現役をリタイアした後には、これまで住んでいた地域を離れ、地方への移住を検討されている方もいるのではないでしょうか。移住候補地を絞るためには交通の便、町の風景、環境、自治体のサポートなどの要素が挙げられます。もし迷ってしまった際には、まず王道を押さえると良いでしょう。

移住先として人気を集めている6つの町を知り、ベースとなる判断材料にしてみてはいかがでしょうか。

住みたい田舎ランキング1位は山口県宇部市

(画像= tomoco_sozai/stock.adobe.com)

大きな町ランキング

・1位 山口県宇部市

山口県宇部市は、工業が盛んでありながら豊かな自然に囲まれており、交通の便も良い町です。山口県南西部の海沿いに位置し、在来線はJR東西線と宇部線が東西を走り、空路では山口宇部空港、高速道路は山陽自動車道が市の中央部を通ります。市街地から山口市までも自動車で1時間弱という好アクセスです。

石炭産業で古くから栄えた町として知られ、宇部テクノパーク、宇部臨空頭脳パークを代表とする工業地帯・団地があり、企業進出を積極的に受け入れています。製造の中心は半導体、化学工業製品や電子機器で、近年では発電所、メガソーラーなど電力産業も参入しています。

農業面では、米やお茶づくりが中心となっています。近郊農業が盛んで、種々の農産物の製造が行われており直売所なども存在します。お茶を使った特産品などもあり、もちもちとした歯ごたえが特徴で、茹でても伸びにくく和洋どんな料理にも応用しやすい「小野茶麺」や、「小野茶かりんとう」などが代表的です。

お茶を中心とした畑の周りには、荒滝山を中心とする大自然が取り囲みます。荒滝山にある巨大な岩盤でできた「荒滝の滝」は、夏でも冷たい水が落ち有名な休憩所となっています。市の史跡である霜降城跡周辺には霜降山があり、加工処理を必要としない天然水の産地として重宝されています。またこれらの山々の間を縫うように登山道、またウォーキングルートが設置されており、大自然を直に触れながらその息吹を感じることができます。

このように農業・工業・大自然が一体となった宇部市は移住先として人気が高く、移住者に向けた自治体のサポートも大きな後押しとなっています。地域情報や就業情報の提供のほか、市に登録された空き家を移住者に対して斡旋したり(空き家バンク)、移住体験として週に1万円強という価格で家具の揃った家屋を貸与したりするなどのサービスがあります。

・2位 鳥取県鳥取市

2017年「住みたい田舎ランキング」総合1位に輝いた鳥取市は、山や海の自然に取り囲まれており美しい景観、きれいな水やきれいな空気、また新鮮で質の高い海産物、農産物などが魅力です。

海産物では、境港を中心とした漁港で獲れる新鮮な魚介類、そして高級品として知られる松葉ガニがあります。山の幸としてスイカ、らっきょう、全国的に有名な20世紀梨を中心とした果物が挙げられ、肉質の高い鳥取牛なども県内外の人々から愛されています。

全国的に有名なミネラルウォーターの産地として知られる大山を中心とした山間部では酪農及び畜産が盛んで、大山や白バラなどによる乳業、また前述の鳥取牛の出荷が主な内容です。また「星取県」という別名を持つほどの天体観測地で、環境省「全国星空継続観測」において県庁所在地として唯一ランクインしています。郊外から山間部にかけての星空は圧巻で、天の川や流れ星を観察することができます。

暮らしとして特筆すべきは女性の労働環境で、就業率は全国4位、育児をしている女性の有業率も全国4位にランクインしています。また都市部において近年問題となっている待機児童の数が鳥取市ではゼロとなっています。

鳥取市は移住者に対するサービスも手厚く、前述の空き家バンクや暮らし体験、お試し住宅制度のほか、住宅支援制度や就農林支援が整っています。移住を検討している段階から一定の要件を満たせば、来県者に対し空路国内便・交通費の補助や、ホテル・レストラン・レンタカー・レジャー施設など協賛企業からの割引が適用されたり、移住前後では協賛引越し業者・ホームセンターなどの割引サービスを受けることができます。

鳥取市のほか、大阪・東京にも相談室が設けられており幅広いサポートを行なっています。移住後も、移住者のためのワークショップや懇親会などが多く開催され、移住後の不安を解消できるような環境が整っています。

・3位 静岡県静岡市

静岡県静岡市は東京・名古屋という大都市の中間部に位置し、新幹線を使えば1時間ほどで両都市にアクセスできる政令指定都市です。人口70万人を擁しながら郊外には海や山などの自然が広がり、移住先として注目を集めています。大型商業施設などがあり基本的な生活に不自由がないことも特徴です。

山間部はお茶の産地として名高く、その他にもビワやイチゴ、ミカンやワサビなど数多くの農産物が挙げられます。海沿いではサクラエビを中心とした漁業が盛んで、新鮮な魚介類を味わえるうえ、レジャー施設が多く存在しマリンスポーツなども盛んです。

移住サービスも充実しており、空き家バンクの他、空き家バンクで得た家屋の補修工事費用一部負担、また高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)制度が存在します。
     
この制度は、室内の段差が無い(バリアフリー)、手摺やエレベーターが設けられているなど高齢者にやさしい認定賃貸物件に入居する場合に、静岡市から所得に応じて一部家賃補助が受けられる制度です。一定の要件を満たせば単身者、家族ともに適用されます。申請には住民票・課税証明書・自立申立書の3点が必要になります。

小さな町ランキング

・1位 大分県豊後高田市

豊後(ぶんご)高田市は大分県北部の国東(くにさき)半島に位置し、大分市から自動車で約1時間の場所にあります。「昭和の町」としてPRされており、飲食店などを中心に昔ながらの町風景を残しています。

江戸時代から海上運輸の要所として活況を見せ、その後は昭和初期まで運搬船の停泊所として多くの人が集まりました。当時の様子を残そうと、昭和の町展示館、駄菓子屋博物館などの昭和レトロを題材にした施設が数多く存在し、家族連れや高齢者へ向けた観光スポットとなっています。老後の移住地として楽しめる要素の詰まった町といえるでしょう。

特産品は豊後高田そばで、「豊後高田そば道場」ではそば打ちを体験できます。また温泉地としても人気があり、「くにさき六郷温泉」を中心に多くの温泉施設・温泉旅館が軒を連ねます。

豊後高田で特筆すべきは文化財で、京都・奈良に次ぐ1000年の仏国と呼ばれています。大分県の国宝の1つである富貴寺大堂(阿弥陀寺建築)を筆頭に、60以上の寺が集まる一大寺院群があり、六郷満山文化が開花した地です。西叡山を中心とした大自然に点在する貴重な寺社仏閣・文化財に触れることができ、また夷耶馬・中山仙境などはトレイルの中心地として、またパワースポット、撮影などアートスポットとしても機能しています。

移住先として公式サイト「IJU」を拠点に、動画配信や制度の紹介など様々なコンテンツが提供されています。奨励金・助成金など多くの支援サービスが整っており、その内容は子育て世代から起業者向けまで様々です。
空き家バンクでは菜園付き物件の斡旋があり、また新規農業従事者に向けて無料研修制度(アグリチャレンジスクール)があるのも特徴です。申し込みを行い、1週間以内の見極め宿泊研修の後、経営開始までの1~2年に亘り講習・実習を受けることができます。経営理論、流通システム、税制、利用できる支援制度や補助事業、簿記・労務管理など多岐にわたる内容の講義があり、市認定の先進農家による実習、指定品目での模擬営農(経費は受講生負担)まで支援、農業を目的とした移住者に対して手厚いサポート体制が整っています。

・2位 大分県臼杵市

臼杵(うすき)市は大分県の東沿岸に位置する町で、臼杵湾を取り囲むように町並みと緑の山々が広がっています。近年では城下町の町並みが人気を集め始め、二王座歴史の道などを中心に文化の町として知られています。

国宝の臼杵石像は平安から鎌倉時代にかけて彫刻されたといわれます。また二王座の道は阿蘇山の火山灰が集まって形成された凝灰岩でできた丘を削り取って道を通しています。「切り通し」と呼ばれるこの景観は、平成5年の「国の都市景観100選」に選ばれました。武家屋敷や寺院の多く集まる土地でもあり、歴史を感じさせる貴重な文化財が多数あります。
町おこしを推進する臼杵市では、空き家バンクの他、移住者支援事業に力を入れています。移住に際し、不動産会社などの仲介手数料負担や20万円以下の引越し費用補助(県外移住者)、移住奨励金5万円、その他Uターン者向けに50万円の実家改修費用補助などが用意されています。
空き家バンクを利用した場合のサポートは特に充実しており、5万円の仲介手数料補助や、一定の条件を満たし市内事業者に依頼すれば100万円以下の改修工事費用補助、または原材料50万円、事業者依頼25万円以下のリフォーム補助を受けることができます。

・3位 島根県飯南町

飯南(いいなん)町は、中国山地脊梁部・標高約450メートルの高原地帯に位置します。琴引山や大万木山など1,000メートル前後の山々が周囲を取り囲み、年間平均気温は松江市より3.5度低い12度ほどで、冬の寒さが厳しく夏は過ごしやすい気候です。

見所は自然の他にも、頓原ラムネ銀泉を中心とする温泉宿があります。琴引山や大万木山などでのトレッキングを終えた後に疲れを癒すことができます。また4月~10月にはやまめ釣りのために人々で賑わい、釣ったやまめをその場で塩焼きで食べるなど山間部ならではの楽しみがあります。

市街地へのアクセスに車で広島まで約2時間、松江市まで約1時間半という立地で、「島根の玄関口」と呼ばれます。中国自動車道までは国道54号線を使い約50分、公共交通機関では町営バス及びJR赤名駅を往来する路線・高速バスを利用します。

人口は5,000人弱で、約半数が農業に従事しています。土地の割合として約90%を山林や原野が占め、7%を田や畑が覆うという大自然の中で、四季折々の風景・花々を眺めながら生活できます。特産品は奥出雲和牛や、農薬と化学肥料を抑えたエコロジー米、その他季節の温度差を生かした果物、野菜の栽培が盛んで、町内の産直市で購入できます。

医療体制は救急指定病院を含め9つの病院・診療所があり、出雲市にある島根県立中央病院までは自動車で約1時間の距離です。IT事情としてはケーブルテレビのほか、幹線道路を中心にLTE回線が渡され通信環境も概ね良好です。

移住・定住に力を入れる町で、町の定住支援センターでは移住者のための交流会が開かれるなど、来訪者にとって住み良い町となるようサービスが展開されています。空き家バンクの他、6泊6,000円という安さで最大1ヶ月間、飯南生活を体験できる「お試し暮らし住宅」制度、また年間契約で農地に面した別荘を借りられるクラインガルテンを利用すれば、田舎暮らしに向いているかどうか年間40万円~50万円前後という安価で実際の生活を通して検討することができます。

老後に地方移住する4つのメリット

居住費が安い

地方に住むメリットとして初めに挙がるのが、やはり居住費の安さでしょう。都会に比べ人口が集中しない地方ではそれだけ土地の価格が安くなるため、マンションや土地の購入、賃貸物件のいずれも都心と比較するとリーズナブルに感じるでしょう。

また購入した土地を農地として運用すれば自給自足に繋がるほか、地方移住ならではの楽しみもあります。

ストレスが軽減される

地方への移住を検討する理由の1つに、都会の喧騒から離れたいというのがあると思います。建物などが密集しておらず、豊かな自然に囲まれた地方で生活することが精神状態の安定につながることが期待できます。自然と人の精神状態は密接に関係しており、自然を感じることでストレスホルモンが減少するといった結果が報告されている研究もあります。

コミュニティの繋がりが強い

地方では人と人との繋がりが強く、コミュニティを大切にする傾向にあります。それも仕事や娯楽ではなく生活レベルでのコミュニティのため、ご近所付き合いなどを深めることで人の輪が広がる可能性を多く残しています。

農地を持てば畑の作物の交換をしたり、広い庭や居間を持てば、お茶会やパーティなどを自分たちの要領で行ったりすることも可能でしょう。

移住の補助金等がある

人が集まりにくい地方では、移住・定住推進のため補助金制度が用意されている場合が多く見受けられます。金額や条件は様々ですが、鳥取市のように移住を検討している段階から交通費補助や市内事業者によるサービスを受けることができたり、移住後の住宅に関して多額の補助金を出していたりする自治体もあります。

このような補助金制度・支援事業を活用すれば、予想以上にリーズナブルかつスムーズに移住計画を進められるかもしれません。ある程度候補地が絞れてきたら、制度の調査に乗り出し判断材料として使うのも良いでしょう。

老後に地方移住する3つのデメリット

公共交通機関や病院などが近くにないことがある

建物や人口の集中していない地方では、それだけ都会に比べ交通機関などで不自由さを感じることが多いといえます。

東京や大阪をはじめとする大都市では公共交通機関が充実しており、電車・地下鉄・バスなどを使用すればさまざまな場所に行くことができます。しかし地方によっては交通アクセスが発達していないことから、自家用車がなければ移動が難しい場合も少なくありません。

例えば、バスの運行状況1つとっても、1日の運行本数が少ないことなども不便さを感じるかもしれません。こういった環境でも過度にストレスを感じることなく生活できるのか、自身が順応できるか、事前によく検討する必要があります。

地域のコミュニティが狭い

コミュニティの繋がりが強いことは地方のメリットになり得ますが、逆にこのような環境が合わない場合はリスクにもなります。

人の繋がりが希薄になりがちな都会に比べ、地方ではコミュニティを大切にしているところもあります。その地域にうまく馴染めなければ、移住先でこれといった人間関係を誰とも築けないまま長い期間を過ごすことになりかねません。

車の維持費用など思わぬ費用が発生することがある

都会と異なる静かな住環境を安く手に入れることができても、それ以外でコストがかかってしまえば移住の意味が薄れてしまうかもしれません。

特に気をつけたいのは自動車の維持費用です。交通網の希薄な地方ではマイカーが無ければ移動できない環境が多く、頻繁に自動車に乗ればそれだけ維持費用がかかります。

ガソリン、タイヤなどの消耗品系統やその他メンテナンスの費用や、もし雪の多い地域であればスタットレスなどのオプション品が必要になります。勾配の多い地域は車の馬力や燃費がネックとなり、舗装道路が少なければ車が傷むリスクがある上、動かなくなった際の修理・レッカー費用もかかることでしょう。定期的な車検費用、居住期間によっては買い替え費用も発生します。

このような潜在的リスクをできる限り洗い出し、地方に住むことでそれらを上回るメリットがあるのかどうか、一度冷静になって計算してみましょう。

老後の移住で後悔しないために今からできる3つのこと

移住する前に実際に訪れる

住環境を変えるとき、自分の理想や事前の計算に組み込まれることのなかった潜在リスクはどうしても付きまとうものです。

インターネットが普及した今、何でもすぐに手に取り理解できるような気がしますが、自分の認識と実際の状況にはズレが生じやすいものです。実際に住んでみると、事前に調べたものとは異なる環境であることが判明したり、メリットだと思っていたことが実生活ではイメージに反してコストとなったりする可能性もあります。

このような状況に陥らないよう、できる限り自分の足で現地を訪れ、本当に思った通りの生活ができるかどうか判断しましょう。何か問題があれば、その解消方法や代替案が無いかなども検討しておきましょう。

自治体の移住相談を行う

移住したい地域が決まっていれば、その地域の役場へ1度相談してみましょう。役場では事前相談を受け付けており、自治体で利用できる制度や移住に関する情報を教えてもらえたり、移住体験イベントなどに参加できたりする可能性もあります。

移住のための資金を確保しておく

老後の移住生活に関して具体的なイメージがあり、それに沿う環境が見つかっても、資金が無ければ計画は頓挫します。安易な計画で移住して資金が足りなくなればせっかくの老後生活もままならなくなります。

移住のためにどのくらいの資金が用意できるのかを算出し、何か起きてもリスクを回避できるだけの余裕を持っておきましょう。そうすることで、より確実に、安心して老後生活を送ることができるでしょう。

老後の移住には事前の調査を

老後の移住は焦ることなく、できる限り調査、し、確実な計画を練りましょう。

いきなり移住するのが心配という方であれば、住居購入の前に賃貸などで一度住んでみるという手があります。

また最近では地域おこしのため、移住関連イベントの開催があったり、移住メディアが発達していたりします。後者の代表的なものとしては、移住・交流推進機構が運営する「ニッポン移住・交流ナビ(JOIN)」やふるさと回帰支援センターのサイト、総務省が運営する「全国移住ナビ」などがあります。

インターネットの時代、これらメディアも活用しながら、情報調達と現地調査のハイブリット方式で移住への道を検討してみてください。

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