海外移住とは、短期及び長期の滞在と違い、生活の拠点を完全に海外に移して生活することを指します。通常の観光ビザと違いリタイアメントビザ(退職者ビザ)での入国を行なったり、現地で住民登録・永住権取得を行ったりします。

人気の秘密

金融
(画像=zhu difeng/stock.adobe.com)

海外で暮らしたいという人の数は増加傾向にあります。
その大きな理由の1つが、インターネットの普及です。国内にいながらにして海外の情報を容易に得られるため、現地の経済状況、医療、観光スポット、物価や地価などの基本情報から、実際に海外で暮らしている人のレポート・体験談まで参考にでき具体的なイメージがしやすくなったことが挙げられます。

また、気候も大きな理由の1つです。日本の梅雨や蒸し暑い夏、冬の厳しい寒さを避けるため海外に移る人は少なくありません。

海外移住3つのメリット

・生活費が安い
ハワイのような世界的観光地を除き、海外移住先として人気のある国の多くは日本より生活費がかかりません。特にアジア圏では日本の3分の1ほどの物価で住居や食料品が手に入ります。

・気候がよく住みやすい
移住先として人気の国に共通する要素として「温暖な気候」が挙げられます。1年を通して気温の変化が少なく、また日本の梅雨のようなジメジメとした時期がなく乾燥した地域であることが好まれているようです。

・これまでにない文化圏で新しい生活を体験できる
移住するということは、生活や人間関係が一旦ゼロになることを意味します。それに不安を覚えることもあると思いますが、仕事に追われていたこれまでの生活とは一変し、新しい人生を歩みだすことや、そこから得られる刺激は、何ものにも代えがたいものかもしれません。

海外移住3つのデメリット

食べ物が合わない

食べ物は、生きていく上で重要なものの1つです。その国の伝統的な料理や家庭料理が口に合うかは移住先でのストレスを左右するといえるでしょう。食については嗜好が多くを占め、努力や注意で解決できるものでもないため、ある意味候補地を決めるうえでの最優先事項となるかもしれません。

移住する前に一度、短期旅行などで事前に実際に体験するほか、日本の食品を取り扱うスーパーの有無なども調べておきましょう。

治安が良くない

日本は世界的に見て最も治安の良い国の1つとされており、その安全性はイギリスの経済誌「エコノミスト」による世界都市安全性ランキング2019年版で1位(東京)を獲得するほどです。海外の治安が悪いというよりも、「日本の治安が良すぎる」と考えた方が良いかもしれません。

今年2月に邦人ユーチューバーが、ブエノスアイレス(アルゼンチン)のスラムに撮影目的で入り込み襲われるという事件がありましたが、このような故意の侵入だけでなく「うっかり」入ってしまう危険性があるのがスラムです。

世界のどの街にもこういった危険な区域は存在するものです。現地の人々から聞き取りを行うなど事前の調査をするほか、夜中に出歩かない、常に周囲の様子に気を配るなどは欠かせません。

また下記ランキングで紹介した国を含め、スリや強盗などの事件は頻繁に起きます。こちらに関しても、ひったくり予防をする、必要以上の金品を持ち歩かない、事前に犯罪率の高い地域を調べておくなど基礎的な対策が必要です。

言葉が通じないことがストレスに

短期の滞在であれば、片言の英語や身振り手振りなどで何とか渡り歩けるかもしれません。しかし移住となれば現地の言葉が理解できないことは大きなストレスになります。近所の人々と人間関係を築くにも言葉が通じなければ深い繋がりは生まれにくいものです。

その国の言葉を理解することはコミュニティに溶け込むためにも欠かせません。
移住先の言語をどれだけ事前予習しても、移住においてはじめの段階では上手く聞き取れない、方言や造語、発音のクセに馴染めないなど壁に突き当たるものです。ミスを恐れず現地の人々と積極的にコミュニケーションをとりましょう。

注意すべき点

・ビザの取得
海外移住に必要な手続きとしては、リタイアメントビザ(退職者ビザ)の取得や現地での永住権の取得が挙げられます。一般的には日本にある各国大使館に申請、受理されれば最終手続きに進むこととなります。リタイアメントビザの取得では、現地の銀行で開設した口座に一定金額の預託金を納めておくことなどが加入条件です。

その他にも移住先ごとに条件が設定されているため、必ず確認しておきましょう。

・医療保険
入国時はクレジットカードに付帯している海外医療保険を利用する手段もありますが、本格的な移住では現地の医療保険へ加入しておきたいところです。国により条件が様々ですので調査しておく必要があり、また可能であれば日本国内にいるうちに英語の健康診断書を用意しておくと良いでしょう。

海外の公的医療保険への加入は、日本の国民健康保険と違い所得や年齢によってハードルが設けられていることがあるため注意が必要です。例として、アメリカは低所得者であることや、65歳以上など加入対象者がかなり限定的です。このような国に移住した場合、多くは民間の医療保険に加入することになります。

ちなみに海外移住した場合の日本の健康保険については、国内での源泉収入が無い限り保険料の支払い義務はありません。

・年金
海外在住の場合、日本の国民年金については強制加入被保険者対象外となりますが、国籍が日本である場合には任意加入が可能です。

注意点としては、移住先によっては現地の年金制度に加入する必要があることです。代表例として、アメリカやドイツは日本と社会保障に関する協定を結んでいるため、日本を出て現地に移住したとしても強制加入の対象となります。

・宗教上の違い
世界には多様な宗教が存在しますが、ぞれぞれの宗教または宗派ごとのルール(戒律)が日本人の感覚と大きく異なっている場合があります。

例えばマレーシアは多民族国家ですが、国民の半数以上がイスラム教徒です。街中のいたる所にイスラム教徒のための設備やしきたりがあることを事前に知っておく必要があります。

モスクを見学する際にはTシャツなど肌の露出が多い服装は避けるのがマナーで、イスラム教徒と一緒に食事する際には豚肉やアルコールなどが含まれていないか気をつけます。また現地のスーパーやレストランには「ハラル(イスラム教徒が食べられる)」「ノンハラル(食べられない)」という2種のマークがあり、スーパーで買い物をする際にはノンハラル専用のレジで会計しなければならない場合があります。

このように移住先の国ごとに注意すべき点がありますので、現地の人々の文化を理解・尊重して生活するようにしましょう。

海外移住先人気ランキング

海外に拠点を置く場合、国選びの主な基準としては生活費、文化・気候など馴染みやすい土地であるかどうかが挙げられます。あくまで楽しく余暇を過ごすことが前提であるため、刺激も大切ながら、これまでとあまりに環境が違い過ぎると本来の目的から外れてしまう恐れがあります。

どの国にすれば良いかすぐに決まらない、分からないという方はまず、移住先として多くの人気を得ている国の情報から参照してみましょう。

1位:マレーシア

・気候
熱帯気候に属するマレーシアは常夏の国ですが、朝晩は涼しいことが特徴です。ほとんどの地域で最高気温は33度前後、最低気温は25度前後で、1年を通してこの数字が大きく変わることはありません。キャメロンハイランドなどマレー半島東海岸一部地域については更に涼しく、最高気温は23度前後、最高気温は16度ほどとなります。

乾季(3月~9月)は、梅雨などと違って乾燥しており過ごしやすく、雨季(10月~2月)はスコールがありますが1日降り続くことはありません。

・名所など
海沿いのビーチ、高原のリゾート地、希少な生物が数多く生息する熱帯雨林、古代の遺跡、地域によりそれぞれ明確な特徴があります。世界遺産としてはマラッカなどかつての貿易中継地点、旧石器時代の品が眠るレンゴン・考古遺跡、その自然美と重要な生態系から高く評価されるグヌン・ムル国立公園などが挙げられます。

2位:タイ

1位のマレーシアと同じく親日国として知られます。国民の大半が仏教徒で、また米食であるという点から、日本と非常に近しい国と言われています。日本人居住者数は約2万人、短期滞在を含めると約7~8万人にのぼり、現地の日本人学校に通う生徒は1,500人以上で、東南アジアトップクラスの日本人コミュニティを擁します。

・生活費が安い
タイで必要となる生活費は大変安いことで知られています。タクシーの初乗り料金が35バーツ(約105円)、家賃も日本と比べリーズナブルで、外食産業が盛んなため屋台やレストランの料金も安価です。和食レストランの定食も180バーツ程度(約540円)で食べられます。

・トップクラスの医療技術

タイの医療水準は世界的に見ても高いことで知られており、サービスも充実しています。日本人に対しても大変親切な病院が多く、日本語の話せるスタッフがいるほか、日本で医療技術を学んだ医師がいることも珍しくありません。

マスメディアも日本人向けのサービスを多く展開しており、バンコク週報や時事週報など主要紙は日本語で情報を得ることができます。また日経、読売、朝日などの日本国内主要紙の宅配サービスがある上、NHKを衛星受信できる、民放の録画を30~40バーツほどでレンタルできるなど、日本人向けの情報網が整備されています。

3位:ハワイ

・気候
熱帯に属しており常夏の地域ですが、空気が乾燥しているため多く汗をかく程ではありません。気温は1年を通して安定しており基本的に20度代、暑くても30度程度です。ホノルル・ワイキキなどは特に天候が安定しており、雨季となる11月~4月でも日本と比べ格段に降雨量が少なく、降っても朝夕のにわか雨程度で1日中降ることはほとんどありません。

・生活水準が高い
交通網が発達しており市街地での移動に不自由はなく、また医療レベルも世界的に見て高い上、日本人スタッフが駐在していることも多いようです。治安面でも2008年に「全米で最も安全な都市」として選ばれるほどです。

人口は2割が日系人、3分の2がアジア人という割合のため大変親日的で、人種差別が少ないことでも知られています。

4位:フィリピン

本ランキングの中で最も日本から距離の近い国であり、フライトは約3時間半で時差は1時間。日本から海外への移住においてこれは大変なアドバンテージで、定期的な帰国や、時差が少ないため日本の友人などに気兼ねなく連絡できるなどのメリットがあります。

もちろん人気の理由は近さだけではなく、以下のような点から移住先として長年重宝されています。

・気候
年間を通じて気温が安定しており暖かく、平均気温は26度~27度前後と大変過ごしやすい状態です。

地域により主に降雨量に変動があります。観光地として人気のセブ島近辺やミンダナオ島は年間を通じて雨が少なく、台風が発生しても直撃することはほとんどありません。一方パナイ島では明確な雨季(6月~10月)と乾季(12月~4月)が存在し、前者での1ヶ月の降雨量は250ミリ~350ミリ、後者では20ミリ~60ミリとかなり幅があります。

・リーズナブル
フィリピンの物価は日本と比べ3分の1~5分の1程度と安く、ショッピングはもちろん美容・エステ、ゴルフなどのレジャーもリーズナブルです。また公用語が英語であり、語学学校の費用相場も比較的安価であるため移住後に語学を磨く機会も得やすい環境です。

・SRRV
フィリピンに移住する際便利な手段として、「特別居住退職者ビザ(SRRV)」の取得が挙げられます。35歳以上であれば申請が可能で、永住権も得ることができます。受理されればIDカードが発行され、自由に出入国ができるようになる便利なシステムです。

5位:オーストラリア

海外移住候補地として常に名の挙がる国であり、温暖な気候と安定した経済状況、医療レベルの高さ、治安の良さなど、海外移住者が希望する条件が一通り揃っています。日本と時差が少なく0時間~4時間ほどです。

・気候
オーストラリアは国土が広く、地域により多様な特性を持っています。大きく分けると北部沿岸は熱帯性気候で雨季と乾季が存在し、内陸部は乾燥した砂漠気候、中南部には日本よりややソフトな四季が存在します(南半球のため四季は日本と逆転しています)。

ケアンズを代表とする熱帯部では5月~11月の乾季の降水量が月間100ミリ以下、12月~3月の雨季には打って変わって月間400ミリ以上もの降雨量が観測されます。有名なエアーズロックのある内陸部は昼夜の温度差が激しく、中南部は年間を通じて暖かいですが6月~7月に雨が降った際には少し肌寒く感じられます。

・親日国
オーストラリアは親日国として知られており、第2言語として日本語を選択する人が最も多いようです。貿易や国交でも良好な関係を築いています。

ロングステイという選択肢も

ロングステイとは、自身が拠点としている場所とは別の場所において「生活」を目的とし滞在することです。

長期に渡る滞在

短期での滞在や観光とは異なり、現地に居住施設を設け、その国の文化に入り込んで長きに渡って交流活動を行うことが目的となります。現地で生活する資金の出所については、年金や配当、預金(利子)や賃貸収入などが主な例となります。

海外ロングステイ

一般社団法人ロングステイ財団による定義は以下の通りです。

「生活の源泉を日本に置きながら海外の1ヶ所に比較的長く滞在し(2週間以上)、その国の文化や生活に触れ、国際親善に寄与する海外滞在型余暇を総称したものである。」

これまで日本で生活をしていたシニア層が退職後、国内に拠点を残したまま生活費の安い別の国にもう一つの所帯を持ち、老後を楽しみ始めたことから注目を集めはじめた生活スタイルです。「観光経済新聞」によると海外ロングステイ人口は約160万人で、これは海外渡航者の約9%にあたる数字です。

マレーシアへの移住の実際をシミュレーション

MM2H

ランキング1位のマレーシアへ移住する場合、現地の配偶者がいる場合や投資家でない限り永住権の取得は厳しいため、「MM2H」と呼ばれるビザを取得します。MM2Hとはロングステイを目的として移ってきた外国人が一定の経済的基準をクリアすると得られるビザです。ロングステイビザは本来退職者が得るため年齢制限が設けられる場合が多いものの、MM2Hでは年齢制限が無いことが大きな特徴です。

その他の特徴は以下の通りです。

(1)マレーシアと国交のある国の国民なら誰でも申請できます。
(2)有効期間は最長10年ですが、それ以降も移民局から認められれば更新可能です。
(3)永住権は得られません。
(4)申請者は配偶者と21歳未満の未婚の子ども、60歳以上の両親を同行できます。
(5)マレーシア人と結婚した外国人も申請が可能です。
-出典:マレーシア政府観光局オフィシャルサイト

ポイントとなるのは(2)です。マレーシアで生活し続けるにはこの更新を続けていくこととなるので、移住とタイトルを打っていますが実質はロングステイを続けるという形になります。

申請者の年齢が50歳未満と50歳以上とでは基準が異なり、後者であれば大きく条件が緩和されます。以下、条件を見てみましょう。レートは1リンギット=26円換算で試算しています。

・50歳以下
(1)最低50万リンギット(約1,300万円)の財産証明
(2)月1万リンギット(約26万円)の収入証明
※仮承認後、30万リンギット(約780万円)をマレーシアの金融機関に定期預金します。
※2年目以降は医療費、家の購入、同行した子どもの教育費目的に15万リンギット(約390万円)の引き出しが可能となります。

・50歳以上
(1)最低35万リンギット(約910万円)の財産証明
(2)月1万リンギット(約26万円)の収入証明
※仮承認後、15万リンギット(約390万円)をマレーシアの金融機関に定期預金します。
※2年目以降は医療費、家の購入、同行した子どもの教育費目的に5万リンギット(約130万円)の引き出しが可能となります。

財産証明のため銀行の残高証明書や証券会社の評価額証明書類などが、申請時よりさかのぼって過去3ヶ月分必要となります。また収入証明には、給与明細や各月の収入が記載された銀行明細などを使用します。年金収入の場合は基礎年金、厚生年金のほか、企業年金も含まれます。

実際の審査フローは以下の通りです。

(1)必要書類をMM2Hセンターへオンラインまたは郵送提出します。
(2)同センター移民局より仮承認後6ヶ月以内にマレーシアに入国、現地での健康診断や銀行口座開設、医療保険加入などの手続きを行います。
(3)同センター移民局(出張所)で銀行の定期預金証明書と口座開示承諾書、医療保険加入証明、健康診断証書を提出します。

申請の受理から仮承認までの期間は約90営業日とされていますが、全体の申請数の状況によっては大きく時間を取られるため余裕を持って、また「MM2Hオンライン」で進捗状況をこまめにチェックすると良いでしょう。

費用のシミュレーション(10年分)

主な費用としてはビザ取得費用、ビザ発行条件となる凍結資産、現地での生活費です。レートは1リンギット=26円、凍結資産は現地で使用しないものとします。

(1)ビザ
「MM2H」を50歳以上で取得するとします。以下のような費用がかかり、ビザ取得費用は「約6万2,400円」となりそうです。

・ビザ代金1年90リンギット×10年分=900リンギット(約2万3,400円)
・JPビザ代金500リンギット(約1万3,000円)
・セキュリティボンド代金1,000リンギット(約2万6,000円)

また、MM2H取得のための凍結資産は50歳以上の場合、最低35万リンギット(約910万円)です。(これに加え、月の収入が最低1万リンギット=約26万円です。)

(2)移住費用
・航空券(燃油サーチャージ等含む):3万円前後
・現地での生活費:約2,102万円

(3)月の生活費内訳

  • 家賃(2LDKコンドミニアム):月額約3850リンギット(約10万円)
  • 水道・光熱費:月額約320リンギット(約8,300円)
  • 通信費:(マレーシア最大手プロバイダ「TM」)80リンギット(約2,000円)
  • 食費:約1800リンギット(約4万6,800円)
  • 交通費:約230リンギット(約6,000円)※モノレール・バス乗車賃相場1回約5リンギット
  • 保険料:(例として国際医療保険「ウィリアム・ラッセル」250 USD Excess【年間保障額のうち250米ドルまでは自費】加入の場合)約1万米ドル(110万円※1米ドル=110円で計算)

ビザ取得費用から生活費までを合わせると、およそ3,000万円以上あれば10年生活できると考えて良いでしょう。ただし年金など合わせて月約26万円以上の継続的収入がないと貯金を切り崩していくことになるという点を留意しておきましょう。

海外の移住は事前の情報収集をしっかり行おう

海外移住に憧れがあるとしても、安易な計画のまま実行すると、思わぬ出費や予想外の状況から後悔してしまう可能性があります。

移住を検討するのであれば、インターネットや知人、移住先当局からの情報などを使って入念に下調べをしましょう。また早々に移住を決定せず、現地を何度か訪れ、文化や環境がどのようなものであるか体験することも大切です。焦らず、できる限りリスクやギャップに戸惑うことがないよう時間をかけて計画しましょう。

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