本記事は、早嶋聡史氏の著書『コンサルの思考技術』(総合法令出版)から一部を抜粋・編集しています。

原因
(画像=Parradee / stock.adobe.com)

個人でも組織でも不安の原因はたった1つ

個人でも組織でも、不安の原因はたった1つです。それは、将来のことを考えてイメージしていないことです。私の仕事の多くは経営者との対話です。対話をして経営者が考えている将来像を明らかにします。そして、経営者が持つイメージを引き出して言葉にします。言葉にできたら、今度はそれを実現するために「すること」と「しないこと」を整理するのです。このステップを踏むことで、「漠然とした不安」を「解決すべき課題」にすることができます。

あるクライアントから戦略コンサルの依頼がありました。その時のクライアントの表面上の問題点は、「成長戦略の1つとして、ある商材の販路拡大を考えたい」でした。

本質をあぶり出すために、私から質問を投げながら何が問題かを整理していきます。「なぜ、そのビジネスを始めたのか?」「直近5年くらいで今の事業をどうしたいのか?」「その後の事業のイメージはあるか?」

ざっくばらんと話をしながらブレストしていくうちに、問題がみえてきました。事業は順調で特にテコ入れをする必要はありませんでした。しかし「将来への不安から何かしなければならない」と焦っていたのです。

焦りから思いつきで「成長戦略」というキーワードが頭に浮かび、行動しなければならない思いが先行したのです。じっくり対話をしながら話を整理していくうちに、5年前後で今の事業を息子さんに承継したいという思いも強いことが明らかになりました。

自分が父親から事業を受け継いだときのように、息子に苦労はさせたくない。そこで「自分の手腕が及ぶうちに、今よりも規模を大きくして安定させておこう」と考えたのでした。ただその思いばかりが先行し、息子さんと今の事業の話や将来のことを全く話されていなかったのです。

私は社長と息子さんと何度かミーティングをしました。将来のこと、事業のこと、息子さんに社長になって事業を引き継いでほしいこと。そして息子さん自身がどう考えているのかなどを話し合いました。

結局、販路拡大という当初の悩みは表面的なもので、実際の本質は面と向かって社長が息子さんに話をしていないことが原因でした。

『不思議の国のアリス』の一節、アリスと木の上にいるチェシャ猫の会話です。


アリス:すみませんが、私はどちらに行ったらよいか教えていただけませんか。
チェシャ猫:そりゃ、おまえがどこへ行きたいと思っているかによるね。
アリス:どこだってかまわないんですけど。
チェシャ猫:それなら、どっちに行ってもいいさ。
アリス:どこかに着きさえすれば……
チェシャ猫:そりゃ、きっと着くさ。着くまで歩けばの話だけど。

本人の意思が不明確ならば、周囲は何もアドバイスすることができません。

悩みを解消するための近道は、「どうするか?」を明らかにすることにあります。

人生は自分で切り開くもの

「そんなことを言ったって、できないものはできないよ」って、そんな声が聞こえてくるようです。そんな方に、『アラビアのロレンス』の主人公が、砂漠ではぐれた仲間を助けに行くシーンを紹介します。次のような展開がありました。別の仲間から忠告を受けるのです。

「It is written」(彼が砂漠で死ぬことは運命だ)

つまり、はぐれた仲間の命は元々砂漠で尽きる運命だったというのです。だから何をしても無駄、今から助けに行っても意味がないと。しかし主人公は、その忠告を無視して仲間を助けに行き、無事帰ってきます。その時の彼の一言は印象的です。

「Nothing is written」(何も書かれてはいない)

そう、人生に預言書など存在しないのです。人生は自分で切り開くものであると。

運命は決まっていると考えると、行動を起こすことに意味を感じなくなるでしょう。一方、運命は自ら切り開くと考えると、行動を起こすに決まっています。後者の人生は困難が山のように降りかかってくるでしょうが、前者よりもよほど充実した人生を送ることができるでしょう。

ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』の中で次のように言っています。コップに「半分入っている」と「半分空である」とは、量的には同じである。だが、意味はまったく違う。とるべき行動も違う。世の中の認識が「半分入っている」から「半分空である」に変わるとき、イノベーションの機会が生まれる。

物事の状況や認識は我々の脳が生み出します。It is written. と考えるか。Nothing is written. と考えるか。半分しかと考えるか。半分もと考えるか。認識の変化に工夫を加えることで、自分が見ている世界が変わるのです。

=コンサルの思考技術
早嶋聡史
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
Parris daCosta Hayashima K.K. Director & Co-founder
株式会社プラネット・スタジオ 取締役

1977年長崎県出身。九州工業大学情報工学部機械システム工学科卒業。
オーストラリア・ボンド大学大学院経営学修士課程(MBA)修了。
横河電機株式会社においてR&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立。
戦略立案を軸に事業会社の意思決定支援を行う。
また、成長戦略や出口戦略の手法として中小企業にもM&Aが重要になることを見越し、小規模M&Aに特化した株式会社ビザインを設立、パートナーに就任。
M&Aの普及とアドバイザーの育成を目的に、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立し、理事に就任。
その他、時計ブランド「Parris daCosta Hayashima」(パリス・ダコスタ・ハヤシマ)の共同創設者でもある。
また、陶芸アニメ「やくならマグカップも」のスピンオフアニメ「ロクローの大ぼうけん」の製作配信事業の取締役を行う。
現在は、成長意欲のある経営者と対話を通じた独自のコンサルティング手法を展開し、事業会社の新規事業の開発と実現を資本政策を活用して支援する。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせることを主な生業とする。
主な書著に『売上を伸ばし続けるにはワケがある 営業マネジャーの教科書』『ドラッカーが教える実践マーケティング戦略』『ドラッカーが教える問題解決のセオリー』『頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術』(以上、総合法令出版)、『この1冊でわかる! M&A実務のプロセスとポイント』(共著、中央経済社)などがある。

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