本記事は、早嶋聡史氏の著書『コンサルの思考技術』(総合法令出版)から一部を抜粋・編集しています。

時計
(画像=Jannissimo / stock.adobe.com)

速い思考と遅い思考

次の問題をなるべく早く解いてください。

  • バットとボールはセットで1ドル10セントします。バットはボールより1ドル高いです。ボールはいくらですか?

多くの人が「10セント」という数字を思いついたことでしょう。この問題の特徴は、すぐに答えが思いつきますが、実はその答えは間違っていることです。計算してみると間違いだとわかりますね。ボールが10セントだったら、バットはボールより1ドル高いので1ドル10セントになります。するとバットとボールの合計は1ドル20セントになってしまい、間違いに気づきます。

人の思考には速い思考と遅い思考が存在します。

速い思考は自動的に高速で脳が判断するため、努力は不要でストレスがかかりません。そして自分で脳をコントロールしている感覚もありません。先ほど説明したような脳の特徴が速い思考を生み出したのでしょう。

一方、遅い思考は、複雑な計算にあえて取り組みます。一般的に遅い思考を使う際は、面倒くさくて、時間がかかります。明らかに脳を使っている感覚を感じることでしょう。先ほどのナインドットのゲームで、枠の外を突き抜けた補助線をみたときは、遅い思考を使って5本から4本を考えたと思います。

速い思考は、瞬間的にアイデアが出る感覚で、遅い思考は論理思考のように時間がかかります。遅い思考の役割は、速い思考が提案した考えや行動を監視し、制御することです。速い思考の提案を許可して行動したり、逆に却下して行動を修正したりします。しかし、この作業は脳に負担がかかるため、時として無視されることもあるのです。そして遅い思考を怠けることで、先入観や思い込みによる間違いを犯してしまうのです。

この問題は、ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のダニエル・カーネマン教授が考えました。有名大学の学生でも5割以上が誤答したといいます。人の脳がいかに非合理的で思考停止に陥りやすいかがわかる問題として有名です。

枠に当てはめて考えることのメリットとデメリット

人は何か考えるとき、これまで慣れ親しんだ考え方に当てはめて考えます。考え方の枠は、これまでに得た知識や経験したこと、過去に学習したことによって、自然にその人の考え方のパターンとして定着します。はじめは意識しながら枠を利用しますが、やがては無意識にあてはめて考えます。魚の向きがそうでしたね。

枠が出来上がると、次に何かを考える場合は、無意識のうちにその枠の中で考えます。枠を作ることで全てを1から考える必要がないので短時間で何らかの解を導きだせます。速い思考のメリットです。

一方、無意識のうちに枠の中で思考するということは、それ意外の可能性をはじめから考えていないことになります。先ほどのナインドットのゲームで5本の直線から4本や3本ができなかったのは、枠の内側で思考した結果でした。脳が効率化を急ぐあまり、固定した視点で物事を見てしまい、発想が陳腐化する可能性があるのです。それらを回避するためにも、自分がどんな枠で考えているかを理解することが大切です。

自分の思考の枠を意識することで、遅い思考に切り替えることができるようになります。遅い思考は、新しいことや初めての取り組みを考える上でとても役に立つ思考です。

ニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を導いたといわれます。月が回っていることと、リンゴが落ちること。これらを結びつけて考えました。普段から相当意識して考え抜いた結果でしょう。意図的に速い思考から遅い思考に切り替えるために、自分の思考の枠を確認し、何事も疑問を持つ態度を大切にする。そのような視点を持つことで自分が捉えている世界が変わっていくのです。

=コンサルの思考技術
早嶋聡史
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
Parris daCosta Hayashima K.K. Director & Co-founder
株式会社プラネット・スタジオ 取締役

1977年長崎県出身。九州工業大学情報工学部機械システム工学科卒業。
オーストラリア・ボンド大学大学院経営学修士課程(MBA)修了。
横河電機株式会社においてR&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立。
戦略立案を軸に事業会社の意思決定支援を行う。
また、成長戦略や出口戦略の手法として中小企業にもM&Aが重要になることを見越し、小規模M&Aに特化した株式会社ビザインを設立、パートナーに就任。
M&Aの普及とアドバイザーの育成を目的に、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立し、理事に就任。
その他、時計ブランド「Parris daCosta Hayashima」(パリス・ダコスタ・ハヤシマ)の共同創設者でもある。
また、陶芸アニメ「やくならマグカップも」のスピンオフアニメ「ロクローの大ぼうけん」の製作配信事業の取締役を行う。
現在は、成長意欲のある経営者と対話を通じた独自のコンサルティング手法を展開し、事業会社の新規事業の開発と実現を資本政策を活用して支援する。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせることを主な生業とする。
主な書著に『売上を伸ばし続けるにはワケがある 営業マネジャーの教科書』『ドラッカーが教える実践マーケティング戦略』『ドラッカーが教える問題解決のセオリー』『頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術』(以上、総合法令出版)、『この1冊でわかる! M&A実務のプロセスとポイント』(共著、中央経済社)などがある。

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