一口に30代といっても、人それぞれである。仕事や家庭環境の変化にも個人差が出てくる。しかし、確実にいえるのはお金にしても時間の使い方にしても、20代と同じままとはいかないことだ。それは老後資金のために毎月支払う、確定拠出年金も例外ではない。今回は、30代の夫婦をモデルにした「DCポートフォリオ」のあり方を考えよう。
子供の養育・教育費のために拠出額を減らしたい
今回、筆者のFP事務所へ相談に訪れた藤本篤さん(仮名 36歳)は、妻のみずほさん(同 35歳)と、二人の娘(2歳、0歳)の4人家族だ。
夫婦ともに会社員だが、みずほさんは現在育児休暇中。篤さんは5年前から確定拠出年金の加入者で、毎月3万円を支払っている。みずほさんも同じ時期に加入し、毎月3万円を支払い、夫婦で6万円の拠出になる。
気がかりなのは、二人目の子供が生まれてからの養育費や教育費の積立である。娘二人が18歳になるまでに一人につき、300万円の教育資金を用意しようとすると、毎月約2万9500円の積立が必要となる。みずほさんの育児休暇中の収入減も考慮して、毎月の確定拠出年金の拠出額を減らす検討をしているとのことだ。そこで筆者は、拠出額を減らすだけではなく、DCポートフォリオの見直しも提案した。
ちなみに、現在のDCポートフォリオは、元本保証型(預金、保険)10%、投資信託(株式)80%、投資信託(債券)10%で構成されている。拠出額を見直す際には、その内訳(ポートフォリオ)の調整も検討したい。以下、具体的に見てみよう。
30代は「まだ」積極的な運用をしても良い
筆者が推奨する「DCポートフォリオ」は以下の通りである。
(1) 年金保険 10%
(2) 投資信託(国内株型) 25%
(3) 投資信託(国内REIT) 35%
(4) 投資信託(海外株型) 35%
(5) 投資信託(先進国債券型) 20%
元本保証型の年金保険は10%、残り90%については元本保証はないものの、先進国債券型を20%に増やしており、比較的リスクはとり除いた形である。20代よりも年金開始までの年数が減ったとはいえ、まだまだ積極的な運用をして良い段階といえる。
少し現実的な話をすると、これから確定拠出年金を始めたり、バランス型を多く取り扱っている金融機関で口座開設をしているのであれば、保険の10%以外はこの「バランス型」で組み合わせるのも良いかもしれない。これは30代で子供ができ、仕事と家庭の両立で忙しくなり、投資の事に心配をしてしまうのを避けるための方法の一つでもある。国内外の株式、債券、REITなどの配分をその時の運用状況に合わせて自動的に調整してくれるので、商品構成で頭を悩ませる必要がないのが特長といえる。
ただし、その分だけ手数料が高めなので、それを踏まえた上で検討に入れるべきだろう。また、バランス型は比較的リスクを軽減した形になるので、その分リターンを得る機会が少なくなることも覚えていてほしい。
「スイッチング」と「配分変更」どちらを選ぶ?
ところで、海外の債券や株式を運用するうえで注意しておきたいのが「為替」である。為替相場の動きは、株式や債券利回りの動きと同じで、日々あらゆるところで情報が流れ変動している。投資対象を海外に置くわけだから、単純に「円安」になれば利益がでて、「円高」になると損失の要因になると考えてよい。
投資信託の海外型の商品には「為替ヘッジ」という言葉によって、同じ名前の商品が2つあることが多い。すなわち、「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」だ。「為替ヘッジあり」は、上記の為替の影響を受けないようにするために、対象の海外貨幣を先物取引などでリスクヘッジする仕組みだ。このリスクヘッジにも当然コストがかかるため、「為替ヘッジあり」の商品は、「為替ヘッジなし」の商品よりも運用するための手数料(信託報酬)が割高となる。その分リターンが低減されることは言うまでもないが、為替のリスクにさらされることもない。
また、ポートフォリオを組み替える際は「スイッチング」と「配分変更」の2つの方法がある点にも注意したい。「スイッチング」とは、いまある運用商品を解約、或いは売却して新たな運用商品に買い換える方法、「配分変更」は毎月の拠出金で買い付ける運用商品の配分比率を変更する方法である。問題はどちらの方法を選択すべきかであるが、今回のモデルケースに登場した30代には「配分変更」を勧めたい。スイッチングの際に発生する手数料(信託財産留保額)などを考慮すると、よほどの理由がなければ、今ある資産を解約や売却するのは得策とはいえない。
ともあれ、30代といえば定年退職までまだ十分な時間を残している。短期間で成果を求めるのではなく、長期的な視点に立った運用を楽しみながら、家族が増える喜びと苦労を、大いに味わってほしい。
佐々木 愛子
ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員Ⅱ種、相続診断士
国内外の保険会社で8年以上営業を経験。リーマンショック後の超低金利時代、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして独立し、販売から相談業務へ移行。10代のうちから金融、経済について学ぶ大切さを訴え活動中。
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