本記事は、早嶋聡史氏の著書『コンサルの思考技術』(総合法令出版)から一部を抜粋・編集しています。
理屈とは何かと何かを結びつけること
経営学にアレルギーを示す人の中には、「経営は単なる学問として片付けられるほど単純なものではない!」と主張する方も多いでしょう。たしかに、頭の中で考えたことが100%うまくいくことはほとんどありません。しかし全体の2割くらいは説明することができると思います。そして残りの8割くらいは経営者の勘や経験がモノをいう世界かもしれません。
8割の世界は理屈で表現することが難しい世界です。しかし、勘や経験や運だけで物事を継続しているのであれば、自分を含めて、「なぜ成り立っているのか?」が良く分からないものです。自分が分からないということは、きっと他人に説明しても伝わらないでしょう。
一方で、自分が感覚的に行っている行動や経験を第三者に上手に伝えることができる人がいます。このような技を持っていたら、自分の成功要因を他人に伝授することができるため、生産性が上がります。自分のコピーを生むこともできるし、自分のアイデアを他人に実現してもらうことも可能です。組織の力を最大限に活用することにつながります。
経営学のような理屈とは、何かと何かを結びつける考え方なのでしょう。
つまり、因果関係を明らかにすることです。
自分の経営を振り返り、「なぜ成功したのか?」「なぜ失敗したのか?」「さらに成功するためには何をするのか?」「失敗を事前に防ぐためにはどうするのか?」など現状と将来の結果を結びつけて考える必要があります。これこそが理屈であり、そのときの考え方をサポートするのもまた理屈です。
つまり、何も知らない手探りの状態で現状と将来を結びつけていくよりは、自分なりの理屈をもって、体系的に考える過程で思考が整理されるのです。
このように考えてから行動することで、将来の目標を実現する可能性が高くなります。
経営学と実際の経営を結びつけて考えるときも同じです。現象はコロコロ変わりますが、考えるための根底やベースとなる考え方、つまり理論は変わりません。変わらない理論を知っていて経営を行っているということは、軸足が固定されてパワフルに経営ができるということです。これは人生に置いても活用できます。
単純化されているフレームワークは誰でも使える
今日からすぐに使える実用知識というのはたしかに有益ですが、すぐに使えるからこそ、明日になると陳腐化してしまい、自分の頭から抜け落ちています。重要なことは「原理原則の理解とそれを使っていかに考え抜くか?」ということです。
領域を限定し、考える軸を設定することで、四六時中そのことを考え続けることができます。持続的に1つのことを考えていると、いずれ夢の中にも出てきます。それくらい考え続けると、1つや2つは解決策が出てきます。
ただ、その時に考えるベースが必要です。それは理論ではないかと感じます。理論は普遍的だからこそ、どのような業界でも恒久的に活用することができるのです。
世の中の流れを読みながら何をするのか、他人と違うことを考えながら実行します。マーケティングはそのためのセグメンテーションの概念があり、ターゲティングの概念があり、ポジショニングの概念があります。
マーケティングのSTP理論やマーケティング・ミックスという概念、アンゾフの成長マトリクス、クロスSWOT分析、ポーターの競争戦略である5‐フォース分析やバリューチェーン分析など、考え倒せば素晴らしい解決策を導き出せる考え方がたくさんあります。
素晴らしい理論は単純化されているため、簡単であるからこそ万人が使えるというメリットがあります。何かを考えながら、無意識のうちにその概念を表現するフレームワークを選択して当てはめてみます。フレームワークが常に頭の中に入っていて、必要な瞬間に引き出せるくらいまで何度も何度も考えてみるのです。
理論が簡単であれば他人への説明も簡単です。理解したことを納得してもらえれば、人は行動します。「実現するために、どんなことを調べればよいか?」「どんな人と結びつけばビジネスが成立するか?」「実現するためには何が足りないか?」など、ゴールを達成するためのアイデアをどんどん考えます。
これらのアイデアを事実ベースで検証しながら行動します。物事を深く考えると、自然と上記のような行動がとれるようになるのです。そして、それを行うためにあったほうがよいのが理論の習慣や理解です。
すでに経験や長い歴史をたどった人は暗黙知的に理論を習得しているかもしれません。しかし、学習によって経験や歴史といった時間を買うことができます。学習は、擬似体験のようなものです。その擬似的な体験で得た知識をベースに身の回りに起こっていることや、会社で起こっていることに当てはめて考え倒すことを繰り返すことによって身についていくものだと思います。
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
Parris daCosta Hayashima K.K. Director & Co-founder
株式会社プラネット・スタジオ 取締役
1977年長崎県出身。九州工業大学情報工学部機械システム工学科卒業。
オーストラリア・ボンド大学大学院経営学修士課程(MBA)修了。
横河電機株式会社においてR&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立。
戦略立案を軸に事業会社の意思決定支援を行う。
また、成長戦略や出口戦略の手法として中小企業にもM&Aが重要になることを見越し、小規模M&Aに特化した株式会社ビザインを設立、パートナーに就任。
M&Aの普及とアドバイザーの育成を目的に、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立し、理事に就任。
その他、時計ブランド「Parris daCosta Hayashima」(パリス・ダコスタ・ハヤシマ)の共同創設者でもある。
また、陶芸アニメ「やくならマグカップも」のスピンオフアニメ「ロクローの大ぼうけん」の製作配信事業の取締役を行う。
現在は、成長意欲のある経営者と対話を通じた独自のコンサルティング手法を展開し、事業会社の新規事業の開発と実現を資本政策を活用して支援する。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせることを主な生業とする。
主な書著に『売上を伸ばし続けるにはワケがある 営業マネジャーの教科書』『ドラッカーが教える実践マーケティング戦略』『ドラッカーが教える問題解決のセオリー』『頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術』(以上、総合法令出版)、『この1冊でわかる! M&A実務のプロセスとポイント』(共著、中央経済社)などがある。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。