転職,DC,年金
(写真=PIXTA)

年度始めのこの時期は転職などで会社を離れたり替わったりする人も多いはずだ。中には「勤務先で確定拠出年金制度(DC制度)に加入していたのに、転職先にはなさそう」という人もいるだろう。この場合、どうしたらいいのだろうか。

DC制度では原則60歳まで年金を受け取ることができないため、解約してマイホームの自己資金に充てることはもちろん、脱退一時金の要件にあてはまらなければ現金で受け取ることもできない。そこで資産を移す「移換手続き」が必要なのである。

現在の会社でDC制度があり60歳前に転職・離職する場合、資産残高が1万5000円超(事業主返還分を除く)あれば個人型DC制度もしくは転職先の企業型DC制度へ資産を移して続けることになる。

転職後の働き方などにより異なる手続きを5パターンに細分化して確認していこう。

企業型DC制度から個人型DC制度へ

離転職して自営業やフリーランスといった国民年金の第1号被保険者になる、専業主婦(主夫)で国民年金の第3号被保険者になる、もしくは公務員になるときにも個人型DC制度へ移換手続きをすることになる。転職先の企業年金制度(DC制度や確定給付企業年金制度など)の有無によっても手続きが異なる。

(1)転職先に企業年金制度(DC制度や確定給付企業年金制度など)がない、第1号被保険者になる……個人型年金加入者

この場合「個人型年金加入者」と呼ばれ、自分で掛金を払いながら続けることができる。掛金は会社員が月額最大2万3000円、第1号被保険者で月額最大6万8000円だ。掛金は全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)になるため、所得税・住民税が安くなるメリットがある。

移換手続きは自分で「運営管理機関」である証券会社や銀行等に口座開設することから始める。金融機関により扱う運用商品ラインナップや口座管理料などの手数料が異なるためいくつか比較検討しておきたい。もちろん元の勤務先で運用していた商品はすべて解約してから移換することになる。

移換手続きは、退職の翌日が属する月の翌月から6か月以内(3月31日退職なら10月末日まで)に済ませなければ、資産が「国民年金基金連合会」へ自動的に移換される。こうなると掛金を積むことも運用をすることも受給の請求をすることもできない状態になる。そして移換手数料が発生したり、移換から4ヶ月が経過すると毎月103円の管理手数料が資産から差し引かれたりする。そうならないためにも移換手続きは忘れずにしておきたい。

(2)転職先にDC制度はなく他の企業年金制度がある、第3号被保険者、公務員になる……個人型年金運用指図者

この場合「個人型年金運用指図者」と呼ばれ自分で掛金を払うことはできない。「継続個人型年金運用指図者(下の(4)に当たる)」に当てはまらなければ脱退一時金を受けることもできないため、今の資産の運用だけができる状態だ。

運用するためにもまずは同様に自分で運営管理機関の決定から始める。なお2017年4月からは法律改正により専業主婦(主夫)で国民年金の第3号被保険者や公務員も(1)個人型年金加入者になれる予定だ。

脱退一時金の要件

加入期間や資産残高が一定の要件にあてはまる場合、希望をすれば60歳前に資産を受け取れるのが脱退一時金だ。

まずDC制度の資産が1.5万円以下で資格喪失日(退職日の翌日)の属する月の翌月から6カ月以内であれば脱退一時金を受け取れる。1.5万円か否かの計算方法は細かく決まりがあるため元の勤務先の運営管理機関に問い合わせてみると良い。

1.5万円を超えていて6カ月を経過していても、資産が50万円以下であることやDC制度の加入期間が3年以下であれば脱退一時金を受けられる可能性が高いため国民年金基金連合会に請求をしてみると良い。あくまでも要件にあてはまった上で希望すればのことであり脱退一時金を請求しなくても良い。当然、セカンドライフのために個人型DC制度として継続もできる。

継続個人型年金運用指図者

「継続個人型年金運用指図者」とは個人型年金運用指図者((2)に当たる)となり、2年が経過した者をいう。この場合でもDC制度加入期間が3年以下であり資産が25万円以下であるなど一定の要件にあてはまれば脱退一時金を受けることができる。

ただし継続個人型年金運用指図者になってから2年経過すると手続きができなくなる。要件にあてはまり脱退一時金を希望するのなら早めに手続きを済ませておこう。

個人型DC制度→企業型DC制度のある会社へ就職

(1)個人型年金加入者や(2)個人型年金指図者、継続個人型年金運用指図者で脱退一時金を受けていない人は、就職先に企業型DC制度があればそちらに資産を移すことになる。

(1)個人型年金加入者は運営管理機関(金融機関等)に「加入者資格喪失届」を提出する。その上で資産を就職先で企業型DC制度へ移換する手続きしてもらうことになる。

この移換手続きは(2)や継続個人型年金運用指図者の場合も同様だ。

DC制度と長く付き合う

DC制度では手続きのために自らが動く必要がある。「よく分からないから」と放っておくと知らぬ間に国民年金基金連合会から通知が届いたり管理手数料が差し引かれていたりする。そんなケースを筆者も多く見てきた。

確定拠出年金制度が始まって10年以上が経過し、企業型DC制度から個人型DC制度へ、もしくはその逆や企業型DC制度から企業型DC制度へ、というように制度間を行き来するケースが増えてきた。

一方で企業内では離転職時の手続きを周知できていないのが現状だ。自分の大切な老後の資産なのであるから必要な手続きを怠らず長く連れ添ってほしい。

中谷俊雄 FPオフィスライズ代表
個人相談、法人の福利厚生メニュー「FP相談室」、各種マネーセミナーを開催、FP技能士資格の取得講座は累積2000時間を超える。著書に『ズバリわかる!FP技能検定3級』(ナツメ社)がある。帯広コア専門学校・札幌学院大学非常勤講師。