税を加えた額を納めなければならない。

納税猶予が打ち切りになると、猶予された税額に加えて利子税も納税しなければならず負担が増える。農地を譲渡・転用する可能性がある場合や、農業を継続できない可能性がある場合などは贈与税納税猶予制度の利用は慎重になるべきだ。

農地の生前贈与で注意すべき事項

納税猶予の打ち切りは例外措置があり、一定の要件に該当する場合には納税猶予が継続される。

まず、猶予適用農地を譲渡しても納税猶予期限が継続する場合がある。買換特例と呼ばれる譲渡の日から1年以内に、その対価で農地・ 採草放牧地を取得する場合だ。次に付替特例と呼ばれる、三大都市圏の農地の収用交換による譲渡から1年以内に、猶予適用農地以外の土地を猶予適用農地・採草放牧地とする場合である。

猶予適用農地を貸付けた場合にも、納税猶予期限が継続する場合がある。特定貸付けとよばれる一定の要件を満たす受贈者が農地中間管理事業、農地利用集積円滑化事業または利用権設定等促進事業(農地利用集積計画)による貸付けが該当などの特定の事業により貸し付けた場合だ。なお、農地中間管理事業以外の事業による貸付けの場合、申告書の提出期限から貸付けまでの期間が10年(貸付時の年齢が65歳未満の場合は 20年)以上の受贈者であることが必要となる。

営農困難時貸付けと呼ばれる身体障害などにより営農継続が困難となった場合や、特例付加年金または経営移譲年金の受給資格を取得するためにその受贈者の相続人の1人に農業経営を譲った場合、農業経営基盤強化促進法に規定する農用地利用集積計画に基づいて農地を貸付けて同時に代替農地・採草放牧地を借り受ける場合などは猶予が継続される。また、一時的に道路用地として提供するために地上権などを設定して農地の貸付けを行った場合で、貸付期限が満了すれば元の農地で農業を営む場合も猶予継続される。

次に猶予適用農地の譲渡や貸付けの面積が20%を超えても全額猶予打ち切りならない場合がある。収用交換などによる譲渡があった場合、生産緑地地区内の農地・採草放牧地が地方公共団体などに買い取られた場合や、農地所有適格法人に現物出資した場合で出資者がその法人の常時従事者になる場合などだ。

また、贈与税の申告期限から農地の譲渡までの期間が10年(譲渡時の年齢が65歳未満の場合は20年)以上の受贈者が、農用地区域内の農地を農地中間管理機構や農地利用集積円滑化事業または利用権設定等促進事業に譲渡した場合も納税猶予は全額打ち切りとはならない。

但し、納税猶予が全額打ち切りとならない場合でも、譲渡があった面積に対応する猶予額については納付する必要がある。

なお、これらの例外措置を受けるためには税務署への届出などの手続が必要で、該当する場合は注意が必要だ。

農地の生前一括贈与は世代を超えた農業経営継承のため

農地の贈与税納税猶予制度による生前一括贈与は、相続の際に適用される相続税納税猶予制度と併せ、農業後継者の経済的負担を減らし世代を超えた農業経営を円滑にする制度だ。

但し贈与税納税猶予制度を利用すると、農地を転用・譲渡した場合や、受贈者が農業を続けられない事情が発生すると、本来納めるべき贈与税に加えて利子税を納税しなければならない。これが贈与税納税猶予制度を利用する前によく考えなければならない点だ。

農地の贈与税納税猶予制度を利用した生前一括譲渡は、世代を超えた農業経営継承のために大変有利な制度である。農業経営の継承をお考えの方は、贈与税納税猶予制度の利用を検討してはいかがだろうか。(ZUU online編集部)

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