相続において、土地や不動産の取り扱いは非常に重要である。金額が大きい為、相続税額を左右する事はもちろん、納税資金の手当て等の問題も発生する。相続の対策を立てるにあたって、土地や不動産の対策は非常に重要だ。対策の一つとなるのが、生前贈与である。土地や不動産を生前贈与する事によって、相続する場合と比べ、税負担が減る等のメリットを得られるケースもある。その仕組みや注意点を整理した上で有効活用したい。
相続財産の約半分は土地、不動産
国税庁によると、2016年中に発生した相続に関して、申告された相続財産で最も高い構成比を占めるのは土地であり、その比率は38.0%に上った。また、家屋も5.5%となっており、土地や不動産が相続財産の半分弱を占める。相続対策を行うにあたっては、土地や不動産についての対策が重要と言えよう。
土地や不動産の相続対策を考える際に、生前贈与は一つの重要なキーワードとなる。
土地や不動産を生前贈与するメリット
土地や不動産の生前贈与には、どのようなメリットがあるのだろうか。
最も重要なメリットは相続税の節税効果を得られる点だ。贈与には贈与税が、相続には相続税がかかる事となるが、それぞれの税制や税率が異なる為、ケースによっては、生前贈与により財産にかかる税金を軽減する事が可能となる。節税効果を得るには、贈与税、相続税の仕組みの理解だけで無く、それぞれの基礎控除や特例についても理解しておく必要がある。
また、生前贈与では贈与する相手を贈与者自らが選択出来る点もメリットであろう。相続においては、遺言状等が無い場合、基本的には相続財産を法定相続人で分割する事となる。その際、土地や不動産は分割が難しく、その分割や権利を巡って、相続が“争族”となるケースもある。生前贈与を行う事によって、土地や不動産を自身の望む相手に渡す事ができ、亡くなった後の“争族”を防ぐ事にもつながるのである。
更に、現在の評価額で譲り渡す事が出来るという点も生前贈与の特徴であり、メリットになるケースもある。土地や不動産を贈与や相続で譲り受ける際は、その土地や不動産の評価額に基づいた税金を納める必要がある。土地や不動産が値上がりする事が予測されるケースでは、生前贈与によって、早めに譲り渡した方が、評価額が低くて済むケースもある。また、投資用不動産の場合では、そこから得られる収益は所有者のものとなる為、生前贈与を行う事によって、贈与以降の収益は相続財産では無く、受贈者の資産となる。
土地や不動産を生前贈与する方法とは?
では、土地や不動産の生前贈与とは、どのように行えば良いのだろうか。
土地や不動産の生前贈与といっても、基本的には金銭の贈与と変わらない。贈与者と受贈者の間で、贈与についての同意を行った後、出来る限り贈与契約書を取り交わして置く事が望ましい。
更に、土地や不動産の生前贈与では登記の変更も必要になる。所有権の移動の事実を登記に反映させる事が重要だ。贈与契約書による当事者間の合意の証跡と、登記上の所有権の移動記録を持って、土地や不動産の生前贈与は完了する。
暦年贈与と相続時精算課税制度
贈与税の課税方法は、基本的に2つに分けられる。暦年贈与と相続時清算課税制度である。
まず暦年贈与について、これは一般的な贈与に対する課税である。受贈者は毎年110万円の基礎控除が与えられ、それを超えた場合は金額に応じた税率で課税される。基礎控除からの超過が3000万円超の場合、55%の税率が課せられる。
基礎控除の110万円は生前贈与の非常に大きなメリットであるが、土地や不動産の場合、金額が大きくなるケースも多く、基礎控除の範囲内で完全に贈与出来る事は稀だろう。暦年贈与にて、一括で贈与を行うと、基礎控除を超えた部分に贈与税が発生する事となる。支払うべき贈与税が相続税よりも低い場合には、生前贈与のメリットとも言えるが、贈与税も決して低い税率では無い為、相続税との税率の差を利用した生前贈与では、節税効果も限られたものとなる。
基礎控除の範囲内で持分に分割し、複数年に渡って贈与していく方法も考えられるものの、その手間に加え、後述するコストを加味すれば、こちらも得られるメリットは限定的であるケースが多いだろう。評価額が高く、分割が容易で無い土地や不動産等の財産は、一般的な暦年贈与での生前贈与ではメリットが生まれにくい。
次に、相続時清算課税制度であるが、こちらは受贈者が特定の贈与者から受け取る贈与財産を通算で2500万円まで特別控除する事が出来る制度である。この制度の活用においては、贈与者は贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母、受贈者は贈与を受ける年の1月1日時点で20歳以上の推定相続人である子や孫に限られる。2500万円の特別控除があり、土地や不動産等、評価額の大きな財産の生前贈与に活用されるケースも多い。しかし、この相続時清算課税制度であるが、正しく仕組みを理解していなければ、メリットを得る事が難しい。
相続時精算課税制度に節税効果は無い?
相続時清算課税制度について、まず注意しておきたいのが、この制度では相続税の節税というメリットを得る為の制度では無いという点である。相続時精算課税制度を用いて贈与された資産は、相続時に相続財産に含まれ、他の相続財産と共に相続税が課税される事となる。特別控除を超えない限り贈与税は非課税となるが、相続税は発生する事となり、単純に相続税の節税という効果は生まれない。相続時清算課税制度は相続時まで贈与財産への課税を猶予される制度である。
相続時清算課税制度は相続税の節税の為では無く、他の生前贈与のメリットを得る為に用いるべきである。まず、贈与する相手を贈与者自らが選択出来る点である。相続時に課税はされるものの、一旦は贈与税の負担無しに、受贈者へ土地や不動産を生前贈与する事が可能となる。
また、この制度を活用して、土地や不動産を生前贈与する事によって、贈与時の評価額で相続税の計算が成される事もメリットと成り得る。今後の値上がりが見込まれる土地や不動産や投資用不動産の場合、贈与後の値上がり分や不動産収益は受贈者の資産となり、相続財産に含まれない。
相続時清算課税制度は節税以外のこれらのメリットを得る為に活用したい。また、相続時清算課税制度の利用時には次の2点にも注意したい。
1つ目は相続時清算課税制度を利用した場合、その後の贈与で暦年贈与を選択する事が出来なくなる点である。毎年の110万円の基礎控除枠が使えなくなる為、全体の贈与計画を立てた上で、タイミングを判断したい。
2つ目は相続時精算課税制度で住宅を生前贈与した場合、「小規模宅地等の特例」と呼ばれる制度の活用が不可となる点だ。これは、相続財産となった住宅に同居していた親族がその相続を受ける場合、評価額が80%減額される相続税の特例である。この特例の対象となるケースでは、相続時清算課税制度の活用は見送った方が良い可能性も高い。
土地や不動産の贈与に係る特例を有効利用
土地や不動産の生前贈与において、相続税の節税メリットを得る為には、贈与に係る特例を利用する事も重要である。
代表的な物は、夫婦間で居住用不動産を贈与する場合の配偶者控除である。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産やその取得資金を贈与する場合、基礎控除の110万円とは別に、最高2000万円までの配偶者控除が受けられる制度である。
基礎控除を加えると、1年間で2110万円の贈与が非課税となるが、こちらも利用には注意が必要だ。受贈者は配偶者に限られる為、この方法での贈与を行った場合、二次相続対策を欠かしてはならない。また、相続時の「小規模宅地等の特例」も利用出来なくなる。そもそも、配偶者間の相続における控除額は1億6000万円となっている為、活用による節税メリットを十分に見極める必要があるだろう。
また、子や孫の住宅購入を支援したいと考える方もいるだろう。その場合、現物の贈与では無く、購入資金の贈与を行う方がメリットを得られる可能性が高い。子や孫が直系の父母や祖父母から住宅購入資金としての金銭贈与を受ける場合、条件によって、最大で3000万円まで非課税となる制度がある。購入する住宅や購入時の消費税率によって、非課税額が大きく異なるが、土地や不動産の現物を生前贈与する場合とは異なるメリットが生まれる特例である。尚、現状、2021年末までの時限措置となっている。
登録免許税、不動産取得税…… 贈与税以外のコストに注意
土地や不動産の生前贈与を行う場合、贈与税の計算はもちろん重要であるが、それ以外にかかるコストも計算しておく必要がある。
まずは、土地や不動産の登記に係る登録免許税である。生前贈与に伴う登記の変更には、固定資産評価額の2%が課税される事となる。
また、不動産取得税も課される事となる。税率は固定資産評価額の4%が原則であるが、2018年3月31日迄は、土地と住宅については税率が3%、評価額も1/2となる特例が適用される。
仮に、固定資産評価額3000万円の土地と住宅を2018年4月以降に生前贈与する場合、登録免許税が60万円、不動産取得税が120万円かかる事となる。更に、登記を行うにあたって、司法書士等に手続きを依頼する場合には、そこにかかる費用も見込んでおく必要がある。
土地や不動産を相続する場合には、登録免許税は固定資産評価額の0.4%に、不動産所得税については免除となる規定がある。土地や不動産の生前贈与にあたっては、これらのコストを加味してメリットを見極める必要がある。
土地や不動産の相続時に受けられる恩恵とは?
土地や不動産の相続対策として、生前贈与を検討する場合、相続した場合との税額を比較する事が重要となる。比較の際には、土地や不動産を相続する事により受けられる特例を把握しておく必要があろう。
まずは、「小規模宅地等の特例」である。相続財産となった住宅に同居していた親族がその相続を受ける場合、評価額が80%減額される相続税の特例である。当該物件に居住している等の要件はあるものの、評価額が80%減額される事は、相続資産圧縮において、非常に大きなメリットである。
また、先程も説明したように、相続時には、登録免許税が0.4%に、不動産所得税については免除となる点も重要である。土地や不動産の取得にかかるコストは、相続時の方が低くなるケースが殆どだ。
更に、相続税の基礎控除も改めて確認しておきたい。相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」となっている。そもそも、相続財産がこの範囲に収まる場合には、生前贈与による対策を行う必要が無いケースも多い。また、配偶者の控除額は1億6000万円にも上る。これらの数字を正確に把握した上で、生前贈与による対策の必要性を検討したい。
トータルコストで判断を
相続対策を考えるにあたり、金額の大きな土地や不動産の取り扱いは非常に重要となろう。生前贈与による対策も選択肢となるが、その活用にあたっては、メリットとコストを天秤にかけ、トータルコストを正確に判断する必要がある。
贈与と相続では、それぞれ税率が異なる上に特例も多く、多くの事を考慮する必要がある。最適解は個々人の状況によって異なる為、専門家である税理士等とも相談しながら、ベストな方法を選択するようにしたい。(ZUU online編集部)