確定拠出年金,信託報酬,節税
(写真=PIXTA)

2001年から制度化された確定拠出年金制度。言葉は聞いたことがあっても、多くの人はいまいちその仕組みについて理解が進んでいない、といのが実情だろう。

年金制度の危うさが問題になっていることは、いまさら説明するまでもない。年金を受け取れないかもしれないということに対しての、リスクマネジメントを自身で行っていかなくてはいけない時代になったとも言えるだろう。そんな中で、今回の確定拠出年金は、あなたの一つの選択肢となるかもしれない。

今回は、そもそも確定拠出年金の内容について、詳しく知らないという方、実際に検討している方のために、基本的な部分から解説していく。


確定拠出年金とは

確定拠出年金とは、2001年10月から制度化された私的年金のことである。私的年金とは、加入の義務がある公的年金とは違い、任意選択の年金制度のことを指す。アメリカでは、401Kという確定拠出年金が古くから制度化されており、日本版401Kとも呼ばれている。日本の年金制度上は、国民年金が第1段目、厚生年金が第2段目とされており、確定拠出年金は、さらにその上の第3段目の年金制度である。

公的年金や企業年金といった制度は、確定給付年金と呼ばれている。これは、国や企業が年金の額を決めるものである。一方、確定拠出年金は加入者自信が資産を運用し、将来受け取る年金の金額を決めるものであるという大きな違いがある。

確定拠出年金には、個人型と企業型というものが存在する。それらに重複して加入することはできないため、どちらかに加入するということになる。それぞれ見ていこう。

個人型の確定拠出年金とは

企業年金の対象になっておらず、かつ企業型の確定拠出年金の対象になっていないものが加入することができる。会社で企業年金の仕組みがないものや、自営業の方が対象と言える。掛金はすべて自己負担となる。

企業型の確定拠出年金とは

労使合意に基づき、確定拠出年金を実施する企業の従業員が加入するものである。掛金は企業が負担するが、「マッチング拠出」という仕組みがあり、それに加え一定のルールのもと加入者が拠出することも可能だ。一定のルールとは、個人の拠出額が企業の拠出額を超えないこと、企業と個人の拠出額の合計が月55,000円を超えないことがある。ただし、他に企業年金がある老婆には、月27,500円が限度額となる。

これが、確定拠出年金の基本的な部分であるが、2016年5月に確定拠出年金改正法が成立した。従来、専業主婦(第3号被保険者)・公務員、上記で説明した企業年金加入者は、この制度に加入ができなかったが、2017年1月1日より、それらのものも対象者となることとなった。また、中小企業向けの簡易版DC、個人型DCへの小規模事業主掛金納付制度というものも創設される。このように、確定拠出年金制度の間口は広がってきているのだ。

確定拠出年金のメリット

では次に、確定拠出年金のメリットについて見ていこう。

確定拠出年金最大のメリットは、税制面での優遇であろう。個人型の場合は拠出している全額を、企業型の場合「マッチング拠出」により個人が拠出している金額が全額控除の対象となるのだ。つまり、節税に大変効果的な制度であると言える。

確定拠出年金は金融機関で商品を選び加入し、運用するというかたちをとる。本来投資を行って得た運用益は課税対象となるが、確定拠出年金制度を利用していれば、それらが非課税となるという点も魅力だ。

また、確定拠出年金の口座を開設するとIDとパスワードが付与される。自分の口座にアクセスすることで、残高や運用状況が容易に確認できるという点も、透明性がありメリットと言える。

確定拠出年金のデメリット

では、デメリットはどうだろうか。2つのデメリットについて解説していく。

手数料の問題

確定拠出年金の口座を開設する際には、手数料がかかる。2,777円という金額を設定している金融機関が多いが、中にはそれ以上の金額がかかるところもある。その2,777円は国民年金基金連合会に支払われるものだ。
また、毎月103円を国民年金基金連合会に支払う必要があり、加えて委託先金融機関、運営管理機関にそれぞれ数百円の手数料を毎月支払うことになる。小さな金額ではあるが、長い目で見るとかなりの差が生まれる部分でもある。金融機関により、手数料の金額は異なるので、加入を検討する際にはその点も慎重に吟味してほしい。

途中解約の問題

確定拠出年金は原則60歳からの受け取りになるため、途中解約の場合は脱退一時金としての支払いを受けることになる。これには、通算拠出期間が3年以下か、個人別管理資産額が50万円以下であることの条件に加え、細かなルールが設定されている。手続きの煩雑さを考えると、途中解約をすることになった場合には、色々とデメリットがありそうだ。

確定拠出年金への加入条件

先に触れたように、確定拠出年金に加入するためにはいくつかの条件がある。ここでは、加入条件についてもう少し詳しく解説していく。

日本国内に居住している20歳以上60歳未満で自営業とその家族、自由業や学生などの国民年金の第1号被保険者(A)、60歳未満の厚生年金保険の被保険者が現在の加入資格を有する者(B)である。ただし、(A)の場合には農業者年金の被保険者、国民年金の保険料を免除(一部免除を含む)されている方は対象外となっている。(B)の場合には、勤務先で厚生年金基金、確定給付企業年金、石炭鉱業年金基金のいずれかに加入している方と、すでに企業型年金に加入している方は対象となっていない。

また、現時点では公務員など共済組合に加入している方や、厚生年金や共済組合に加入している方の被扶養配偶者、つまり専業主婦の方は加入できない。ただし、先ほどの法改正の話で触れたように、2017年1月より、加入条件の変更が行われるので、これらの方も加入が可能になる。

確定拠出年金の手数料について

デメリットの部分で説明をした手数料について、もう少し詳しく見ていくことにしよう。

確定拠出年金に掛かる手数料は、大きく分けて4つある。一度だけ支払う口座開設時の手数料、管理・運営に掛かる手数料、給付の際の手数料、信託報酬だ。ただし、通常投資信託などの購入には、販売の手数料がかかるが、確定拠出年金の場合はその手数料はかからないものがほとんどである。

口座を開設するためには、最低でも2,777円(税込)の費用がかかる。これは先ほど説明したように、国民年金基金連合会に支払われるものだ。それに加え加入している期間は、毎月103円(税込)、年間で1,236円を国民年金基金連合会に支払い続けることになる。つまり、加入初年度は1月に加入すれば4,013円の手数料を国民年金基金連合会に支払う計算になる。

さらに、毎月掛かる手数料として口座管理手数料がある。野村證券株式会社の場合、事務委託先金融機関手数料として64円(税込)年間で768円が掛かる。先ほどの国民年金基金連合会に支払う手数料と合わせると加入初年度の手数料合計は、8,885円の手数料が発生する計算になる。

また、給付を受ける際にも手数料が掛かる。これは、給付手数料と呼ばれ60歳になり給付を受ける際に毎月かかるものである。ほとんどの金融機関では月432円と設定されている。

信託報酬とは

確定拠出年金では、運営管理機関を通して投資信託などの商品に投資することになる。そのため、前項で説明をした手数料とは別に信託報酬として年に数パーセントの信託報酬が掛かる。

これらは商品よって異なるが、長い目で見たときにはかなり大きな金額の差となるので、そうした項目にも目を向ける必要があると言える。

ただし、説明したように運用益に対しては非課税であるので、税金の心配をする必要はない。

節税について

確定拠出年金の最大のメリットとして取り上げた節税について、もう少し詳しく見てみよう。

繰り返しになるが、拠出した掛金は全額控除の対象となる。扱いは、所得控除という項目になる。つまり、所得税・住民税の節税をすることができる。

確定拠出年金には、老齢給付金、障害給付金、死亡一時金という種類がある。60歳を迎えて給付を受けるものは老齢給付金である。老齢給付金の給付を受ける場合には、公的年金等控除が、死亡時一時金で受給する場合には退職所得控除という項目にそれぞれ該当する。

確定拠出年金法に定められている記録関連運営管理機関として記録関連業務を行っている日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー株式会社のサイトでは、加入資格のチェックや、具体的にどれくらいの節税になるのかといったシミュレーションを行うことができる。確定拠出年金でどれくらい節税できるのか、興味のある方は活用してみてはいかがだろうか。

確定拠出年金の落とし穴

魅力的な面が多くある確定拠出年金だが、先に挙げたデメリットに加えて、こんなこともぜひ覚えておいていただきたい。

確定拠出年金は自身で選択し、自身で管理するのが大原則である。そのため、自己責任という側面が非常に大きな制度であると言える。つまりそれは、運用次第で受け取る金額が変わってくるということも意味している。受け取る金額が決まっていない、とも言い換えることができるだろう。少なからず自らが選ぶ商品に対しての知識をつける必要がある。

また、内容がわからないものを金融機関の窓口で勧められたからといって、決めてしまうのも考えものだ。確定拠出年金は、購入手数料はかからないものが多いが、信託報酬の利率は金融機関や商品によって異なっている。窓口で勧められたものは、金融機関が販売したい手数料の高い商品という可能性もあるので、十分注意したい。

また、老後の資金のためと考えるのであれば、まず一体いくらの費用が必要なのか、各々が計算をしておく必要があるだろう。それによって、選ぶ商品が変わってくることはもちろん、確定拠出年金以外の選択を検討する方が得策な場合だって出てくるかもしれない。

例えば、毎月一定額を定期預金として積み立てており、それは老後の資金として十分なものである、という場合にはそれは定期預金ではなく、確定拠出年金を利用した方が節税というメリットから、総合的に得をするということもあるだろう。

一方で、老後は世界を旅行して周りたいなどの夢がある場合には、一般的に試算された用語に必要な費用はあてにはならない。そうなると、少しアクティブな投資を行って大きく増やす方向性を取ってみる、というのも選択肢である。その場合、必ずしも確定拠出年金を利用することが最適とは言えないかもしれないのだ。

確定拠出年金は、資産運用の一つの選択肢に過ぎない。税制面でのメリットが大きいことから、よくわからないまま加入してしまい、拠出ができなくなり、解約してしまっては意味がない。あなたの先々の人生を見据えて、考えていく必要があるだろう。

これからの動向もチェック

ここまで、確定拠出年金の基本的な部分について解説をしてきた。

2014年にはNISAが制度化された。これはイギリスのISAという制度がもとになっている。こちらも言葉は知っていても、内容について深く理解している人は意外と少ない。

確定拠出年金も401Kというアメリカの制度を日本に取り入れたものである。それぞれ、外国での実績や反響を検証した上で、取り入れられた制度と言えるが、まだまだ国民全員に十分に浸透しているとは言い難い。

見てきたように、確定拠出年金という制度は、税制面でのメリットはかなり大きい。少なくとも、タンス預金をしているならば、この制度を利用しないと逆に損をするということになってしまう。

こうした情報は、知っているか知らないかで、大きな差が出てくるものである。もし、あなたが明確な老後の計画があり、節税できる可能性が高いのであれば、ぜひこの確定拠出年金の制度を活用してほしい。

そして、本格的な資産運用をしたいと思っている方には、選択肢の一つ、またはポートフォリオの一つとして検討してみるのもいいだろう。

また、今後確定拠出年金がどのような扱いになっていくのか、そうした部分にもぜひ注目して行ってもらいたい。2017年には、加入条件が緩和される。今後さらなる改正があるかもしれない。日本が今後力を入れていく制度の一つであるとも言えるだろう。